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第二章 アストライア大陸
第六十四話 空間転移攻略
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俺は今、異様な光景を目にしている。それは、水中で微動だにすることなく静止するアーキダハラだ。水中戦もある程度できるという彼は、俺たちのように泳ぐことはない。移動は全て、彼特有の魔法である空間転移で行うようだ。
『アーキダハラ、まずは俺から行こうか。体格を見ればわかると思うが、ウチョニーは俺よりも遥かに強い。特に水中戦においてはな。だから、俺の動きに付いてこれないようじゃ水中戦を制することは難しいぞ。当然、それはドゥフが相手でもな』
水の精霊ヴァダパーダ=ドゥフは、正直俺たちタイタンロブスターにも対抗できるほどの実力者だ。水中で成熟したタイタンロブスターとやり合えるのは、ごくわずかな種族に限られる。だからこそ、奴の実力は脅威なのだ。
勝てる自信はある。算段も付いている。だが、予想外のことが起きないとは限らない。
特に、奴の魔法。あれは俺でも制御権を奪えないほど強固なものだった。出力に関しても、真正面からぶつかってどうにかできるものではない。
ならばこそ、考えるしかないのだ。水中というこの環境で、どうすれば奴を倒せるのか。
それを知るには、同じく精霊種であるアーキダハラとの戦闘は大きな経験値となりえる。
目を向けると、アーキダハラは独特な構えをとってこちらを睨みつけていた。
両手を前に向け、足は肩幅に開いている。およそ人型の構えとは思えず、また水中に適したものでもない。俺の目には異様としか映らなかった。
『それでは行かせてもらうぞ、ニーズベステニー! 実戦を想定して、魔法の出力は全て殺傷能力のあるものにさせてもらうッ!』
念話が届いた瞬間、俺の背中に何かが触れている感触がした。
外骨格があるゆえに感度は低いが、俺の強化された五感ならば感じ取ることが出来る。人間の指だ。実に繊細な武器が、俺の背に触れていた。
瞬時に、俺は前方へ向かって急発進した。ロブスターゆえ後ろ向きの方がスピードはあるが、直感的にそちらを回避したのだ。
しかし、どうやら完全には避けきれなかったらしい。
『なるほど。頭では理解していたが、これほど強力なものか。厄介だな、空間転移とそれを応用した攻撃魔法というのは』
『悪いな、早速部位欠損ダメージだ。タイタンロブスターである君には怪我にもならないと思うが、本当に大丈夫か?』
彼の言う通り、俺は部位欠損ダメージを受けた。と言っても、尾びれが一部切断されただけだ。水流操作で泳ぐ俺にとっては、あってもなくても構わない器官である。
『構わないさ、この程度は。それよりも、もっと空間転移を見たい。今は運良く避けられたが、次も上手く行くとは限らないからな。この感覚は初めてだ』
やはり、移動速度がゼロというのはこれ以上なく厄介だ。俺がどれほど最短距離、最速を導き出そうとも、そもそも『速度』という概念の中で戦おうとすること自体が間違いなのだから。俺と彼とでは、文字通り次元が違う。
距離・速度に関係なく相手に追いつき、時間という感覚を置き去りに攻撃を放つ。
いったいどうやって躱せば良いものか。カウンターはどのように放つべきか。相手の動きを崩すにはどうするべきなのか。考えることは非常に多い。
『やっぱり、厄介なのはその目だな。ドゥフは『気』を頼りに転移先まで特定すると言っていたが、そもそも瞼を開かないじゃないか。精霊の目は全てを見通す。たとえどんな覆いがあろうとも、見ようと思えばそれを無視できる。本当に厄介だ』
せめてアーキダハラの視線の動きが見えれば、こちらも対応のしようがあるのだが。
これでは、彼が何処に転移するのか見当もつかない。こちらは後手に回るしかないというのが現状だ。しかし、それでは攻撃に転じることができない。
考えろ。空間転移に必要な要素は、彼が全て持っているはずだ。ならば、それを見つけ出してしまえば俺の勝ちは目の前である。
考えろ。彼の空間転移を支えているのはなんだ。精霊の目か? 彼の魔法制御能力か? はたまた、この水中という環境も彼の空間転移を補助してはいないか? 速度と距離をゼロにする力を、最も効果的に扱うためにはどうすればいい。
『……独特の構え。そうか。あの構えこそ、アーキダハラの空間転移における最適解! 水中では腕の動きすらも鈍い。ならば、転移と同時に攻撃できなければ、速度はゼロに出来ない! そのための、突き出した両腕なのか!』
ならばやることは決まっている。構えを崩すだけだ。もしくは、あの構えで触れられないよう立ち回る。
