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第二章 アストライア大陸
第五十二話 レッツ解体!
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「まさか、本当に倒せちまうなんて。本当に人間ですか? ウチョニーさんならまだ分かりますけど、ニーズベステニーさんまでこれほどの力を持っているとは」
ボンスタがぽつりと呟いた。開いた口が塞がっていない。よほど、俺の魔法に驚いたのだろう。
彼にはまだ、俺がタイタンロブスターであることは話していない。というか、きっとこの旅が終わっても、彼に真実は明かさないだろう。
俺が今彼らと良い関係を築けているのは、ひとえに、俺が人間だと勘違いしているからだ。きっと、俺がウチョニーと同じタイタンロブスターであると知れば、彼らは対応を改めるのだろう。ウチョニーの影響もあるが、そもそも人間にとって、未知の強力な生物というのは恐怖の対象として映るものだ。
しかし、ボンスタは驚愕しているが、獣龍ズェストルほどの強敵を倒すのならば、あれくらいの威力は当然必要だろう。でなければ、奴の高い魔法耐性で防がれてしまう。
獣龍ズェストルは準精霊の中でもトップクラスに強い魔獣で、当たり前だが、その分厚い毛皮は物理攻撃だけでなく魔法攻撃も防ぐ。スターダティルのおかげで爆裂魔法を形成できたが、あれでも倒しきれない可能性は充分にあったのだ。
「正直、咄嗟に魔法障壁を重ね掛けしてきたときは、コイツは化け物かと思ったよ。魔法障壁は確かに単純な魔力の塊だけど、俺の技量じゃ咄嗟に出せても二、三枚が限界だ。それを、アイツは五枚六枚と生み出して見せた。本当に驚いたね」
「いや、言わずもがな、獣龍ズェストルは化け物ですよ。これほど成熟した個体、本来なら人間が手を出して無事でいられるはずがないですから。貴方こそ、化け物と言われてもおかしくはないと、俺は思いやすけども」
そうか、そうだったな。普通、準精霊に手を出して無傷の人間はいない。タイタンロブスターということは明かしていないが、この実力は彼らにとって脅威となりえる。今は俺を味方と思っているから良いが、そうでなくなった場合、彼ら目線俺は化け物以外の何者でもないだろう。ここは、ある程度のフォローをしておこう。
「いや、今回はスターダティルの強力があってこそだ。俺一人では、とても敵う相手じゃない。そもそも、爆裂魔法なんて普段の戦闘じゃ使えないからな。キャストタイムが長すぎて、足の早い魔獣相手だと話にならない」
「そういうもんですかね。ま、確かにスターダティルが強いのは、俺も分かっていますよ。ただ、普通の人間は根本的に、あんな出力の魔法を扱えないって話で……」
「そういえばニー! この竜はどうするの? 標本を回収したいって言ってたけど、何か目的があって倒したんでしょ?」
ボンスタの話を遮るように、後ろからウチョニーが話しかけてきた。
ナイスタイミングだ。正直、これ以上話を続けていたらボロが出るところだった。ボンスタはあれで聡い男だからな。俺の正体に気付かれる可能性があった。
「……まあ、村や人里に近づく危険性があったのは事実だ。ロンジェグイダさんから聞いた話だと、獣龍ズェストルはもっと山側の人気のない場所に生息する準精霊で、こんな森の浅い場所にはいないはず。このままだと人的被害が出る可能性も考慮して倒した。だが一番の目的は……魂臓と魔法細胞の回収だな」
そう、獣龍ズェストルを倒した最大の目的は、その力の源である魂臓と魔法細胞を調べるためだ。この場合、当然細胞の完成している成体の標本も大切だが、逆に未成熟な幼体の標本も研究的価値が高い。
俺が父を超えるうえで必要なことは何かずっと考えていた。単純に行けば、ロンジェグイダさんやウチェリトさんに弟子入りでもして、修行させてもらうべきだろう。彼らはこの大陸を守護する大精霊で、その力も果てしない。
