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賢者、勇者のひとりに会う。
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集落を出て村も通り過ぎ、領主のリンボール伯爵が直接統治するという領地の真ん中にあるフェリス市も避けて、私はひたすら王都を目指した。
以前は国境を越えてかつての自分の家を目指すのが精いっぱいで、周囲の景色を見る余裕なんてなかったが、15年経った今では『賢者』としてもフリーの冒険者としても成長しているおかげで、警戒しながらも進行方向に何があるのかを楽しみに待つ余裕がある。
「私も成長しましたねぇ……なんて考えられるのも、やっぱり私自身が今まで生きてきた『人生』をちゃんと取り戻せたからですかねぇ」
などとのんびり独り言を言いながら、なるべく人目に付かない木陰で、リムが入れてくれたサンドイッチの包みをひとつだけ開けて昼食にした。
夜になれば獣除けも兼ねて焚火をすることも考えているが、昼間から煙を上げていらぬ好奇心を掻き立てたくはない。
温め直さなくても美味しく食べられる料理を入れてくれるリムは、本当に集落の『お母さん』だ。
じゃあ『お父さん』は……?と疑問に思うけれど、それはきっと私ではないだろう。
双子のどちらかというとローレンスが優しいお父さんで、マーリウスが明るくちょっと子供っぽい叔父さん役にぴったりだと思う。
「ふふっ……確かに『今の私』は3人よりも年下だけど、精神年齢的には『長老』だものねぇ。ああ、もう帰りたくなってきちゃった……」
そうは言っても出てきたのはまだ今日の夜明けで、懐かしくなるのが早すぎる。
自分の甘えた気持ちを秘かに笑いながら、久しぶりの『ひとりご飯』を青空の下で終えた。
いろいろと迂回したのは正解だったようである。
今夜から野宿をしようかと思っていたが、この国へ来た15年前に護衛した人たちと共に泊まった『ザイ』という町がこの先にあることを思い出し、私は宿屋を目指して検問らしき門番へ近づいた。
「おぉっ!珍しいですね。どちらからですか?」
柔らかく話しかけてくれたのは、初老の兵士だった。
特に私のことを怪しんでいるわけではないようで、おそらく彼の決まり口調なのだろう。
しかし──私が集落ではなく村の名前を出すと、目がスッと細められ、口元に浮かんでいた笑みが作り物に変わったのを感じた。
「ほぅ……ケイミ村……あそこでは何か親無し子たちを集めて、兵隊作りをしているとか?」
「ええっ?!そんな噂が流れているんですか?校長先生たちがビックリするでしょうねぇ」
「こ、校長?」
「そうですよぉ。兵隊どころか、学び舎と宿舎を作って、畑仕事の勉強をさせてるんですよ。ケイミ村では農業とちょっとしか牧畜がいないから、少しでも優秀な農夫を育てたいって村長が熱心なんですよ。わた…僕はどうもそういう土臭いのは無理で……数字だけ教えて、次の先生が来たから出てきちゃったんですよ~」
「ほぉ……あ、こっちの人じゃないんだね?え?ダヴィッテ国から?ずいぶん前に越して来たんじゃないか!」
「ええ。曾祖父があの村の出身で。遺言で『ケイミ村に墓を建ててほしい』って言われて来たんですけどね。両親がもういい歳になってきたから、もうそろそろ帰ろうかなぁ……って」
マーリウスが適当に考えてくれた『私の経歴』をしっかり暗記してきてよかった。
まさかこんなに怪しまれるとは思わなかったが、どうやら思っていたより私たちの『学び舎』は領主の興味を引いていたらしい。
「そうなんだ……じゃあ、その『学び舎』ってところになんかすごい魔法使いがいるとかって、本当かい?領主様がお抱えにしたいって言うんだが……魔法使いなんて、本当にいるのかねぇ?」
「魔法使い?……魔法のように美味しい料理を作ってくれる人たちはいましたけど……魔法使いって、確か王都にしかいませんよねぇ?」
「そう!そうなんだよ!やっぱりそうだよなぁ……しかもこんな田舎の町に魔法使いを抱えたって、何にもならないよなぁ?いったい領主様は何を考えているんだか……」
魔法使いや魔術師、錬金術師がいれば領主が持つ私兵の威力は上がるのだから、私にはその職業の人間を抱えたい理由がわかるのだが、門番は『魔法使い』がどんな仕事をするのかわかっていない顔をしている。
「まあ……珍しい人を見たいのかもしれませんねぇ?あ、ところでこの町って冒険者ギルドってありましたよね?僕が15年前に来た時に泊まった宿もあるのかなぁ?」
「おぉ?来たことがあるのかい!?そりゃあ嬉しいねぇ。この大通りをまっすぐ行って、大広場があるから、そこにギルド街があるよ」
私がたった1度だけだがこの町に来たことがあると言うと、門番の態度がころっと変わったのが可笑しい。
