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第2章:冷静に竜人国へ駆け落ちする
33:冷静にファイ様のお母様を知る
しおりを挟むあれからというもの、皐月様と私はすぐに打ち解けた。
昨日の敵はなんとやらで、ファイ様に対してコンプレックスを抱える私たちは互いに同士であった。
この皐月様のいる空間は外遊びに快適な気候と場所だった。
そういえばこの前この場所について聞くとこう答えてくれた。
「ここは、私の名前と同じ皐月の時期の空間で、
なんでずっと同じ季節かっていうと…ほら、季節や天候に合わせて着物を毎日変えるの…めんどくさいでしょ?
だから毎日同じ季節にしちゃえば、服の組み合わせを最小限に済むなって思ってね笑。」
そうそう、こういうちょっとめんどくさがり屋さんな性格も私とは結構相性が良かった。
(→美琴の場合はちょっとではありません。)
皐月様と私は小川の脇にある岩に腰掛けた。
ファイ様の話はここ数日散々二人でしてきた。
皐月様はファイ様の見た目にまず引きつけられ、さらに優しくしてもらったことでノックアウトしてしまったらしい。でもこんなに彼に執着しているのはそれだけではない。なんと、彼のお母様スフェナ様の影響があるという。
「スフェナ様…のこと皐月様はよく知っているの?」
「ええもちろん。周囲からは誤解の多い方でしたが、ほんとはとってもいい人でした。それなのに、あんな事件に巻き込まれて…いまだに信じられません。」
皐月様は遠くを見ながらぽつりぽつりと話してくれた。
言い方は丁寧に、何か触れて壊れてしまわないようにそんな風に彼女は語りはじめた。
「ファイ様はもともとスフェナ様を生写したかのような方で、
スフェナ様はもうとてもとても美しく女性らしい方でした。見た目は。
しかし、一方で振る舞いは男性的で喧嘩の絶えない方でした。
毎日何処かへ出掛けては傷を作って帰ってくる。叔父うえが理由を問うても、関係ないの一点張り‥。
だから周囲から特にスフェナ様の父であるアクエス様からはひどく誤解されていました。
しかし、私たちは知っていたのです。本当のスフェナ様を。
スフェナ様は弱きものに優しかった。
彼女が人間の母を持つと言う珍しい境遇のこともあったかもしれません。
スフェナ様はとても幼い時に母を看取られました、それも死因は老死と言うもの。自分の優しく美しかった母が一瞬のうちに年老いて死んでいく、自分たちだけを残して。
アクエス様は、奥方様がなくなってからと言うものいつもどこか上の空で、スフェナ様の面倒は春婆に任せきりでした。そんな境遇なら、娘がぐれてしまっても仕方ないと思ったのでしょう、アクエス様は。
でも実際は違った。
例えば、私が病で倒れたときは何の躊躇もなく、
彼女は私に貴重な鱗を渡してくれた。
薬と言って。
春婆から聞いた話ですが、彼女の孫が病で苦しむことを何処で聞きつけたスフェナ様は、春婆に内緒でその薬を用意して飲ませてくれていたりもしたそうです。
そう、彼女の傷が絶えないのは彼女がいつも何処かで人助けしてしまう彼女の人の良さからだったと言うのに…
スフェナ様は自分が魔力の高い白竜で、その力があれば一人でも多くの竜たちを救えること、
一方で鱗を渡すことは自傷行為でもあること、それが分かっていらっしゃいました。
きっとスフェナ様はその思いと行動の意味の矛盾に板挟みになり、結果あんな芝居まで売ってアクエス様を騙していたのですわ。
美しく、儚い本当の自分を偽って咲く幻の花…のような女性でした。」
川の流れの音が急に大きくなり、私の心臓の鼓動も比例して大きく波打った。
彼女の話はあまりにも衝撃的だった。
特にエフィスが一番ショックを受けているに違いない。
夫アクエス様のことも、そして自分の娘がスフェナ様だったと言うことにも。
「私はですね、人間が憎いです。
スフェナ様を死へ追い込み、ファイ様をずっといきたまま監獄に閉じ込めたのです。
知っています、ファイ様は今、スフェナ様の仇を打とうと動いているのです。私は密かにファイ様を応援しています。そんな、彼がなぜかあれだけにくいであろう人間界に頻繁に足を運び、王子やその貴族仲間たちと交流を持つと言う噂を聞きました。ですから、私も興味を持ったのです。人間界へ。あくまでも復讐対象としての興味ですが。」
私の今の感情は壊れそうだった。
エフィスが今にも狂乱してしまいそうで、それを抑えるのにも必死だったし、スフェナ様や人間界からきたアティスのことを考えても今情報処理が全く追いつかない。
「でもね、ティア。実はあなたといると少し不思議な気持ちになるの。最初はファイ様だと誤解してしまったけど、今は違うってわかる。あなたからは、匂いがするのよ、あの方の、スフェナ様の匂いが。」
エフィスが暴走した。
私にはもう抑えきれなかった。
私は意識的に目を瞑り倒れた。
エフィスが気を失ったことがわかったからだ。
彼女なしに、皐月様とお話しするのはよくない、私もエフィスが起きるまで、いや、自分の気持ちが収まるまで漆黒に身を委ねてしまうのであった。
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