しかしふと思い返してみた。父も、アストライア族という、この海の広大な領地を支配する民族の守護者だ。地上にも、何度も上陸している。その彼が、あの二人と面識がないはずはないのだ。絶対に、何らかの関係を持っている。
であれば、俺が二人から教えを乞うことで、父を超える力を手に入れられるのだろうか。
答えは否だ。あれほど強力な精霊、父が興味を持たないはずがない。きっと数百年前に、既に彼らの技術を取り入れている。当たり前だ。
父と同じことをして、彼を超えることは出来ない。タイタンロブスターという生物は、その性質上、年長者の背中を追いかけているだけでは絶対に追いつけないのだ。何か、誰も思いつきもしないようなことで力を得なければならない。
その第一歩が、この獣龍ズェストルの標本だ。準精霊の強さの秘訣は、恐らくその内臓にある。主に、その魂臓と魔法細胞にあるはずなのだ。
これを研究し、解明し、俺の技術として取り込まなければならない。俺は父のような絶対的強者ではなく、あくまでも大発明家ニーズベステニーなのだから。
そうと決まれば、善は急げだ。俺は早速、この場でズェストルの成体を解体し始める。顔と前足の一部は吹き飛んでいるが、ほとんどのパーツが無事だ。これならば、良質な調査が出来るはず。
「解剖学ならアタシの専門分野だよ。魂臓と魔法細胞を調べたいんだよね? なら解体はアタシに任せて、ニーは機材の準備をお願い」
「助かるよウチョニー。研究向きの解体というのはどうにも苦手なんだ。料理をするのなら得意なんだけどね」
「アハハ! ニーはお料理が上手いもんね。大丈夫、アタシに任せておけば心配いらないよ」
本当に、よく気が付く。解剖が下手という話はしたことがないはずだが、ウチョニーにはバレていたのか。それとも、ただ単に自分の得意分野を活かしたかっただけなのか。分からないけど、実際に助かっているのは本当だ。
彼女はあれで、解剖学の最先端技術を持っている。この間の手術もそうだが、そもそも顕微鏡もなしに細胞を見つけ出し、それを魔力で操作する技術を生み出したのは彼女だ。
確かに生物は『細胞』というもので出来ている、と教えたのは俺だが、魔法だけでそれを見つけ出す彼女の技術力には、いつも驚かされてばかりだ。
手際よく皮をはがし骨と肉を分離させていくウチョニー。それを横目で見つつ、俺も自分の作業を進める。
と言っても、必要な器具を空間収納から取り出すだけなんだが。
以前までなら、空間収納から狙ったモノを取り出すのは難しかったが、いつぞやの師匠の訓練のおかげで、これも随分上手くなったものだ。
思い返すと、ドラ〇もんのようにモノを撒き散らしていたころが懐かしい。
そんなことを考えながら取り出すのは、タイタンロブスターにはおよそ必要ないだろう、ステンレスのハサミやナイフだ。
龍断刃を応用すれば素手でも肉を切れるが、人間の手や指を操作するのなら、やはりこういった器具がある方が何かと便利なのだ。
「ニーズベステニーさん、そいつぁ何ですか? 見たことのない色の器具ですね。稲から米を剥がす石包丁にも似ている? 不思議な道具を使うんですねぇ」
「何って、ただのナイフとハサミだが……そういえばお前たち、鉄製の武器は持っていないな。普段使いしているのは石杭だし。……まさかとは思うが、お前たち鉄を知らないのか!? 青銅器や金銀も!?」
いや、冷静になれニーズベステニー。パラレルさんが一番初めに言っていたじゃないか。ここは地球で言うところの、紀元前千年前くらいの文明レベルだって。なら、金属を知らなくても仕方はない。
……だが、アストライア族には普通に金属があったぞ? 何を隠そう、師匠の自宅にある時計がそうだ。アストライア族じゃ、金属はいうほど珍しくない。
なら、どうして人間と交流があるはずの師匠は、彼らに金属を伝えなかったのだろうか。
もしかして、アストライア族の族長ともあろう者が、金属がもたらす恩恵を理解していないというのか?
