※異世界ロブスター※

Egimon

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第二章 アストライア大陸

第二十五話 ご機嫌な朝食

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 村長の家で一晩明かし、あたたかな日差しで目が覚める。
 地上はいいな。今が何時くらいなのかすぐに分かる。朝日で目覚めるなんて久しぶりだ。

「起きろウチョニー、朝だぞ。今日から情報収集と仕事を始めるから」

 身体の大きなウチョニーの硬い外骨格を手の甲で叩くと、コンコンという音がする。
 改めて人間の手で触ってみると、彼女の肉体のなんとたくましいことか。守られるというのは少々複雑な気持ちだが、彼女の方が強いことは確実だ。

「そんなに触ったらくすぐったいよニー。もう起きてるから」

 くすぐったい……? こんな硬い外骨格に、人間の皮膚のような触角が存在するのか?
 やっぱりウチョニーはおかしい。何故彼女は俺たちの常識に収まらないのか。

 村長さんはまだ起きていない。日差しが出ているとはいえまだ朝は早い。
 彼はこの広間ではなく、隣の部屋で寝ているのだ。彼には寝床を提供してもらったし、朝食の準備でもしておいてやろう。

「ウチョニー、ちょっと海に行って新鮮な魚を取ってきてくれないか?」

「わかった~。朝の運動にはちょうどいいね」

 ウチョニーに主菜の調達を任せ、俺は別の食材の調理をするとしよう。
 キッチンはこの部屋と繋がっている。余ってる食材もテキトウに使わせてもらおう。

 取り敢えず米を水で軽く洗い、ボウルに移して水を張る。炎の魔法で火をつけ、蓋をしておけば数十分後にはおいしい米が炊けているはずだ。こういう時魔法はやっぱり便利だよな。

 昨日知ったが、この国の主食は米らしい。日本を思い出す、懐かしさがあった。
 しかし、この国の米はかなり球形で、日本の細長い米とは違う。かなりもちもちした食感の米である。

 ちゃんと不要な部分は剥がしてあり、綺麗な白米だ。
 昔にやったことがあるが、機械を使わずに精米するのって結構めんどくさいんだよな。ナチュラルに白米があるってことは、この村長もかなり力を持った人物なんだろうな。

 水の分量を適切に管理すれば日本の米に近い食感になるだろうが、そんな調整俺にはできん。前世でも今世でも基本的に自炊はしているが、特別料理が上手いということはない。

「さて、米の準備は出来たし、次は野菜かな」

 ご機嫌な朝食を用意してあげよう。
 ここの作物はウリっぽいものが多い。きっとこの大陸にある、塩害に強い植物なのだろう。

 甘みの少ないスイカのようなものや、キュウリみたいなものもあった。
 それから葉物野菜もいくつかある。小松菜によく似ているな。これも海が近いけど、こういうのも問題なく育つのか。

 待てよ……。生野菜にするつもりだったが、この野菜生で食べて大丈夫か?
 俺たちは大丈夫だろうが、高齢の村長に食わせるのはちょっと怖い。炒め物にしようか。

 フライパンとか……ないわ。そりゃそうか。紀元前数千年程度の文明であるこの大陸、金属類は未だに出回っていない。鉄なんてものは誰も知らないだろう。

 仕方がない。魔法で調理するか。
 まず炎で殺菌した平たい石を魔法で用意し、ここに野菜を並べる。これを炎魔法で炒めていく。

 ただ調味料が少ない。基本的には塩しかないな。醤油とか味噌とか、もうちょっとレパートリーが欲しいところだ。全部味付けが塩ってのもな。いずれ改善する必要がある。

 取り敢えずは、この野菜も塩で味付けしよう。男は味が濃い方が……待てよ、村長は高齢だ。塩分ってなんか高齢になると身体に悪いみたいなのなかったっけ?
 ここは少々薄めの味付けにしておこう。

「帰ってきたよ~。沖まで出てちょっとおっきな魚取ってきちゃった!」

 おや、ウチョニーが戻ってきたようだ。
 そちらを見てみると、ウチョニーが魚を運んで家に入ってきていた。タイタンロブスターの特徴、四股に分かれた指を使って器用に魚を掴んでいる。これによって、俺たちは人間の手にも等しい器用な動作が可能になっているのだ。

