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第二章 アストライア大陸
第五十一話 人外バトルッ!
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俺の攻撃を受け流し多少混乱が収まったのか、ズェストルは慎重に俺から距離を取る。
奴は確かに体格の大きい竜種だが、それ以前に、魔法に長けた準精霊。本来の戦闘スタイルは、遠距離魔法で一方的に攻撃することなのだろう。
しかし、だからと言って俺も遠距離攻撃に徹していれば、いつかは負ける。奴の魔法障壁は凄まじく硬い。それは、俺の持つ遠距離魔法の中でも最大威力である、水刃が通用しなかったことからも良くわかる。
そもそも、魔力というのは身体の大きさに比例して総量が増えるものだ。遠距離で魔法の打ち合いなどしていれば、俺から見たら無尽蔵とも言える魔力量に圧倒され、あっけなく殺されることになる。だから持久戦は絶対にダメだ。
どうしたものか。近距離攻撃なら、爆発系の魔法もある。龍断刃なども、場合によっては水刃より高い威力を発揮するだろう。
だが、近距離は奴の得意分野。無策で飛び込むのは非常に危険だ。
奴は体格が大きい分、俺よりも遥かにリーチが長い。極論、奴がその爪をちらつかせ続けるだけで、俺はそれ以上近づけなくなるのだ。俺の拳で致命傷を負わせるには、最低限首元まで辿り着く必要があるというのに。
「難しいな。何か、この状況を打破できる魔法はないものか。今までに多くの魔法を学んできたのだから、その中に、獣龍ズェストルを打倒できるものが……」
不意に、俺の横から鳴き声がした。それは、ここまで共に旅をしてきた相棒のもの。村の防衛戦では多大な貢献をし、森と人間たちとの付き合い方を一変させた生物。準精霊、プロツィリャント。
「そうか。お前ならズェストルの懐に潜り込めるかもしれない。奴の防御魔法だけでも狂わせれば、その後は俺が攻撃できる。良く教えてくれた。近接戦闘はお前に任せよう、スターダティル!」
相棒スターダティルは、任せろと言わんばかりに、雄々しい鳴き声を上げ飛び出していく。
やはり、プロツィリャントとは哺乳類の理想形のような姿をしていて、ズェストルから放たれる魔法の弾丸をいとも容易く躱して見せた。
右に左に、時に跳躍し時に急降下し、後ずさりで距離を取ろうとするズェストルを真正面から追い詰めていく。
正直、彼がこんなにも動けるとは思っていなかった。今まで、スターダティルは魔法や生物としての性能を見せつけることはあっても、その身体能力を活かす場面は少なかった。ゆえに、俺も実感していなかったのだ。プロツィリャントという生物が、如何に優れた存在であるのかを。
スターダティルは勇敢に攻めていく。当たれば即死、または重傷を負うだろう魔弾を前に、一歩も引く気配がない。それどころか自ら飛び込み、ズェストルに「そんなもの当たるわけがない」と見せつけているようだ。
さしもの獣龍もこれには怯み、翼を大きく広げて威嚇。人間とは違って身体の何処からでも魔法を放てる準精霊は、二本足で立ち上がりさらに自分を大きく見せた後、その大きな身体から無数の魔弾を放ち始めた。
「避けられないものは俺が防ぐ。お前は気にせずまっすぐ進め。そして、奴の魔法を止めて見せろ。そこからは俺がやる! 突っ込めスターダティル!」
スターダティルに迫る魔弾の悉くを、俺は魔法障壁と水刃で打ち落とす。
魔弾とはあらゆる属性魔法に共通する攻撃魔法で、その性質上、有効な対抗魔法が存在しない。向こうがどの属性の魔弾を放っているのか、簡単には判別が付かないからだ。
ゆえに、魔弾を打ち落とすのならば、こちらも魔弾を使うか、それに準ずる攻撃魔法や魔法障壁で防ぐのが簡単である。その分命中精度や連射速度も要求されるが、その点は心配いらない。俺は脱皮の効果で脳の一部を強化しているから。それに、集中力は生態魔法でも強化が可能だ。
ズェストルの放つ魔弾は単調で、とにかく撒き散らしているだけ。恐らくだが、スターダティルがどのような軌道で魔法を避けるのか分からないのだろう。だから、高威力の魔法を面的に撒き散らしている。