最初からそう言えばよかったのか──私は今までのやり取りに少し疲れながらもようやく町へ入れてもらえたことに安堵した。
以前は国境を越えてかつての自分の家を目指すのが精いっぱいで、周囲の景色を見る余裕なんてなかったが、15年経った今では『賢者』としてもフリーの冒険者としても成長しているおかげで、警戒しながらも進行方向に何があるのかを楽しみに待つ余裕がある。
「私も成長しましたねぇ……なんて考えられるのも、やっぱり私自身が今まで生きてきた『人生』をちゃんと取り戻せたからですかねぇ」
などとのんびり独り言を言いながら、なるべく人目に付かない木陰で、リムが入れてくれたサンドイッチの包みをひとつだけ開けて昼食にした。
夜になれば獣除けも兼ねて焚火をすることも考えているが、昼間から煙を上げていらぬ好奇心を掻き立てたくはない。
温め直さなくても美味しく食べられる料理を入れてくれるリムは、本当に集落の『お母さん』だ。
じゃあ『お父さん』は……?と疑問に思うけれど、それはきっと私ではないだろう。
双子のどちらかというとローレンスが優しいお父さんで、マーリウスが明るくちょっと子供っぽい叔父さん役にぴったりだと思う。
「ふふっ……確かに『今の私』は3人よりも年下だけど、精神年齢的には『長老』だものねぇ。ああ、もう帰りたくなってきちゃった……」
そうは言っても出てきたのはまだ今日の夜明けで、懐かしくなるのが早すぎる。
自分の甘えた気持ちを秘かに笑いながら、久しぶりの『ひとりご飯』を青空の下で終えた。
いろいろと迂回したのは正解だったようである。
今夜から野宿をしようかと思っていたが、この国へ来た15年前に護衛した人たちと共に泊まった『ザイ』という町がこの先にあることを思い出し、私は宿屋を目指して検問らしき門番へ近づいた。
「おぉっ!珍しいですね。どちらからですか?」
柔らかく話しかけてくれたのは、初老の兵士だった。
特に私のことを怪しんでいるわけではないようで、おそらく彼の決まり口調なのだろう。
しかし──私が集落ではなく村の名前を出すと、目がスッと細められ、口元に浮かんでいた笑みが作り物に変わったのを感じた。
「ほぅ……ケイミ村……あそこでは何か親無し子たちを集めて、兵隊作りをしているとか?」
「ええっ?!そんな噂が流れているんですか?校長先生たちがビックリするでしょうねぇ」
「こ、校長?」
「そうですよぉ。兵隊どころか、学び舎と宿舎を作って、畑仕事の勉強をさせてるんですよ。ケイミ村では農業とちょっとしか牧畜がいないから、少しでも優秀な農夫を育てたいって村長が熱心なんですよ。わた…僕はどうもそういう土臭いのは無理で……数字だけ教えて、次の先生が来たから出てきちゃったんですよ~」
「ほぉ……あ、こっちの人じゃないんだね?え?ダヴィッテ国から?ずいぶん前に越して来たんじゃないか!」
「ええ。曾祖父があの村の出身で。遺言で『ケイミ村に墓を建ててほしい』って言われて来たんですけどね。両親がもういい歳になってきたから、もうそろそろ帰ろうかなぁ……って」
マーリウスが適当に考えてくれた『私の経歴』をしっかり暗記してきてよかった。
まさかこんなに怪しまれるとは思わなかったが、どうやら思っていたより私たちの『学び舎』は領主の興味を引いていたらしい。
「そうなんだ……じゃあ、その『学び舎』ってところになんかすごい魔法使いがいるとかって、本当かい?領主様がお抱えにしたいって言うんだが……魔法使いなんて、本当にいるのかねぇ?」
「魔法使い?……魔法のように美味しい料理を作ってくれる人たちはいましたけど……魔法使いって、確か王都にしかいませんよねぇ?」
「そう!そうなんだよ!やっぱりそうだよなぁ……しかもこんな田舎の町に魔法使いを抱えたって、何にもならないよなぁ?いったい領主様は何を考えているんだか……」
魔法使いや魔術師、錬金術師がいれば領主が持つ私兵の威力は上がるのだから、私にはその職業の人間を抱えたい理由がわかるのだが、門番は『魔法使い』がどんな仕事をするのかわかっていない顔をしている。
「まあ……珍しい人を見たいのかもしれませんねぇ?あ、ところでこの町って冒険者ギルドってありましたよね?僕が15年前に来た時に泊まった宿もあるのかなぁ?」
「おぉ?来たことがあるのかい!?そりゃあ嬉しいねぇ。この大通りをまっすぐ行って、大広場があるから、そこにギルド街があるよ」
私がたった1度だけだがこの町に来たことがあると言うと、門番の態度がころっと変わったのが可笑しい。
最初からそう言えばよかったのか──私は今までのやり取りに少し疲れながらもようやく町へ入れてもらえたことに安堵した。
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