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賢者、新たな地に旅立つ。

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私の言い様に、そして村の者たちの軽蔑と怒りの籠った目付きで、事の次第を説明する前に察したらしい。
「……我々は諸君が誇り高き国軍で、名に恥じぬ動きで護衛の任を果たすと信じていた……が」
一歩ずつ彼らに近付きながら、ブルブルと肩を震わせてカラウセンが説教を始める。
「いったい何を考えて、諸君は可憐な乙女を穢そうとしたのか!」
「ち…ちが……」
「何を言う?!『白雷の翼』の者が諸君の非道を明らかにする時、『間違いなし』と頷くのを私は見ている!我が眼が節穴だと?!彼の者が諸君を批難して、それを庇う者が現れぬのが証拠と言えぬと?!」
おぉ…と思わず感心したが、どうやらカラウセンは責任者として、地面に伏している者たちと対峙するようだ。
てっきりこちらに非があるように詰め寄ってくるかと思っていたが、少しだけ見る目が変わる。
だが呆れるのは、不屈の精神でまだ自分たちの要求が間違っていないと訴える輩だ。
「だ…いた…い…、あ、あん…た、だ…って…こ、こんや…くしゃ…と、きせ…いじ、じつ、とか…ヤっち…まえ、ば…いい…とか…いって、やが…」
「だ、黙りなさい!」
一瞬にして皆の目付きが鋭さを増し、周囲の気温も下がったような錯覚に陥る。
いや、えぇと……私たちの背後にいるラダさんから冷気が発せられている気がするのだが。
「……ねぇ?パト賢者……あいつらを凍らせて王都に送り返したいんだけど、あの拘束の魔法陣に重ね掛けってできるのかしら?」
「いや、あれは絶対強度で下にあるモノを潰さず、動かせず、鮮度を保つ…という呪文の他、『いかなる魔法攻撃も物理攻撃も無効にする』という文言も組み入れているから……」
あの魔法陣に捕らえられると押さえつけられたモノは無抵抗状態に陥ってしまうため、改良を重ねて『無力化する代わりに暴力を受けない』という法則を作ったのである。
そうでなければたとえ力の弱い被害者であっても、加害者を殺害するまで暴行できてしまう──実際この魔法陣を開発した当時、そうやって同じ師匠のもとで修行していた者による『負の連鎖』ができてしまった。
現世で記憶を取り戻した時、改良型の魔法陣の前はどうだったかと記憶をたどった私は、こんなものを思いついた過去の自分に対して嫌悪感を抱いてしまったぐらいである。

ただ使い方を間違えなければ十分役に立ち、それでミウを助けることができたという事実が、多少は気持ちを救ったのだけれど。


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