いや、あり得る。あの人は聡明だが、どうにも魔法に固執しすぎるんだ。自然現象などにも詳しいが、やはり魔法で全て解決しようとする。
「……だが、これは好都合かもしれないな。良し、これから金属の有用性を叩き込んでやろう。これが広まれば、賊の親玉なんか簡単に葬り去れるぜ」
ボンスタがぽつりと呟いた。開いた口が塞がっていない。よほど、俺の魔法に驚いたのだろう。
彼にはまだ、俺がタイタンロブスターであることは話していない。というか、きっとこの旅が終わっても、彼に真実は明かさないだろう。
俺が今彼らと良い関係を築けているのは、ひとえに、俺が人間だと勘違いしているからだ。きっと、俺がウチョニーと同じタイタンロブスターであると知れば、彼らは対応を改めるのだろう。ウチョニーの影響もあるが、そもそも人間にとって、未知の強力な生物というのは恐怖の対象として映るものだ。
しかし、ボンスタは驚愕しているが、獣龍ズェストルほどの強敵を倒すのならば、あれくらいの威力は当然必要だろう。でなければ、奴の高い魔法耐性で防がれてしまう。
獣龍ズェストルは準精霊の中でもトップクラスに強い魔獣で、当たり前だが、その分厚い毛皮は物理攻撃だけでなく魔法攻撃も防ぐ。スターダティルのおかげで爆裂魔法を形成できたが、あれでも倒しきれない可能性は充分にあったのだ。
「正直、咄嗟に魔法障壁を重ね掛けしてきたときは、コイツは化け物かと思ったよ。魔法障壁は確かに単純な魔力の塊だけど、俺の技量じゃ咄嗟に出せても二、三枚が限界だ。それを、アイツは五枚六枚と生み出して見せた。本当に驚いたね」
「いや、言わずもがな、獣龍ズェストルは化け物ですよ。これほど成熟した個体、本来なら人間が手を出して無事でいられるはずがないですから。貴方こそ、化け物と言われてもおかしくはないと、俺は思いやすけども」
そうか、そうだったな。普通、準精霊に手を出して無傷の人間はいない。タイタンロブスターということは明かしていないが、この実力は彼らにとって脅威となりえる。今は俺を味方と思っているから良いが、そうでなくなった場合、彼ら目線俺は化け物以外の何者でもないだろう。ここは、ある程度のフォローをしておこう。
「いや、今回はスターダティルの強力があってこそだ。俺一人では、とても敵う相手じゃない。そもそも、爆裂魔法なんて普段の戦闘じゃ使えないからな。キャストタイムが長すぎて、足の早い魔獣相手だと話にならない」
「そういうもんですかね。ま、確かにスターダティルが強いのは、俺も分かっていますよ。ただ、普通の人間は根本的に、あんな出力の魔法を扱えないって話で……」
「そういえばニー! この竜はどうするの? 標本を回収したいって言ってたけど、何か目的があって倒したんでしょ?」
ボンスタの話を遮るように、後ろからウチョニーが話しかけてきた。
ナイスタイミングだ。正直、これ以上話を続けていたらボロが出るところだった。ボンスタはあれで聡い男だからな。俺の正体に気付かれる可能性があった。
「……まあ、村や人里に近づく危険性があったのは事実だ。ロンジェグイダさんから聞いた話だと、獣龍ズェストルはもっと山側の人気のない場所に生息する準精霊で、こんな森の浅い場所にはいないはず。このままだと人的被害が出る可能性も考慮して倒した。だが一番の目的は……魂臓と魔法細胞の回収だな」
そう、獣龍ズェストルを倒した最大の目的は、その力の源である魂臓と魔法細胞を調べるためだ。この場合、当然細胞の完成している成体の標本も大切だが、逆に未成熟な幼体の標本も研究的価値が高い。
俺が父を超えるうえで必要なことは何かずっと考えていた。単純に行けば、ロンジェグイダさんやウチェリトさんに弟子入りでもして、修行させてもらうべきだろう。彼らはこの大陸を守護する大精霊で、その力も果てしない。
しかしふと思い返してみた。父も、アストライア族という、この海の広大な領地を支配する民族の守護者だ。地上にも、何度も上陸している。その彼が、あの二人と面識がないはずはないのだ。絶対に、何らかの関係を持っている。