確かに、野生のプロツィリャントを相手するのなら、これ以上ないほど有効な手段だ。プロツィリャントは元来防御魔法を持たないから。だが、スターダティルには俺がいる。たとえ避けきれなくとも、俺が防げば全く問題ないのだ。
ついに、吹きすさぶ魔弾の中、スターダティルは奴の足元まで辿り着いた。いくら準精霊と言えど、視線の通らない場所へ魔法を命中させるのは至難の業。奴が全身の魔法細胞から一斉に魔法を放つ、などという暴挙に出ない限り、足元は安全地帯と言える。
スターダティルもそれを理解しているのか、奴の足元を走り回り、魔法を打たせないようにしている。そのまま得意の風魔法を使い、腹下や脛を重点的に攻撃し始めた。
やはり賢いな。直接爪や牙で攻撃してしまえば、スターダティルがその場にいることが痛覚でバレてしまう。そうなれば、全身から魔法を放てるズェストルが彼に魔法を命中させるのは、さほど難しいことではない。
だから、懐に潜り込んだとしても敢えて近接攻撃は使わず、あくまでも遠距離攻撃に徹しているのだ。
しかし、獣龍ズェストルに致命傷を与えるには、スターダティルの魔法は少々非力すぎるようだ。一撃で人間を殺しうる威力のはずだが、ズェストルの厚い体毛と皮膚に防がれている。いくら機動力が高くとも、小柄なプロツィリャントではどうしても厳しいのだ。
「……だが、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ。スターダティルが懐に潜り込んだことで、防御支援が必要なくなったんでな。こっちはこっちで準備を進めさせてもらった! 喰らえやボケナス! 爆裂魔法ッ!!」
爆発魔法最大のネックは、術者からの距離が開くと、極端に制御が難しくなる点にある。狙った対象に命中しなかったり、威力が大きく減衰したりと、爆裂魔法の扱いは非常に難易度が高いのだ。そのため、ひっつき爆弾等の例外を除き、基本的には近距離で扱う魔法になっている。
逆に言えば、ある程度の時間と集中力をつぎ込み精度を高めれば、遠距離でも扱えないわけではない。スターダティルが時間を稼いでくれたおかげで、俺は今までにないほど強力な爆裂魔法を生み出すことに成功した。
即席ゆえに複雑な構造は含んでいない。今までのように水蒸気爆発を利用したり、音系魔法の小細工を仕込んだりと言うことは一切ナシだ。
しかし注ぎ込んだ魔力は過去最高。結局魔法の威力を高めるのならば、魔力をぶち込みまくるのが最強で最高なのだ。
流石準精霊と言ったところか、爆裂魔法の脅威を瞬時に察知し、スターダティルを狙うのを中断し回避行動を見せた。翼を広げ羽ばたき始めたのだ。
だが、獣龍ズェストルは小柄な鳥ではない。いくら魔法を使っていようとも、その巨体を持ち上げるのにはある程度の滑走とパワーが必要。その隙を、スターダティルが逃すはずはなかった。
ズェストルに比べ遥かに小柄なスターダティルは、俺の爆裂魔法が近づいているにも関わらず、一瞬で跳躍、飛行し、ズェストルの頭上まで躍り出た。
一体何をするつもりなのかと思うと、次の瞬間、彼はズェストルの大きな翼に噛みついた。奴からの反撃も恐れず、決して離さんという気概を感じる。
驚いたことに、翼の付け根を噛みつかれたズェストルは、たったそれだけで飛ぶことを諦めた。まるで以前にも同じことがあったかのように、すんなりと止めたのだ。
そして、ズェストルよりも遥かに機動力の高いスターダティルは、牙を離しまんまと逃げおおせる。彼のスピードならば、俺の魔法が命中するよりも早く離脱できるのだ。
飛行が叶わなければ、この森の中、奴が逃げられる場所はない。近づく爆裂魔法に、奴は魔法障壁を何十にも重ね掛けすることで解答とした。これが、奴なりの最後の足搔きなのだろう。
時間をかけて練り上げた爆裂魔法は、流石に水刃とは違う。圧倒的な魔力量と熱量から放たれるエネルギーは、数多の魔法を弾くはずの魔法障壁をいとも容易く破壊していく。その先のズェストルに魔法が届くのも、自明の理であった。
