※異世界ロブスター※

Egimon

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第一章 海域

第二話 パピーはすごい人のようです

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 あれから何年か経った。俺は6度の脱皮を終え、身体はかなり大きくなっていた。と言っても、俺は前世の物差しを取り戻すことはできない。今の俺が何cmくらいなのか分からないのが残念だ。

 あの時俺を助け、育てる宣言したタイタンロブスター、アグロムニーは俺の父親だった。実に千年の時を生き、数百年前に知能を獲得したという。
 父は母の二倍以上の体格を持っており、年齢差も相当なものらしい。母は知能を獲得しつつあるが、まだ言葉を話せるレベルではないそうだ。

 対して俺はというと、三回目の脱皮の時に言葉を話せるようになった。
 タイタンロブスターは脱皮をするたびに新しい力を少しづつ獲得する。例えば知能であったり、魔法の才能であったり。本人が得たいと願う力を獲得できる場合が多い。

 俺は三回目の時に念話の魔法を獲得した。まだ単純な言葉しか話せないが、父とコミュニケーションができるのは素晴らしい。

 何せ千年も生きているのだ。彼の話はいつも面白く、元人間の俺から考えれば突拍子もない物ばかりだった。
 自分が発する言葉はまだ子供のようなものだが、聞く分には良くわかる。
 アウトプットする魔法とインプットする魔法は同じだが、勝手が若干違うのだ。

 彼の話によると、俺たちタイタンロブスター族は半年に一度のペースで脱皮するらしい。ザリガニの脱皮周期なんて流石の俺も知らないが、こんなものなのだろうか。
 まあそんなことはどうでも良くて、その計算から行くと、俺は三歳くらいということだ。

 三歳というのはタイタンロブスターが親の支援なく自分で生活が可能になる年齢とされている。人間でいうところの成人だ。
 ここに関してはかなり遅いと言える。甲殻類は生まれた直後にはもう自分で狩りができるものだ。
 ザリガニは子育てをするが、それでも三年間育ててやることはない。

 しかし、当然三歳程度で知能を獲得しているのは俺くらいのものだ。普通はより大きな鋏を獲得したり、速く泳げるようになったりする。
 俺は生まれたときから知能があったため、念話の魔法を獲得した訳だ。

 父はそんな俺を非常に不思議がった。何故その年齢で言葉が喋れるのかと。何故その年齢で言葉という概念を理解し、欲しがったのかと。
 どうやら父は、俺に知能があることに気づいていたわけではないらしい。俺のことを傍において育ててくれたのは、俺が強い子に育つと思ったからだとか。

 俺は正直に答えた。地球という異世界の、日本という場所から来た元人間であると。
 父は最初こそ驚いていたが、俺の言葉を飲み込むとすぐに大声で笑ってくれた。そして俺の話を信じた。彼は疑うということを知らないのか、敢えてそれをしないのか。今の俺には分からないが、子どもの戯言と一蹴されなかったことが嬉しかった。

 俺には沢山の兄弟がいる。父が守ってくれた者たちだ。タイタンロブスターは基本、母親が子育てをするのだという。
 しかし父は知能があるため、沢山の子供たちの中から俺を選んで直々に育ててくれている。そう、100を越える息子娘たちの中から、俺だけを選んでくれている。
 こんなにも強くて頼りがいのある人生の大先輩から認められていることが誇らしい。

 今、俺は父の背に乗って大移動していた。タイタンロブスターはかなり広範囲に分布しているらしく、様々な部族が存在する。俺たちの部族はアストライア族。この間は父の用事で部族を離れていたが、知能を持っていない者であっても基本は部族内で生活するらしい。

 母親と、彼女が育てている子どもたちは産卵してすぐに父が部族まで送り届けた。
 そして俺は三年間、少し父とともにこの海域をぶらつきながら成人を迎え、部族に帰ってきたのだ。

 久しぶりに帰ってきた部族は前に一度来た時と何も変わっていない。沢山の子どもたちと、知能を持たない大人タイタンロブスターがいて、知能を持っているものはほぼ岩陰に隠れている。

 ここには岩と海藻で作られた建物があり、身を隠すのには困らない。段々畑のように土地が整えられていて、泳ぎやすいようインフラも整備されている。
 しかしそれぞれの身体の大きさが違うために、建物の大きさはバラバラ。細い道路には収まっていない者もいる。

「族長! 族長はいるか!?」

 父が大声を出して誰かを呼んでいる。族長。いったいどんな奴なんだ。俺の父アグロムニーはかなりの大きさだが、それよりも大きいのだろうか。

 というか、これだけ広い面積を持つ部族の族長をこんな簡単に呼び出せる父はマジでどの立場の人なんだ。

「アグロムニー! 久しぶりだな。まだ私のことを族長と呼んでいるのか。昔のようにムド、と呼んではくれないのか?」

「いや、族長は族長だ。旧知の仲とは言え、知恵ありし者たちから正当な投票で選ばれた者。そのような愛称では呼べんよ」

 タイタンロブスター族の族長、ムドラスト。父から話には聞いていたが、他の者に比べて確かに頭が大きい。アストライア族随一の頭脳を持つと言われいている。
 しかしこの者、雌だ。この世界の文明レベルは紀元前千数百年前の中国あたりらしいが、アストライア族に男尊女卑というものは無いらしい。