たったそれだけのことで、俺はアーキダハラの空間転移を完封できるはずだ。この環境で、速度をゼロからイチまで引き延ばせれば、もう俺の方が速い。
精霊の目には全てが見えている。それは魔法も含み、全てだ。
ならば、水中だからと見えづらい魔法を使う必要もない。自分の持てる最も速い魔法で彼を撃ちぬくだけだ。
撃ちだすは、渦巻きを起こすほどの回転を纏った水刃。それも、従来のサイズから半分程度になっている。速く、そして大量に撃ちだすためだけの魔法。
水刃の群れはまっすぐアーキダハラへと進んでいく。しかし当然のことながら、これを易々と受けてはくれない。アーキダハラは空間転移で俺の背後に転移した。もちろん、その指が俺の背に触れている。
瞬間、俺の外骨格が背中を中心として大爆発する。
アーキダハラの空間魔法ではなく、俺の爆裂魔法だ。十八番、ひっつき爆弾である。その威力は何度も証明済みである。アストライア族でも愛用されている魔法だ。
瞬時に、アーキダハラは空間転移で俺から距離を取る。流石生粋の精霊。ひっつき爆弾の威力なら指が吹き飛ぶかと思ったが、そうでもなかったらしい。割とケロッとしている。
『俺が背後に転移することを、事前に分かっていたというのか? まさか、俺が空間魔法を放つよりも先に爆裂魔法を扱えるはずはない。空間魔法は数多ある魔法属性の中でも屈指の発動スピードを持っているんだ』
『ただの癖読みだよ。アーキダハラは空間転移で相手の背後を取る癖があるんじゃないかと思ったんだ。最初に会った時も、背後の家屋から声を掛けてきただろう? さっきだってそうだ。背後から攻撃を仕掛けてきた。それが癖読みさ。ドゥフの気とはまた違う技術になるな。こっちのが簡単だと思うが』
実は、もう一つ誘導もしてある。俺は前方に向かって攻撃を放っていたんだ。
普通に攻撃するだけなら側面に転移する可能性もあったが、前方に攻撃が集中していることでその逆、後方に意識を向かせたのだ。まあ、これは癖にちょっと上乗せくらいの効果しかない。
しかし、空間転移の突破方法を少し掴んだ気がする。ようは、アーキダハラが転移するだろう位置を先に予測しておくのが大事なんだな。
それも、テキトウに予想するだけじゃダメだ。確信を持って攻撃を当てられるよう、あらゆる情報を総動員して答えを導き出すのだ。
逆にアーキダハラは、俺の予測を先読みして転移先を変更することで、ドゥフの気配読みに対抗する力を身に着けることが出来る。それこそ、この水中模擬戦の意味なのだ。
『じゃあアーキダハラ、次からはよりドゥフに近い動きをするぞ。理不尽な物量を、空間魔法でどう切り抜ける? その答えを、今ここで導き出すんだ』
『アーキダハラ、まずは俺から行こうか。体格を見ればわかると思うが、ウチョニーは俺よりも遥かに強い。特に水中戦においてはな。だから、俺の動きに付いてこれないようじゃ水中戦を制することは難しいぞ。当然、それはドゥフが相手でもな』
水の精霊ヴァダパーダ=ドゥフは、正直俺たちタイタンロブスターにも対抗できるほどの実力者だ。水中で成熟したタイタンロブスターとやり合えるのは、ごくわずかな種族に限られる。だからこそ、奴の実力は脅威なのだ。
勝てる自信はある。算段も付いている。だが、予想外のことが起きないとは限らない。
特に、奴の魔法。あれは俺でも制御権を奪えないほど強固なものだった。出力に関しても、真正面からぶつかってどうにかできるものではない。
ならばこそ、考えるしかないのだ。水中というこの環境で、どうすれば奴を倒せるのか。
それを知るには、同じく精霊種であるアーキダハラとの戦闘は大きな経験値となりえる。
目を向けると、アーキダハラは独特な構えをとってこちらを睨みつけていた。
両手を前に向け、足は肩幅に開いている。およそ人型の構えとは思えず、また水中に適したものでもない。俺の目には異様としか映らなかった。
『それでは行かせてもらうぞ、ニーズベステニー! 実戦を想定して、魔法の出力は全て殺傷能力のあるものにさせてもらうッ!』
念話が届いた瞬間、俺の背中に何かが触れている感触がした。
外骨格があるゆえに感度は低いが、俺の強化された五感ならば感じ取ることが出来る。人間の指だ。実に繊細な武器が、俺の背に触れていた。
瞬時に、俺は前方へ向かって急発進した。ロブスターゆえ後ろ向きの方がスピードはあるが、直感的にそちらを回避したのだ。
しかし、どうやら完全には避けきれなかったらしい。
『なるほど。頭では理解していたが、これほど強力なものか。厄介だな、空間転移とそれを応用した攻撃魔法というのは』
『悪いな、早速部位欠損ダメージだ。タイタンロブスターである君には怪我にもならないと思うが、本当に大丈夫か?』
彼の言う通り、俺は部位欠損ダメージを受けた。と言っても、尾びれが一部切断されただけだ。水流操作で泳ぐ俺にとっては、あってもなくても構わない器官である。