「ありがとう。もう少しでできるから、村長を起こしてきてくれないか?」

「オッケー。朝ごはん楽しみにしてるね!」

 ウチョニーは軽い足取りで村長を起こしに行った。運動が出来て調子がいいみたいだ。
 ただ、地面を濡らすのはどうにかしてくれ。

 水中生活じゃ絶対に役に立たないのに、ムドラストに無理やり教えられた風魔法がこんな所で役立つとは思ってなかった。
 炎と風の混合魔法で木の床を乾かす。カビが生えたら大変だからな。

 さて、ウチョニーが持ってきてくれたこの鮭のような魚。刺身にしようかとも思ったが、人間にどんな影響があるか分からない。これも火を通すか。
 これが鮭だとしたら、寄生虫も怖いし。この世界の海にどんな寄生虫がいるか知らないけど。

 魚を捌くのは得意だ。刃物はないが、龍断刃を使って俺の手を包丁並みの切れ味にすればいい。

 本来ロブスターの姿で使う魔法だが、俺の実力なら人間の姿でも使える。
 ムドラストには必要ないって言われたけど、この魔法は憧れがあったしな。魔術師の俺の場合実用性は薄いが、こんなにカッコいい魔法はないだろう。

 鮭を三枚おろしにし、骨やガラを水に入れ、塩を雑にぶち込んで煮立てる。途中で身も入れ、汁物の具材とした。
 よくわかんない白い液体は掬って取り出し、順調に味を出していく。

 最後に葉物野菜も入れ、彩を増した。汁物はこれで完成かな。味は知らん。多分旨いだろ。

 鮭の身部分は石の上で炙り、塩をまぶして完成。小骨もしっかり取っておいた。高齢の村長でも飲み込んで喉に刺さる心配はないだろう。

 白米に焼き鮭、魚介の汁物に野菜炒め。特に意識していなかったが、かなり和風の朝食を作ってしまったな。我ながらおいしそうだ。

「村長起こしてきたよ~。っていうか、ちょうど起きるところだったみたいだけど」

 ウチョニーが村長を連れて隣の部屋から出てきた。

 何か時間かかってるなと思ったけど、村長の部屋に入る前に丁寧に水を落としてたみたいだ。呼吸器の所以外乾いている。
 そういうのは家に入る前にやってほしかったけど。

「朝食を作ってくれていたんですか、ありがとうございます」

「ああ、簡単なものだけどな。もうすぐ米が炊けるから、朝飯にしよう」

 俺は米を入れておいた鍋の蓋を開けて確認する。うん、うまい具合に炊けてる。ほっかほかだ。

 ウチョニーも村長も既にちゃぶ台を囲んで座っている。
 床は畳じゃなくて木材なのに、尻が痛くならないのか? 特に座布団を敷いてる様子もないし。

 まあそれは良い。作った料理を並べ、朝食にしよう。

 皆各々の料理に手を付け始めた。中々悪くない味だ。自信なかったクソ雑スープも、俺は好きな味だな。

 村長も温かいスープを飲んでいる。

「優しい味ですね。本当にありがとうございます。久しぶりにこんなおいしい料理を食べました。いつも自分で作っていますが、私は料理が上手くはないので」

「喜んでもらえてなによりだよ。うん、我ながらおいしく出来た」

 どうやら村長の口に合ったようだ。他の料理も次々と食べている。その度に笑顔を見せてくれて、作った甲斐があったというものだ。

 ウチョニーもおいしそうに食べている。
 ロブスターだからと言って汚く食べることはなく、触角や節足で器用に食器を持ち綺麗に食べている。

「それで村長、技術提供をしてほしいという話だったが、具体的に今この村で困っていることはあるか?」

 まずは村人の信用を勝ち取っておきたい。そして信用を得るなら、一人ひとり対話するか、分かりやすい功績を残すのが良い。
 俺に向いてるのは間違いなく後者だな。

「そうですねぇ、壁の中の作物はある程度守られているのですが、最近魔獣が山から降りてきていて困っているんです。子どもたちにも被害が出るかもしれませんし、どうにかする方法を教えていただけないでしょうか」

 なるほど、魔獣被害か。そろそろこっちは冬になるから、冬眠に備えて食料を確保しに来ているのだろう。

 この村はかなりの範囲に広がる壁で守られているが、水田の大部分は壁の外にある。畑も壁の外に多く、山を降りてきた魔獣に荒らされてしまうのだ。

 相手がどんな魔獣かにも寄るが、力になることは出来る。まずはそこから始めようか。
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