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第2章:冷静に竜人国へ駆け落ちする
28:冷静に飛び出す
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~あらすじ~
デートに誘われたと思ったら、ファイ様から衝撃的事実を告白される。
アティスが人間から竜人になったのは、ファイ様の母、スフェナ様の心臓を彼女が食べたからというものだった。
「ファイさま。
私の感情をファイさまなら読み取ってくださっているのでしょう。
しかし、私自身、いまどんな感情なのか分からないのです。
ですから事実だけ、確かなことだけ言わせてください。
私の記憶の中では、心臓を食べたことも、その心臓を狙っていたことも全くありません。本当です。
でも私が人から竜人になったことも事実です。
私とファイさまのお母様の死は無関係ではないのでしょう。
お母様のこと、お悔やみ申し上げます。
そして、
そのようなことも知らずに…
竜人になったことを怖がり、ファイさまに…それをどう思うかなど…
無神経にのうのうと聞いてしまった自分が憎いです。
大変申し訳ありませんでした。」
向かい合うって座る彼に向けて、頭を大きく下に下げた。
さっき割れた茶碗から、投げ出された花は萎み色褪せ、
その強い花粉の香りが私の鼻を突き刺した。
視界はにじみ、肩は震え、喉の奥がきゅっと閉まった。
「すまない。アティス。君を泣かせるつもりはなかった…。私は…いつも唐突だな…本当にすまない。
アティス。君がそれに気づいていないことを私はわかっていたのに…」
急にフワッと香る白檀の香り。
気づくと彼が後ろから私を包み込んでいた。
私の震える肩の上で、一緒に彼の白銀の髪も揺れている。
「すまない、すまない…」
*******
翌日。
あの後、私たちは一言も交わさず家に戻った。
気まずい。私も鼻水垂らして泣いちゃってたし、あの揺れ具合、ファイさまも泣いてたでしょ…気まずい。
今日は遅起きして、朝食食べに行こう…二人きりで会いたくないし。
朝食を摂りに居間へ下がると、今日はシエルさんも席についていた。
「よ!ばばさま!相変わらず若作りしてるな!」
「こら!ショーン。この私に向かってババ様など!!気の利かない孫じゃ笑」
「えっ?!」
私の声に気づいて一同私を見た。
「あ、おはよう!アティス!昨日はごめんね!あとごめん、言ってなかったけど、シエルは私の乳母で、ショーンの婆婆さまなんだ!」
えっええええ~!!!
シエルは、極まり悪そうに私を見て言った。
「ファイさまとショーンはいいとしても…アティス、あなたは私に婆婆扱いしないで頂戴ね!」
私は怒りがふつふつと湧いてきた。
いくらなんでもファイさまは唐突すぎるし、私を振り回しすぎではないか。
聞かない私もいけない、期待しすぎる私もいけない、全部私がいけないのかもしれない。でも、この気持ちは今抑えられない!!私はあんなに昨日のこと重く受け止めていたのに、それなのに、ファイさまは…
(→美琴、冷静になって…)
どん!
私は激しく手をついて立ち上がった。
そしてファイさまを強く睨み、
「いい加減に私を振り回すの、やめてください」
というと広場を抜け門をくぐり外へ逃げ出してしまった。
私は冷静分析者失格だ。
*******
どこでもよかった。
どこでもいいから一人になれる場所を探した。
丘を転がるようにくだり、草むらをかき分け、無我夢中で走った。
どれくらい走っただろう。
水の匂いに気づき近くを見回すと、小川にたどり着いていた。
私は、大きな岩に腰掛けしばらくボーッとしていた。
子供たち数人が水遊びをして騒いでいる。
こうして自分の世界とは関係のない人たちを見ていると、先ほどまでやるせない怒りが、だんだんと消えていく。
徐々に私は冷静さを取り戻していた。
ファイさまはどんな心境だったんだろう。
昨日は自分を落ち着かせるのに必死で、ファイさまのことまで深く考える余裕がなかった。
お母様の残した忘形見で、私は竜人になった。
つまり、今のアティスはファイ様のお母様がいなかったら存在していない。
ねえ、エフィス。聞いているでしょ。
私たちは、竜人アティスだけど、その力を無駄にせずそして悪用せず大切に使いましょう。
そして、私たちに新しい可能性を与えてくれた、ファイ様のお母様について、私たちは知る義務があると思う。
彼女が、なにを考えどう生きて、どうして死んでいったのか。
そして彼女に恥じない生き方をすることがせめてもの私たちができる償いよ。
ファイ様のお母様のためにも、そしてファイ様のためにも、きっと。
(→ええ。私も知りたいです。彼女のことを。)
「どうした、浮かない顔しているな。感情も乱れている。」
隣を見ると、濡ガラス色の短髪に、琥珀色の目を持つ背の高い男性が立っていた。
彼は、当たり前のように私の隣に腰掛け、持ってきた釣竿を川の一番深いところに目掛けて投げた。
「嬢ちゃん、なにに悩んでいるんだ?迷子か?」
悩んでいる…?
