悪役令嬢の冷静分析録〜ババ抜き系乙女ゲームの世界で〜

にんじんうまい

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第3章:冷静にゲームクリアを分析する

46:冷静に奇襲する

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私たち一行は、アジトだと言う場所に来ていた。大通りから何本も細道を曲がったっところにここはあった。明るいうちから酒の匂いやあまり嗅いだことのない異臭が充満しているような場所だった。


「いいですか。特に王子。まず、私がこの煙玉で相手の気をそらします。そしたら一斉攻撃を仕掛ける。この算段でいきましょう。」


すると、王子はニカっと笑って辺りを見回して見せた。


「ファイよ、どうやら相手には感づかれ始めているようだぞ。私は正面突破する。そなたらはその後から参れ!」

言うよりも早く彼はアジトの扉を叩き破った。

「な、なんだお前は。こんなことしてただで済むと思っているのか?」

体格のいいハゲた男が彼に詰め寄った。

「ふっ。いつぞやは世話になったな。今度はこっちからお前たちと遊んでやる」

そう言い放つと彼は、両腕に力を込め始めた。
なにやら黒い霧が彼から発生し、瞳がより明るい黄金色に輝き始める‥。
霧から現れたのは、黒い鱗で覆われ、爪は刃物のように長い竜の腕を持つものだった。


「お、お前、もしかして、あの時の…」


「思い出したか。行くぞ。」

彼は一足で大男の前に飛び斬りかかる。その勢いは回り始めて止まらない歯車のように、回転しながらバッサバッサと敵陣をなぎ倒して行く。

そんな時、部屋の隅でフードから黄色い髪を覗かせる女性を見かけた。彼女はいち早く鳥の姿に身がえると、アジトの換気口から這い出て外に逃げていってしまった。
あの人は、もしかして…エレーナなのだったのだろうか…。

「おお?取り逃したやつがいるな!まあ、去るものは追わぬ主義だ!なははは」

「ちょっと!あなたが正面突破するから全員捕まえられなかったではないですか!!少し反省して下さい!!」

シエルさんが王子を睨み、王子は笑っていた。


****


彼のおかげで、思ったよりも早く奇襲は終わってしまった。
もっとも直接対決は望んでいなかったファイ様だが、作戦を始める前に王子に片付けられてしまって少し悔しそう。
お縄にされた、一際体格のいい悪人ズラした男が悔しそうな声でほざき始めた。

「あ~あ。黒竜のガキをうまく丸め込んでやったと思ったのにな。黒竜の親玉に玉砕されるとは‥。黒竜なんぞとつるむんじゃなかったぜ…」

黒竜のガキとは、ジャミンのことなのだろうか。

「そこの其奴。黒竜のガキになにをした。言え。」

ファイ様が氷をも凍らせるような視線で大男を見下げた。

「あいつが、俺たちのところに流れてくる薬の噂をどこから聞きつけて、要求してきたんだ。はじめは高値で売りつけてやっていたがあまりにも執着してくるからよ、黒竜の技でも教えて、俺たちの仕事を手伝わせた報酬で薬をやったりしていた。それがお前たちになんか関係があるのか?」


大男が洗いざらい話してくれたおかげで確信が持てた。
ジャミンはこいつらに唆され黒葬を知り、薬を常時服用していた。
同時に、その薬、ときわすれの花が市場に出回ってしまっていることも発覚した。こうならないようにドリスさんに協力を仰いでいたのだが…それよりも強い何かがそうさせたのか…。

「おい、その薬はどこから出回っているんだ?言え。」

大男は気持ち悪く笑うと「あの薬はやばいやつと繋がっている。俺らは死んでも言えない契約を結ばされている。」と言うとまた、笑い始めた。


*****


結局、薬を誰が市場に流しているかは掴めなかった。
しかし、あそこにいた女性の姿が脳裏に過ぎった。そうエレーナだ。
彼女なら何か知っている。彼女をなんとかして見つけ出し、教えてもらおう。
そう、確信している時のことだった。