 それもそうか。タイタンロブスターは水棲甲殻類。雌の方が大きいものだ。
 まあ俺の父は彼女よりも大きいが。というか、見える範囲のロブスターと比較してもぶっちぎりでデカい。

「と、そんなことはどうでも良い。今日は紹介したいやつがいてな。こいつだ」

 そう言って父は背中から俺を下ろした。父の鋏は大きく、それでいて優しい。俺は波に乗って悠々と着地した、

「ほう、この小さいのはアグの息子か? 将来は大きくなるだろうが。こいつがどうしたのだ」

「まぁまぁそう焦らないでくれ。ほらニー、挨拶するんだ」

 今の父の発言に、ムドラストは困惑した雰囲気を見せている。
 当然だろう。普通こんなに小さいタイタンロブスターは言葉を話せない。もちろんながら、挨拶などと言う高度なコミュニケーションは理解できない。
 なるほど、父は俺のことを紹介したかったのか。

「どうも、こんにちあ、ムドラストさん。俺の名前は、ニーズベステニー。アグロムニーの息子、です。よろしく、お願いします」

「なん、だと? こんなに小さい子どもが知能を獲得している!? いったいこの子は何回目だい? どうして、こんなに小さな子どもが挨拶の概念を理解できる?」

「ああ、それなんだが、我にも良くわかって無くてな。アストライア族随一の頭脳を持つ族長に話を聞きたいと思って連れてきたのだ」

「それは構わないが……、私にも良くわからんぞ。こいつのことを詳しく教えてもらわなければな」

 そう言って二人は岩陰の家に入っていく。父が入っても問題ないほどの大きさで、周辺では最も大きい建物だ。
 俺は取り敢えず父に付いてきただけだし何をすればいいのか分からないから、二人の後を追いかけた。

 建物の内部は外よりもさらに文明を感じさせる。水中でも光る照明器具、物を入れておくための棚。料理をするための道具のようなものも見える。

 野生動物なんだから生で食っても問題ないと思うかもしれないが、寄生虫や細菌と言うのは馬鹿にできない。その点、水中でも炎の魔法が使えれば、食材を安全に食べることができる。

 この女、族長と言うだけあって良い暮らしをしているようだ。それに魔法にも長けていると見た。やっぱり魔法にも頭脳とか関係しているのだろうか。
 アストライア族というものの規模が良くわかっていなかったが、これは相当な文明レベルだ。もしかしたら陸上の人間たちよりも文明は発展しているかもしれない。

 父と族長は俺について話している。父は彼女を相当信頼しているらしく、俺が異世界から来たことや、三回目で念話魔法を獲得したことなども話していた。
 俺が異世界から来たことには納得していた父だが、それでも子どものうちは知能が無いのが普通。前世の記憶があったとしても、それを扱うことはできないはずという前提で話し合っている。

 正直なところ、俺もそこには納得いっていないのだ。この身体は間違いなく子供。父の話によると、どんなに早くとも500年は生きていなければ、知能を獲得することはできないらしい。
 つまり脱皮を1000回以上しなければいけないということ。

 さらに現代の知識を持ち出すと、少なくともこの身体では、人間の思考を処理するのに必要な脳細胞が足りていないはずなのだ。
 だから俺の体のどこかで、この思考を制御する何かが働いているはず。それが何かは、今はまだ分からないが。

「ふ~む。この坊主について色々仮説を立ててみたが、検証する術はないし、どれも的を得ているとは言えないな」

 フラフラと大きな族長宅を探索していたら、いつの間にかかなり時間が経っていたようだ。壁に立てかけてある板には、何やら模様が描いてある。
 あれは、文字か!? ここは紀元前千数百年前の中国レベルの文明のはず。なのにロブスターが文字を獲得しているとは。恐るべき知能の高さだ。

「このまま考えていても仕方がない。それに、あの子は間違いなく強い戦士になるぞ。アグの息子だし、あの若さで言葉を話す。色々教育してみよう」

 ムドラストはそう言うと俺に近づき持ち上げた。タイタンロブスターの大人が子どもに良くやる。自分の頭の辺りに持ち上げて話しかけるしぐさ。

「ニー、お前は魔法には興味があるかい? きっとここに来るまでアグが沢山見せてくれたと思うが、急に現れる不思議な力だ。お前が望むのなら、私が直々に教えてやろう」

「族長自ら魔法の教育を!? ありがたい! ニー、これはまたとないチャンスだぞ」

 父は彼女の言葉に声を上げて喜んだ。彼の魔法も素晴らしいものと思うが、彼女の力はそんなに強いのか。
 魔法、当然興味がある。異世界に来たら必修科目といえるだろう。それも、あれだけ強い父が認める族長から教えてもらえるなんて。

「はい! 興味、あります。ぜひ、教えてください!」

 その日から、俺の魔法の修業が始まった。
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