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賢者、勇者のひとりに会う。

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ギルドマスターの動きは早く、その日のうちに自衛団の中で孤児の人身売買及び幼女買春、そして私が手に入れた少年──リアムへの性的虐待に加担した男たちを断定し、断罪した。
何故それをリアムを最初に殴った時に、否、殴る前に行えなかったのか。
「……いいよ。大丈夫だよ、俺……こいつらが同じ目に遭わなかっただけ、本当に良かった、と、おもっ……」
グッと涙を袖で拭うリアムの腕の中で、3歳の女の子がスゥスゥと眠っている。
さっきギルドマスターが運び込んでくれた大人20人前はありそうな料理を食べた子供たちは、風呂に入る前に眠ってしまい、私とリアムだけが起きていた。
「そうだね。本当に良かった。だけどやっぱり、私は君もそんな目に遭わなかったほうが良かったと思うよ」
「せっ、先生ぇ……」
私がそう呼べと言ったわけでもないのに、リアムは何故か私を『先生』と呼んですぐに定着してしまった。
いったい私の何が『先生』と呼ばれる要素になるんだろうか?
「うんっ…うんっ……」
頷き、まだ止まらない涙を拭いながら妹の口の周りを汚れを取ってやる。
むにゃむにゃと口を動かすのは、夢の中でもまだご馳走を食べているのかもしれない。
「……俺の、前にもいたんだ……兄ちゃんと、姉ちゃんと……ほんとのきょうだいじゃなかったけど……何人も……みんないつの間にかいなくなっちゃって……女の子は、みんなあの男や他の男たちに……乱暴されると、すぐにいなくなった。あれが……きっと、『客』だったんだ……」
「そんな……」
男の子はスリを行っても同情されるためか、3歳ぐらいから店先にある商品を取って来るとか、老人の前で転んで助け起こされる時に何かしら盗めと教え込まれるらしい。
そうやって子供たちの『稼ぎ』で女の子を育て、育った女の子を傷物にして売りつけ、それでまた孤児院から乳児を買って──反吐が出る輪が出来上がっている。
「……やっぱりその話、俺にも聞かせてくれ」
さすがに痛めつけた子供と仲良く食事などはできないと遠慮していたギルドマスターが入ってきた。
ぶらぶらと左手を振りながら入ってきたが、何故か握ったり開いたりもしている。
「さすがに自衛団……忍耐強さはいいことだが、口を割らせるのに時間がかかった。ミウのおかげで短縮できたが……」
「みう?」
「ああ。見た目は小さな女の子なのに、えらい強弓の使い手でな。そいつが『殴ったりけったりしたら単に気絶させるだけだから、いっそのこと擽りまくっては?それがダメな人だけ殴る。その方が効率いいし。痛みには慣れているから我慢できるかもしれないけど、擽られるのって結構辛かったり不快だったりするらしいですよ?』って言われて。ガキ相手にやるんじゃないからどうしたもんかな~…と思っていたら、これまた『擽り棒』とかいうのを持ってきてな~……小さな手指が先っぽについて握りのところにある取っ手を握るとそれが開いたり閉じたりして、子供同士が向かい合って擽り合うとかいう玩具らしいんだが……お前ら子供って、何でも遊びにしちまうんだな~」
「何だよ、それ?俺はそんな物で遊んだことなんかねぇよ」
落ち着いてきたらまた怒りがわいてきたのか、リアムがギロリとギルドマスターを睨みつける。
言っては何だが、私自身も生きていくために冒険者の荷物運びやら何やらしていたから、そういったおもちゃなどで遊んだことはない。
「ウッ……す、すまん……」
どうやらギルドマスターは両親が揃っているだけでなく、それなりに裕福な家の出身のようだ。
この分では『孤児院』という施設の名前は知っていても、内情がどうだというのかはまったく知らないか、今まで興味すら抱いていなかったのだろう。
「……どうせあんたにとっては、『孤児院』なんて怠け者の親がガキ作るだけ作って始末できなかったから捨てるだけの『ゴミ箱』みたいなもんなんだろう?ああ、そうだよ!お綺麗なところはお貴族様の慰み物で潤って、ゴミ溜めみたいなとこは預かったガキ売って潤ってんだよ!何で綺麗な人形みたいなお妾が口も利かずに、家中のモンの暴力にも耐えて旦那様の後ろに座っていると思っている?顔が変わっても、同じ人形がいると思う?」
「ま……さか………」
「替えの利く『人形』なんか、だぁれも気にしないもんな!『ああ、飽きたのか』……ってな。じゃあ、その飽きられた人形は?どこ行った?調べたことあんのかよ?あぁんっ?!」
場末であっても娼館にでも売られていればいい方だ──だが一度でも貴族の『持ち物』になった女の行く末は、おそらくは、もう、きっと──
言外の指摘に、ギルドマスターは顔を青褪めさせる。
「本当に、『自衛団』とはいい隠れ蓑。それらがいて、平民の中の小さな悪を見やすく、強者が弱者を痛めつける。弱者は口を噤む。訴えようと、正当を説こうと、『お前たちのような屑が言うことなど、信用に値しない』と切り捨てられると知っているから」
リアムに乗るわけではないが、私も腹に据えかねているのだ。

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