敵のアジトを征服し、何か手掛かりになりそうなものを探していたシエル様とファイ様の様子が少しおかしい。

私が二人の様子を伺っていると、ファイ様から手招きされてしまった。
彼は、私にしか見えないようにそっと、懐からある紙束を取り出して見せた。
その紙に押されたエンブレムは、月を背後に飛ぶ鷹、我が公爵家ハーベルの紋章だった。

「アティス。ここに書いてあることが本当なのか、ダリス氏に直接確かめてはくれないだろうか。しかし、君をこれ以上危険な目には合わせたくない、その場に私も隠れていようと思っている。それでも構わないだろうか。」

ここに書いてあることが事実なら、ファイ様や霧月国の人にも関係のある話だ。エレーナのことも気になるし、私は決心をしたのだった。


****


夕食の後、私は再びお父様の部屋を尋ねた。


「入れ」

お父様の低く静かな声が薄暗い室内で反響する。


私はお父様をじっと見上げた。
この人が、本当にこんなこと…させたのだろうか。
口の中がカラカラになり、鼓動が激しくなる。どうすれば良いのだろう、もし今から聞くことを肯定されてしまったら…どうか否定してください、お父様…。


私は、静かに白い封筒をお父様に手渡した。
月明かりが封筒を照り返し、眩しい。彼は、ゆっくりと封筒から例の紙束に目を通し始めた。彼は一瞬眉を釣り上げたが、その後は無表情で紙をめくり続けた。

「お父様、これは霧月国の悪党の根城からでてきた書類です。ここに書いてあることは…お父様、事実なのですか?」


彼の顔はうっすらと白紙の光が反射して闇の中で明るい。
しかし彼の表情は無表情でどこか遠い目をしている。

「話そう、アティス。
ここに書いてある、竜人の心臓を求める申請を出したのは私だ。アティス。」

「そ、そんな…」
私は視界が暗くなった。お父様は、なんでそんなことを…

「しかし。その後に書いてあるこの怪しげな薬を我が家から発注する契約書には全く見覚えがない。これは事実だ。」


すると物陰から白銀の鳥が詳細の机に舞い降りた。
お父様は急な鳥に驚いたが、その声を聞いてすぐに納得した。


「ダリス氏。なぜ竜人の心臓を求めた。どこまで知っている、この件に関して…」


「そうだな…。アティス。君がその心臓を使って竜人になったことは知っている。だから心配していたんだ、恐れていたんだ。君がファイ様と一緒に霧月国に行くことをね…。君が竜人になった人間と知られれば、竜人たちにどんなことをされるかわからない…でも、ファイ様の様子を見て少し安心したよ、アティスを傷つける気はなさそうだったからね。」


ファイ様はお父様に冷たい視線をあてながら続けた。


「アティスを竜人にさせた目的は?主犯はあなたではない?それなら誰だと言うのですか?」


お父様は急に頭を抱え出し、俯いた。


「すまない。それは言えない。私には言うことができない。すまない。」


「どうして?あなたは人間を竜人に変えるなど、本来あってはいけない禁忌に加担しているのですよ。わかっていますか?」


「すまない…」


この後何度も聞き出そうとしたが、お父様は頑なに口を破らず、私たちも呆れてしまった。


「お父様、わかりました。しかし最後に一つ聞いて良いですか。
侍女エレーナのことです。彼女が、この悪党のアジトに出入りする目撃情報が上がっているほか、彼女の姿が先ほどから見当たりません。何か彼女について知っていることはありますか。」

お父様はやっと顔を上げ私たちに顔を向けた。彼の顔色は驚くほど白くなっていた。

「エレーナは、もともと竜人の心臓を私に渡す仲介人だった。取引が終わった後、彼女はアティスの様子が気になるから、侍女として自分を雇って欲しいと自ら懇願してきた。私も竜人のことはよくわからないし、もし何かあればアティスの助けになるかもしれないと思って、そばに置くことを許していた…。彼女の熱心な仕事を見て。彼女はもう彼らをは縁を切ったとばかり思っていたのだが…。この話やそのは見覚えのない、薬に関する契約書。もしかしたら彼女が偽装して作り取引していたのかもしれない。彼女ならアンジュたちから隠れて薬を盗み出したり、施設から持ち出すことは可能だろう…」


その後私たちはお父様の部屋を後にした。
その足取りはとてつもなく重たかった。

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