ファイ様たちに対する私の方向性はさっき決着が付いたのよね。
それに見ず知らずの人に相談するには、ちょっとヘビーすぎる内容だし。
(→ちょうどいいですから、この人にファイ様に振り回されていることを相談して見ては?
男のことは男に聞くのが一番ですよ。)
「迷子ではないわ。
私、ある男性に振り回されて逃げてきたの。いつもなんのお知らせもなく、どこか連れて行かれたり、突然びっくりするようなこと言われたり、重要なことを秘密にされていたり…。彼がなにを考えているのか、さっぱりなのです。」
彼は私の方を向いたまま固まった。
(→美琴?今の言い方はよくないわ。あなた今10歳の女の子なのよ。それでは、まるで、ファイ様が誘拐犯でそいつに連れ回されている!ように聞こえます。)
えっ、ええ??そんなつもりじゃ‥
「嬢ちゃん…大変な目に合っているんだな。そいつに変なことはされなかったか?ここまで逃げてきたんだよな、無事でよかったな。」
「いえいえ、変なことはされていませんし、私の言い方が悪かったかもしれません。犯罪者とかではありません、その彼は。」
「でも聞いている話、怪しいぞ、そいつ。
まあ、もしそういう変なやつじゃなくて、本当にそういう性格のやつだったら…。
きっとそいつ、生きるのに精一杯なやつだと思うぞ。こんなちっこい嬢ちゃんを振り回しているのにも気付かないなんて、そいつはよっぽど忙しいか、よっぽどの自己中か。どちらにしてもろくなやつじゃない。」
そんな会話をしているときだった。
「お前ら、騒ぐな」
黒ずくめの男たち数人が、先ほど遊んでいた子供たちを取り囲んだ。
それを見た私は後先考えず、気づいたら輪の中に飛び込んでいた。
「なんだ?この嬢ちゃん。いい所の出か、白銀の髪の毛してるぞ。よし、こいつもさらっていけ。」
「近づかないで。なぜ子供たちをさらうの?目的は?」
「なんだ、この嬢ちゃん。自分がさらわれそうなのに冷静に質問してきやがって。頭が回るなら自分の状況をまず考えた方がいいぞ!」
そう言って男たちが薄気味悪く笑う。
「おい、こいつか?この嬢ちゃんを振り回す男っていうのは…」
振り向くと、先ほど相談に乗ってくれた男性がこの男たちの背後に立っていた。
「子供を大人が困らせてどうする?俺は賛成しないぞ。」
そうい言って彼は左腕を振ると、それはたちまち黒龍の鱗に覆われ硬化した。
「ちっ、なんだ?こいつ…いくぞ」
男たちはあっという間にこの場から消え去っていった。
***
「ほら、そこの子供たち。まだあいつらが近くにいるかもしれない。人通りの多い道を通って帰れ。」
子供たちは、はーいと返事をして私とこの男性にお礼をいうと元気よく帰っていった。
「アティス!おーい!!」
「ファイ様?」
ファイ様が見える。遠くから走ってくる。
そんな彼に意識を取られ、先ほどまでいた男性が消えていることに気づかなかった。
「アティス…すまなかった。」
ファイ様はいきなり私に向かって頭を下げた。
いや、違う。謝らなければいけないのは私の方だ。
「顔をお上げください、ファイ様。私も急に飛び出してすみませんでした。」
「私は…私は、すべきことがある。
それは今は君にいえない。
しかし、私は大切なことを言い忘れていたのに気づいた。
この国へ共に来た理由を、
母のことを伝えた理由を。
私は君を守りたいんだ。」
私の中で何かが弾け飛びそして何かに終止符をうった。
そこで私も大切なことを見落としていたことに気づく。
私はこの人が好きなんだってことを。
デートに誘われたと思ったら、ファイ様から衝撃的事実を告白される。
アティスが人間から竜人になったのは、ファイ様の母、スフェナ様の心臓を彼女が食べたからというものだった。
「ファイさま。
私の感情をファイさまなら読み取ってくださっているのでしょう。
しかし、私自身、いまどんな感情なのか分からないのです。
ですから事実だけ、確かなことだけ言わせてください。
私の記憶の中では、心臓を食べたことも、その心臓を狙っていたことも全くありません。本当です。
でも私が人から竜人になったことも事実です。
私とファイさまのお母様の死は無関係ではないのでしょう。
