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賢者、王都から旅立つ。

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「…………?!………!!~~~~~~~!!!!」
口を押え、魔術師長は見悶えながら何かを訴えてくる。
しかしながらその声は誰にも届かず、そもそも口すら開けられないのだ。
「ああ、そうだ。それ『私がこの王都を離れるまで解除されない』という古代魔術です。おそらく現在使えるのは世界中探しても私だけでしょう」
──たぶん魔王なら解呪できると思ったが、普通の人間に対してそんな親切心・・・を起こすとは思えないので、そこのところは口を噤む。
「餓死する前に私がこの地を出れることを祈っていてくださいね?『白雷の翼』と共に旅立つ予定ですが、国王陛下がいつ出立をお許しになるかわかりませんので……」
さっき良い笑顔を向けてくれたので私もお返しにとびっきりの笑顔を送ると、その意味を悟ったのか、魔術師長は白目を剥いて倒れてしまった。

その時の私の笑顔は爽やかというより、どす黒く殺意未満がこもったようなものだったらしい。
「パトリック賢者様でもあんなお顔されるんですねぇ!あ、でも宿屋の主人をやりこめた時も、似た感じの顔でしたぁ!」
そういうミウもなかなか『いい気味だ』と言わんばかりの笑顔全開であった。
それはともかく、突然倒れた魔術師長に慌てて皆が駆け寄ってきたが、当然疎外の魔術は解除されている。
そのためもう私たちが話していることは何ひとつ誤魔化しようがないのだが、もちろん私も誤魔化す気はなく、正直に国王に彼の命に関わる魔術をかけたことを申告した。
「……というわけで、1日でも早く魔王を探す旅に出させていただきたいのですが?何なら、私のみ王都を出させていただければ、すぐにでも彼にかかった術は解けますが?」
「人というのは半日や1日程度では飲み食いせずとも死なぬと聞いておる。しかもこやつがトリウス伯爵令嬢に求婚し、断られているにも拘らず何度も迷惑をかけておることもな。いい薬だ、せめてきょう1日ぐらいはこのままで放置しておいてよいだろう」
国王様もなかなかのものだった。


ミウの討伐部位は私の施した魔法陣のおかげで一切の傷も劣化もなく、預けた時そのままの状態で取り出すことができた。
討伐部位に残るミウの印である『白雷の翼 強弓』が残っていることを国王自ら確認し、次いで宰相たちも討伐部位の新鮮さや上質さを褒めたたえるのを見て、冒険者ギルドの受付嬢たちはもうへたり込んで反論することすらできない。
更に私の魔法陣を力づくで解除しようとしていた者たちはすべて捕らえられ、冒険者ギルドの法ではなく、この国の法で裁かれるために牢に入れられている。
「……さすがにこれだけ多くの冒険者が捕まってしまっては、王都付近での依頼が滞るのぅ……」
「さようで。今回の狼藉に加担していなかった者たちではランクが足りずに、魔物などが王都の外で跋扈するやも……」
チラチラとこちらを伺いながら王たちが内緒話にならない大きさの声で話し合っているが、私は引き受けるつもりはない。

しかし勇者パーティーとしてはどうなのだろうか──


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