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賢者、勇者のひとりに会う。

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朝靄に紛れて、私はリム、ローレンス、マーリウスの3人だけに見送られ、王都へと旅立った。

まずは領主に挨拶するべきかと思ったが、リムから「止めた方がいい」と忠告されたため、素直に従った。
彼女によると村長は素朴でいい人なのだが、この集落を含めた一帯を治めるリンボール伯爵は出世欲も金銭欲も強く、おまけに支配欲も強いらしい。
そんな人がわざわざ古代語を翻訳できる才人であり『賢者』の称号を手に入れた私や、リムのような王家お抱えだった魔術師を領地から出すわけがないと言われたのだ。
「どこかへ旅立つにしても、必ずこの家に帰ってくることが条件付けられ、下手をすると契約魔法で縛ってくるという話です。私もこの集落に永住するつもりだと村長に言ったら、『領主様には言わない方がいい。この地と王宮とを往復する必要があり、王様と契約していると言わないと自分の人的資産として搾取されるから』と忠告されました。先生がここにいるのも、親戚の家を管理するためということで特に報告はしてないということですが、集落自体は『大規模孤児院施設』と認識されているそうで、視察に来るというのを止めるのが精一杯だとか」
「だからですね!師匠は早めに旅立った方がいいんです!!」
「そうそう。俺たちは……あー……リムさんは隠れてもらうとしても、俺たちふたりなら凡人だからそんなに注目されないはずだし。万が一を考えて、この家は隠してもらわないといけないと思うけど」
「あ……そ、そうですね……」
私がこの家を出てしまえばまた結界魔法が発動するかと思うが、確かにリムと同じように解除できる魔術師を連れてこないとも限らない。
何せこの家の地下には古代語の原書が秘蔵され、私自身が管理を任されているも当然なのだ。
「とりあえず私は集落の入り口を始めとして、あちこちの建物に『集落に住んでいない人が踏んだら発動する』っていう魔方陣を刻んでおきます。もういくつか設置しているんですが。発動したらこの家に私自身が転移して結界をさらに強固にする設定になってますから、見つかることはないですよ。だから安心して!ねっ!!」
何が安心で、ねっ…なのか──そう思わずにはいられなかったが、3人とも私が旅立つことは必然で、しかも急いだ方がいいと思われているのはわかった。
わかったから──遠慮なく、私はリムの紹介状を携えて王宮を訪ねることと冒険者ギルドで能力査定や称号が変更されているかなどの手続きに向かうことを決めたのである。


ローレンスからもらったローブを羽織ると領都を出るまで私と認識しづらくなる範囲限定の魔術が掛けられており、マーリウス手彫りの杖を手に取ると3人との絆が刻まれていることに気付き、リムの手縫いのバッグを覗くと旅に必要なテントや寝袋だけでなく、浄化水や新鮮な果物、野菜、肉、魚といった食べ物、読みかけの本が50冊ほどと、いくらでも書き込める魔法のノートやペンといった娯楽までもが入れられていることがわかって思わず笑みが浮かんでしまう。
「……幸せ者ですよ、『今の私』は。あなたたちに出会えて……本当に、良かった」
「もう!確かに『魔王』に会いに行くかもしれませんけど‥…ちゃんと生きて帰ってくるんですよ!」
「そうですよ。私の娘の子供の名付け親になってくれると約束していただいたの、忘れないでください」
「えっ?!ナニソレっ!!お、俺も!!三つ子の名付けは間に合わないけど、その子たちが結婚して子供生まれる時は絶対!ねっ、師匠!!」
3人それぞれの気遣いも、見送りの言葉も、私にはとても嬉しかった。
確かに家族に恵まれた人生もあったが、冒険者として転生した時はあまり仲間には恵まれなかったような気がする。
これから私はまた冒険者としてやっていくのだろうが、この人生では今目の前にいる3人と同じように心を通わせることができるだろうか──

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