鳴りやまない轟音。木々をなぎ倒す爆風。その魔法から放たれる魔力の波は、あらゆる魔獣、人間を震撼させる。
準精霊、そして竜種をも撃滅せしめる一撃は、森を駆け抜け、沿岸部一帯に轟いた。
奴は確かに体格の大きい竜種だが、それ以前に、魔法に長けた準精霊。本来の戦闘スタイルは、遠距離魔法で一方的に攻撃することなのだろう。
しかし、だからと言って俺も遠距離攻撃に徹していれば、いつかは負ける。奴の魔法障壁は凄まじく硬い。それは、俺の持つ遠距離魔法の中でも最大威力である、水刃が通用しなかったことからも良くわかる。
そもそも、魔力というのは身体の大きさに比例して総量が増えるものだ。遠距離で魔法の打ち合いなどしていれば、俺から見たら無尽蔵とも言える魔力量に圧倒され、あっけなく殺されることになる。だから持久戦は絶対にダメだ。
どうしたものか。近距離攻撃なら、爆発系の魔法もある。龍断刃なども、場合によっては水刃より高い威力を発揮するだろう。
だが、近距離は奴の得意分野。無策で飛び込むのは非常に危険だ。
奴は体格が大きい分、俺よりも遥かにリーチが長い。極論、奴がその爪をちらつかせ続けるだけで、俺はそれ以上近づけなくなるのだ。俺の拳で致命傷を負わせるには、最低限首元まで辿り着く必要があるというのに。
「難しいな。何か、この状況を打破できる魔法はないものか。今までに多くの魔法を学んできたのだから、その中に、獣龍ズェストルを打倒できるものが……」
不意に、俺の横から鳴き声がした。それは、ここまで共に旅をしてきた相棒のもの。村の防衛戦では多大な貢献をし、森と人間たちとの付き合い方を一変させた生物。準精霊、プロツィリャント。
「そうか。お前ならズェストルの懐に潜り込めるかもしれない。奴の防御魔法だけでも狂わせれば、その後は俺が攻撃できる。良く教えてくれた。近接戦闘はお前に任せよう、スターダティル!」
相棒スターダティルは、任せろと言わんばかりに、雄々しい鳴き声を上げ飛び出していく。
やはり、プロツィリャントとは哺乳類の理想形のような姿をしていて、ズェストルから放たれる魔法の弾丸をいとも容易く躱して見せた。
右に左に、時に跳躍し時に急降下し、後ずさりで距離を取ろうとするズェストルを真正面から追い詰めていく。
正直、彼がこんなにも動けるとは思っていなかった。今まで、スターダティルは魔法や生物としての性能を見せつけることはあっても、その身体能力を活かす場面は少なかった。ゆえに、俺も実感していなかったのだ。プロツィリャントという生物が、如何に優れた存在であるのかを。
スターダティルは勇敢に攻めていく。当たれば即死、または重傷を負うだろう魔弾を前に、一歩も引く気配がない。それどころか自ら飛び込み、ズェストルに「そんなもの当たるわけがない」と見せつけているようだ。
さしもの獣龍もこれには怯み、翼を大きく広げて威嚇。人間とは違って身体の何処からでも魔法を放てる準精霊は、二本足で立ち上がりさらに自分を大きく見せた後、その大きな身体から無数の魔弾を放ち始めた。
「避けられないものは俺が防ぐ。お前は気にせずまっすぐ進め。そして、奴の魔法を止めて見せろ。そこからは俺がやる! 突っ込めスターダティル!」
スターダティルに迫る魔弾の悉くを、俺は魔法障壁と水刃で打ち落とす。
魔弾とはあらゆる属性魔法に共通する攻撃魔法で、その性質上、有効な対抗魔法が存在しない。向こうがどの属性の魔弾を放っているのか、簡単には判別が付かないからだ。
ゆえに、魔弾を打ち落とすのならば、こちらも魔弾を使うか、それに準ずる攻撃魔法や魔法障壁で防ぐのが簡単である。その分命中精度や連射速度も要求されるが、その点は心配いらない。俺は脱皮の効果で脳の一部を強化しているから。それに、集中力は生態魔法でも強化が可能だ。
ズェストルの放つ魔弾は単調で、とにかく撒き散らしているだけ。恐らくだが、スターダティルがどのような軌道で魔法を避けるのか分からないのだろう。だから、高威力の魔法を面的に撒き散らしている。
確かに、野生のプロツィリャントを相手するのなら、これ以上ないほど有効な手段だ。プロツィリャントは元来防御魔法を持たないから。だが、スターダティルには俺がいる。たとえ避けきれなくとも、俺が防げば全く問題ないのだ。