お母様のこと、お悔やみ申し上げます。
そして、
そのようなことも知らずに…
竜人になったことを怖がり、ファイさまに…それをどう思うかなど…
無神経にのうのうと聞いてしまった自分が憎いです。
大変申し訳ありませんでした。」
向かい合うって座る彼に向けて、頭を大きく下に下げた。
さっき割れた茶碗から、投げ出された花は萎み色褪せ、
その強い花粉の香りが私の鼻を突き刺した。
視界はにじみ、肩は震え、喉の奥がきゅっと閉まった。
「すまない。アティス。君を泣かせるつもりはなかった…。私は…いつも唐突だな…本当にすまない。
アティス。君がそれに気づいていないことを私はわかっていたのに…」
急にフワッと香る白檀の香り。
気づくと彼が後ろから私を包み込んでいた。
私の震える肩の上で、一緒に彼の白銀の髪も揺れている。
「すまない、すまない…」
*******
翌日。
あの後、私たちは一言も交わさず家に戻った。
気まずい。私も鼻水垂らして泣いちゃってたし、あの揺れ具合、ファイさまも泣いてたでしょ…気まずい。
今日は遅起きして、朝食食べに行こう…二人きりで会いたくないし。
朝食を摂りに居間へ下がると、今日はシエルさんも席についていた。
「よ!ばばさま!相変わらず若作りしてるな!」
「こら!ショーン。この私に向かってババ様など!!気の利かない孫じゃ笑」
「えっ?!」
私の声に気づいて一同私を見た。
「あ、おはよう!アティス!昨日はごめんね!あとごめん、言ってなかったけど、シエルは私の乳母で、ショーンの婆婆さまなんだ!」
えっええええ~!!!
シエルは、極まり悪そうに私を見て言った。
「ファイさまとショーンはいいとしても…アティス、あなたは私に婆婆扱いしないで頂戴ね!」
私は怒りがふつふつと湧いてきた。
いくらなんでもファイさまは唐突すぎるし、私を振り回しすぎではないか。
聞かない私もいけない、期待しすぎる私もいけない、全部私がいけないのかもしれない。でも、この気持ちは今抑えられない!!私はあんなに昨日のこと重く受け止めていたのに、それなのに、ファイさまは…
(→美琴、冷静になって…)
どん!
私は激しく手をついて立ち上がった。
そしてファイさまを強く睨み、
「いい加減に私を振り回すの、やめてください」
というと広場を抜け門をくぐり外へ逃げ出してしまった。
私は冷静分析者失格だ。
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どこでもよかった。
どこでもいいから一人になれる場所を探した。
丘を転がるようにくだり、草むらをかき分け、無我夢中で走った。
どれくらい走っただろう。
水の匂いに気づき近くを見回すと、小川にたどり着いていた。
私は、大きな岩に腰掛けしばらくボーッとしていた。
子供たち数人が水遊びをして騒いでいる。
こうして自分の世界とは関係のない人たちを見ていると、先ほどまでやるせない怒りが、だんだんと消えていく。
徐々に私は冷静さを取り戻していた。
ファイさまはどんな心境だったんだろう。
昨日は自分を落ち着かせるのに必死で、ファイさまのことまで深く考える余裕がなかった。
お母様の残した忘形見で、私は竜人になった。
つまり、今のアティスはファイ様のお母様がいなかったら存在していない。
ねえ、エフィス。聞いているでしょ。
私たちは、竜人アティスだけど、その力を無駄にせずそして悪用せず大切に使いましょう。
そして、私たちに新しい可能性を与えてくれた、ファイ様のお母様について、私たちは知る義務があると思う。
彼女が、なにを考えどう生きて、どうして死んでいったのか。
そして彼女に恥じない生き方をすることがせめてもの私たちができる償いよ。
ファイ様のお母様のためにも、そしてファイ様のためにも、きっと。
(→ええ。私も知りたいです。彼女のことを。)
「どうした、浮かない顔しているな。感情も乱れている。」
隣を見ると、濡ガラス色の短髪に、琥珀色の目を持つ背の高い男性が立っていた。
彼は、当たり前のように私の隣に腰掛け、持ってきた釣竿を川の一番深いところに目掛けて投げた。
「嬢ちゃん、なにに悩んでいるんだ?迷子か?」
悩んでいる…?