であれば、俺が二人から教えを乞うことで、父を超える力を手に入れられるのだろうか。
答えは否だ。あれほど強力な精霊、父が興味を持たないはずがない。きっと数百年前に、既に彼らの技術を取り入れている。当たり前だ。
父と同じことをして、彼を超えることは出来ない。タイタンロブスターという生物は、その性質上、年長者の背中を追いかけているだけでは絶対に追いつけないのだ。何か、誰も思いつきもしないようなことで力を得なければならない。
その第一歩が、この獣龍ズェストルの標本だ。準精霊の強さの秘訣は、恐らくその内臓にある。主に、その魂臓と魔法細胞にあるはずなのだ。
これを研究し、解明し、俺の技術として取り込まなければならない。俺は父のような絶対的強者ではなく、あくまでも大発明家ニーズベステニーなのだから。
そうと決まれば、善は急げだ。俺は早速、この場でズェストルの成体を解体し始める。顔と前足の一部は吹き飛んでいるが、ほとんどのパーツが無事だ。これならば、良質な調査が出来るはず。
「解剖学ならアタシの専門分野だよ。魂臓と魔法細胞を調べたいんだよね? なら解体はアタシに任せて、ニーは機材の準備をお願い」
「助かるよウチョニー。研究向きの解体というのはどうにも苦手なんだ。料理をするのなら得意なんだけどね」
「アハハ! ニーはお料理が上手いもんね。大丈夫、アタシに任せておけば心配いらないよ」
本当に、よく気が付く。解剖が下手という話はしたことがないはずだが、ウチョニーにはバレていたのか。それとも、ただ単に自分の得意分野を活かしたかっただけなのか。分からないけど、実際に助かっているのは本当だ。
彼女はあれで、解剖学の最先端技術を持っている。この間の手術もそうだが、そもそも顕微鏡もなしに細胞を見つけ出し、それを魔力で操作する技術を生み出したのは彼女だ。
確かに生物は『細胞』というもので出来ている、と教えたのは俺だが、魔法だけでそれを見つけ出す彼女の技術力には、いつも驚かされてばかりだ。
手際よく皮をはがし骨と肉を分離させていくウチョニー。それを横目で見つつ、俺も自分の作業を進める。
と言っても、必要な器具を空間収納から取り出すだけなんだが。
以前までなら、空間収納から狙ったモノを取り出すのは難しかったが、いつぞやの師匠の訓練のおかげで、これも随分上手くなったものだ。
思い返すと、ドラ〇もんのようにモノを撒き散らしていたころが懐かしい。
そんなことを考えながら取り出すのは、タイタンロブスターにはおよそ必要ないだろう、ステンレスのハサミやナイフだ。
龍断刃を応用すれば素手でも肉を切れるが、人間の手や指を操作するのなら、やはりこういった器具がある方が何かと便利なのだ。
「ニーズベステニーさん、そいつぁ何ですか? 見たことのない色の器具ですね。稲から米を剥がす石包丁にも似ている? 不思議な道具を使うんですねぇ」
「何って、ただのナイフとハサミだが……そういえばお前たち、鉄製の武器は持っていないな。普段使いしているのは石杭だし。……まさかとは思うが、お前たち鉄を知らないのか!? 青銅器や金銀も!?」
いや、冷静になれニーズベステニー。パラレルさんが一番初めに言っていたじゃないか。ここは地球で言うところの、紀元前千年前くらいの文明レベルだって。なら、金属を知らなくても仕方はない。
……だが、アストライア族には普通に金属があったぞ? 何を隠そう、師匠の自宅にある時計がそうだ。アストライア族じゃ、金属はいうほど珍しくない。
なら、どうして人間と交流があるはずの師匠は、彼らに金属を伝えなかったのだろうか。
もしかして、アストライア族の族長ともあろう者が、金属がもたらす恩恵を理解していないというのか?
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