ついに、吹きすさぶ魔弾の中、スターダティルは奴の足元まで辿り着いた。いくら準精霊と言えど、視線の通らない場所へ魔法を命中させるのは至難の業。奴が全身の魔法細胞から一斉に魔法を放つ、などという暴挙に出ない限り、足元は安全地帯と言える。
スターダティルもそれを理解しているのか、奴の足元を走り回り、魔法を打たせないようにしている。そのまま得意の風魔法を使い、腹下や脛を重点的に攻撃し始めた。
やはり賢いな。直接爪や牙で攻撃してしまえば、スターダティルがその場にいることが痛覚でバレてしまう。そうなれば、全身から魔法を放てるズェストルが彼に魔法を命中させるのは、さほど難しいことではない。
だから、懐に潜り込んだとしても敢えて近接攻撃は使わず、あくまでも遠距離攻撃に徹しているのだ。
しかし、獣龍ズェストルに致命傷を与えるには、スターダティルの魔法は少々非力すぎるようだ。一撃で人間を殺しうる威力のはずだが、ズェストルの厚い体毛と皮膚に防がれている。いくら機動力が高くとも、小柄なプロツィリャントではどうしても厳しいのだ。
「……だが、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ。スターダティルが懐に潜り込んだことで、防御支援が必要なくなったんでな。こっちはこっちで準備を進めさせてもらった! 喰らえやボケナス! 爆裂魔法ッ!!」
爆発魔法最大のネックは、術者からの距離が開くと、極端に制御が難しくなる点にある。狙った対象に命中しなかったり、威力が大きく減衰したりと、爆裂魔法の扱いは非常に難易度が高いのだ。そのため、ひっつき爆弾等の例外を除き、基本的には近距離で扱う魔法になっている。
逆に言えば、ある程度の時間と集中力をつぎ込み精度を高めれば、遠距離でも扱えないわけではない。スターダティルが時間を稼いでくれたおかげで、俺は今までにないほど強力な爆裂魔法を生み出すことに成功した。
即席ゆえに複雑な構造は含んでいない。今までのように水蒸気爆発を利用したり、音系魔法の小細工を仕込んだりと言うことは一切ナシだ。
しかし注ぎ込んだ魔力は過去最高。結局魔法の威力を高めるのならば、魔力をぶち込みまくるのが最強で最高なのだ。
流石準精霊と言ったところか、爆裂魔法の脅威を瞬時に察知し、スターダティルを狙うのを中断し回避行動を見せた。翼を広げ羽ばたき始めたのだ。
だが、獣龍ズェストルは小柄な鳥ではない。いくら魔法を使っていようとも、その巨体を持ち上げるのにはある程度の滑走とパワーが必要。その隙を、スターダティルが逃すはずはなかった。
ズェストルに比べ遥かに小柄なスターダティルは、俺の爆裂魔法が近づいているにも関わらず、一瞬で跳躍、飛行し、ズェストルの頭上まで躍り出た。
一体何をするつもりなのかと思うと、次の瞬間、彼はズェストルの大きな翼に噛みついた。奴からの反撃も恐れず、決して離さんという気概を感じる。
驚いたことに、翼の付け根を噛みつかれたズェストルは、たったそれだけで飛ぶことを諦めた。まるで以前にも同じことがあったかのように、すんなりと止めたのだ。
そして、ズェストルよりも遥かに機動力の高いスターダティルは、牙を離しまんまと逃げおおせる。彼のスピードならば、俺の魔法が命中するよりも早く離脱できるのだ。
飛行が叶わなければ、この森の中、奴が逃げられる場所はない。近づく爆裂魔法に、奴は魔法障壁を何十にも重ね掛けすることで解答とした。これが、奴なりの最後の足搔きなのだろう。
時間をかけて練り上げた爆裂魔法は、流石に水刃とは違う。圧倒的な魔力量と熱量から放たれるエネルギーは、数多の魔法を弾くはずの魔法障壁をいとも容易く破壊していく。その先のズェストルに魔法が届くのも、自明の理であった。
鳴りやまない轟音。木々をなぎ倒す爆風。その魔法から放たれる魔力の波は、あらゆる魔獣、人間を震撼させる。
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