『構わないさ、この程度は。それよりも、もっと空間転移を見たい。今は運良く避けられたが、次も上手く行くとは限らないからな。この感覚は初めてだ』
やはり、移動速度がゼロというのはこれ以上なく厄介だ。俺がどれほど最短距離、最速を導き出そうとも、そもそも『速度』という概念の中で戦おうとすること自体が間違いなのだから。俺と彼とでは、文字通り次元が違う。
距離・速度に関係なく相手に追いつき、時間という感覚を置き去りに攻撃を放つ。
いったいどうやって躱せば良いものか。カウンターはどのように放つべきか。相手の動きを崩すにはどうするべきなのか。考えることは非常に多い。
『やっぱり、厄介なのはその目だな。ドゥフは『気』を頼りに転移先まで特定すると言っていたが、そもそも瞼を開かないじゃないか。精霊の目は全てを見通す。たとえどんな覆いがあろうとも、見ようと思えばそれを無視できる。本当に厄介だ』
せめてアーキダハラの視線の動きが見えれば、こちらも対応のしようがあるのだが。
これでは、彼が何処に転移するのか見当もつかない。こちらは後手に回るしかないというのが現状だ。しかし、それでは攻撃に転じることができない。
考えろ。空間転移に必要な要素は、彼が全て持っているはずだ。ならば、それを見つけ出してしまえば俺の勝ちは目の前である。
考えろ。彼の空間転移を支えているのはなんだ。精霊の目か? 彼の魔法制御能力か? はたまた、この水中という環境も彼の空間転移を補助してはいないか? 速度と距離をゼロにする力を、最も効果的に扱うためにはどうすればいい。
『……独特の構え。そうか。あの構えこそ、アーキダハラの空間転移における最適解! 水中では腕の動きすらも鈍い。ならば、転移と同時に攻撃できなければ、速度はゼロに出来ない! そのための、突き出した両腕なのか!』
ならばやることは決まっている。構えを崩すだけだ。もしくは、あの構えで触れられないよう立ち回る。
たったそれだけのことで、俺はアーキダハラの空間転移を完封できるはずだ。この環境で、速度をゼロからイチまで引き延ばせれば、もう俺の方が速い。
精霊の目には全てが見えている。それは魔法も含み、全てだ。
ならば、水中だからと見えづらい魔法を使う必要もない。自分の持てる最も速い魔法で彼を撃ちぬくだけだ。
撃ちだすは、渦巻きを起こすほどの回転を纏った水刃。それも、従来のサイズから半分程度になっている。速く、そして大量に撃ちだすためだけの魔法。
水刃の群れはまっすぐアーキダハラへと進んでいく。しかし当然のことながら、これを易々と受けてはくれない。アーキダハラは空間転移で俺の背後に転移した。もちろん、その指が俺の背に触れている。
瞬間、俺の外骨格が背中を中心として大爆発する。
アーキダハラの空間魔法ではなく、俺の爆裂魔法だ。十八番、ひっつき爆弾である。その威力は何度も証明済みである。アストライア族でも愛用されている魔法だ。
瞬時に、アーキダハラは空間転移で俺から距離を取る。流石生粋の精霊。ひっつき爆弾の威力なら指が吹き飛ぶかと思ったが、そうでもなかったらしい。割とケロッとしている。
『俺が背後に転移することを、事前に分かっていたというのか? まさか、俺が空間魔法を放つよりも先に爆裂魔法を扱えるはずはない。空間魔法は数多ある魔法属性の中でも屈指の発動スピードを持っているんだ』
『ただの癖読みだよ。アーキダハラは空間転移で相手の背後を取る癖があるんじゃないかと思ったんだ。最初に会った時も、背後の家屋から声を掛けてきただろう? さっきだってそうだ。背後から攻撃を仕掛けてきた。それが癖読みさ。ドゥフの気とはまた違う技術になるな。こっちのが簡単だと思うが』
実は、もう一つ誘導もしてある。俺は前方に向かって攻撃を放っていたんだ。
普通に攻撃するだけなら側面に転移する可能性もあったが、前方に攻撃が集中していることでその逆、後方に意識を向かせたのだ。まあ、これは癖にちょっと上乗せくらいの効果しかない。
しかし、空間転移の突破方法を少し掴んだ気がする。ようは、アーキダハラが転移するだろう位置を先に予測しておくのが大事なんだな。
それも、テキトウに予想するだけじゃダメだ。確信を持って攻撃を当てられるよう、あらゆる情報を総動員して答えを導き出すのだ。
逆にアーキダハラは、俺の予測を先読みして転移先を変更することで、ドゥフの気配読みに対抗する力を身に着けることが出来る。それこそ、この水中模擬戦の意味なのだ。
『じゃあアーキダハラ、次からはよりドゥフに近い動きをするぞ。理不尽な物量を、空間魔法でどう切り抜ける? その答えを、今ここで導き出すんだ』
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