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賢者、王都で面倒に巻き込まれる。

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意外な結果に少し驚いたけれど、私はそれを表情には出さず、テーブルの上で待ちくたびれたようにトントンと指で合図する。
ミウがチラリと私を見て、少しだけ目を細めてから親しげにペロリと舌を出した。
「えぇ~っとぉ……うぅ~ん……まだ決めらんない!パト様、先に決めて!!」
グイッとメニューを押しつけられ、少し拗ねた顔のミウがさりげなく辺りを見回す。
さすがに後方から援護射撃をする弓使いだけあって、索敵魔法は慣れているらしく、私と同じように意外な監視役を感じてわずかに目を見開いた。
もちろんその男がいる方には目を向けずにいるが、わずかに動きが止まる。
「とりあえずおすすめドリンクをふたつ」
「はい」
「あとお持ち帰りをお願いしたいんで、もう少しメニューを見てていいですか?」
「はい!もちろんですよ!」
元気良く店員が店内の厨房にオーダーを伝えに行っている間に、顔を寄せるように私とミウは簡単に注文する料理とこの後のことを相談する。
「疲れちゃったから、やっぱり別の店に行くのは明日でもいいかな?」
「そうですね!疲れて寝坊しちゃったら、王宮のギルドと言えど、やっぱりちょっと印象悪いですしね!」
実際には王宮ギルドに行くわけではないが、あの男がどこまでこちらの会話を盗み聞きしているかわからず、ちゃんとした話をするには、やはり部屋に戻るしかないだろう。
ミウもそのことをわかっているのか、微かに頷きながらウル用ではないしっかりした肉料理をいくつか選んでいた。
「ウルの分は、道の反対側に良い肉屋さんがあるから、そこで買ってあげるね!」
部屋に肉が溢れそうだが、そこはまあ後でどうにかなるだろうと、私は苦笑しつつ嬉しそうに尻尾を振るウルと笑顔でその頭を撫でるミウを眺める。
そうして運ばれてきたドリンクを飲みつつ、ミウが小さい頃にこの辺りで迷子になった話を聞き、注文した料理が届くのを待った。


しばらくしてから持ち帰り用の麻袋に入れてもらった料理は、何かしらの付与がされているらしく匂いも漏れない。
どんな仕掛けなのか知りたくてたまらず、私はソワソワと袋の方ばかり気にしてしまう。
「……パトリック賢者様って、本当にこういった物が好きなんですねぇ」
「うん。知らない魔術とか使い方があると思うと、知りたいんですよ……病気に近いかも」
ミウがクスッと笑ったが、私もこれが自分でなかったらやっぱり笑ってしまうかもしれない。
そうしながら私たちは元来た道を反対側に渡って戻りながら、ミウお薦めの肉屋の前で足を止める。
「ここのご主人が美味しい串焼き肉を食べさせてくれて、『大丈夫。ちゃんとお家の人が迎えに来るよ』って……しばらくして家の使用人と共に兄と妹が来てくれたはいいんですけど、人目があるにもかかわらず『迷子になるなんてなんて間抜けなんだ!』と罵り始めてくれちゃって。防犯のために魔術協会がこういった繁華街や歓楽街に提供している記録魔術道具があったんで、一部始終が両親に届けられたんです。『いったい伯爵家は子供にどんな教育をしているのか?』って文句の手紙付きで。おかげで両親は立場的に赤っ恥です。兄と妹はそれすら私のせいにしましたけど」
「あらぁ!ミウちゃんじゃないのぉ~!久しぶりじゃない?彼氏?とうとうお婿さん見つけたのね!」
店の前でミウの思い出話を聞いていたら、突然女性に声を掛けられた。


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