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賢者、魔獣の急襲に遭う。

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消滅。

そう言って間違いはない。

持って出た荷物ごといなくなってしまったのだから、脱走を疑って捜索もしたというが、次はその捜索隊がごっそりと消えた。
示し合わせて逃げ出したということも考えられなくはないが、そうする理由がない。
今はまだ──彼らが捜しているのは、同胞であり、この村の住民たちだからだ。
「何者かに襲撃されたり交戦した後もなく、乱れた足跡も戻ってきた痕跡もない……突然途切れ、魔力の残滓すらも残らない。大賢者殿はいかが思われますか?」
「そうだねぇ……」
考えられるのは──
「魔獣や魔物ではないね」
「え?」
「何で?」
私が顎を撫でながら答えると、ケヴィンとラダがそれぞれ声を上げる。
デューンも声には出さないまま同じ疑問をその目に浮かべているが、ミウだけは何となく理解しているのか、痛ましそうな顔つきをした。
「魔獣が人間を食べるということはあっても、食えない物質まですべて喰らうということはないだろう。魔物も同様に人間を襲うだろうが、知恵がある分獲物に恐怖を与えて狩ることを楽しむこともある。そして……どちらも獲物の血が地面に落ちたところで、その痕跡を消すような手間を掛けたりはしないだろう」
「……なるほど」
どうやらカウラセンたち魔法使いは魔術をどう使うか、新しい魔術を生み出すのか、魔力を増やせるのか──『魔力』を効果的に使う実験や研究はしているようだったが、魔の領域に在るモノに視点を置いているわけではないのか。
「私たちは魔獣や魔物を斃したり捕えるために魔術を研究しましたが、彼らの生態を調べるのは主に下研究員たち……あまり魔力のない者たちです。冒険者に護衛させて出没地に赴くのが仕事ですが、戦闘力があるわけではないので、その……そのまま……」
「ああ……」
口籠るカウラセンと俯くミウから察する。
だいたい国軍は魔物や魔獣と戦うのが目的ではなく、敵対国や他国の軍との争いに備えて魔術師たちを控えさせるのだ。
「我々『魔法研究所』に所属する者は、冒険者として活動したり、そもそも研究所の在り方に異議を唱えて所属しない魔法使いを見下します。しかしそんな彼らの生きる場所は魔術防壁に守られる王都とは限らず、安全に生活するために我々より魔獣などに詳しいはずですが、見下された方が進んで自分たちの経験や学んだことを差し出すと思いますか?」
「……差し出す、というのはずいぶんと上から見下ろすような物言いだね」
「ええ。そうでしょう。私も自分の考えを持つまでは……そんなことを疑問に思ったこともありませんでした。彼らは、自分たち研究所の上位の者たちに奉仕するべきだ、言われるがままに自分たちの知っていることを開示するべきだ、と」
「しかし」
「彼らにはそんな傲慢な命令に従う義理などありません。彼らがその地で生きるのに必要な手助けをするわけでもなく、何かあった時に保護するわけでもなかったのですから」
消えてしまった者たちを探す手がかりを考えるはずが、ずいぶんと話がズレてしまった。


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