ファイ様たちに対する私の方向性はさっき決着が付いたのよね。
それに見ず知らずの人に相談するには、ちょっとヘビーすぎる内容だし。
(→ちょうどいいですから、この人にファイ様に振り回されていることを相談して見ては?
男のことは男に聞くのが一番ですよ。)
「迷子ではないわ。
私、ある男性に振り回されて逃げてきたの。いつもなんのお知らせもなく、どこか連れて行かれたり、突然びっくりするようなこと言われたり、重要なことを秘密にされていたり…。彼がなにを考えているのか、さっぱりなのです。」
彼は私の方を向いたまま固まった。
(→美琴?今の言い方はよくないわ。あなた今10歳の女の子なのよ。それでは、まるで、ファイ様が誘拐犯でそいつに連れ回されている!ように聞こえます。)
えっ、ええ??そんなつもりじゃ‥
「嬢ちゃん…大変な目に合っているんだな。そいつに変なことはされなかったか?ここまで逃げてきたんだよな、無事でよかったな。」
「いえいえ、変なことはされていませんし、私の言い方が悪かったかもしれません。犯罪者とかではありません、その彼は。」
「でも聞いている話、怪しいぞ、そいつ。
まあ、もしそういう変なやつじゃなくて、本当にそういう性格のやつだったら…。
きっとそいつ、生きるのに精一杯なやつだと思うぞ。こんなちっこい嬢ちゃんを振り回しているのにも気付かないなんて、そいつはよっぽど忙しいか、よっぽどの自己中か。どちらにしてもろくなやつじゃない。」
そんな会話をしているときだった。
「お前ら、騒ぐな」
黒ずくめの男たち数人が、先ほど遊んでいた子供たちを取り囲んだ。
それを見た私は後先考えず、気づいたら輪の中に飛び込んでいた。
「なんだ?この嬢ちゃん。いい所の出か、白銀の髪の毛してるぞ。よし、こいつもさらっていけ。」
「近づかないで。なぜ子供たちをさらうの?目的は?」
「なんだ、この嬢ちゃん。自分がさらわれそうなのに冷静に質問してきやがって。頭が回るなら自分の状況をまず考えた方がいいぞ!」
そう言って男たちが薄気味悪く笑う。
「おい、こいつか?この嬢ちゃんを振り回す男っていうのは…」
振り向くと、先ほど相談に乗ってくれた男性がこの男たちの背後に立っていた。
「子供を大人が困らせてどうする?俺は賛成しないぞ。」
そうい言って彼は左腕を振ると、それはたちまち黒龍の鱗に覆われ硬化した。
「ちっ、なんだ?こいつ…いくぞ」
男たちはあっという間にこの場から消え去っていった。
***
「ほら、そこの子供たち。まだあいつらが近くにいるかもしれない。人通りの多い道を通って帰れ。」
子供たちは、はーいと返事をして私とこの男性にお礼をいうと元気よく帰っていった。
「アティス!おーい!!」
「ファイ様?」
ファイ様が見える。遠くから走ってくる。
そんな彼に意識を取られ、先ほどまでいた男性が消えていることに気づかなかった。
「アティス…すまなかった。」
ファイ様はいきなり私に向かって頭を下げた。
いや、違う。謝らなければいけないのは私の方だ。
「顔をお上げください、ファイ様。私も急に飛び出してすみませんでした。」
「私は…私は、すべきことがある。
それは今は君にいえない。
しかし、私は大切なことを言い忘れていたのに気づいた。
この国へ共に来た理由を、
母のことを伝えた理由を。
私は君を守りたいんだ。」
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