森の愛し子〜治癒魔法で世界を救う〜

文字の大きさ
35 / 37
【第三章】王都国立学園へ

ただいま

しおりを挟む

 セレイム王国を出発して、数時間。
 道中、コハクとフェンリルの姿に戻ったレオン、もといフェンに乗せてもらい、太陽が真上に上り昼となった頃、レイたちは暗闇の森に戻ってきた。

 家に帰ってくると、庭で彼女たちの帰りを待っている、森の生き物たちがいた。
 ルビーラビットや、セレリス、黒ヒョウだ。
 ルビーラビットは、白い体毛で額にルビーのような魔石を持つウサギに似た下位魔獣。
 セレリスは、二本の短い角を持つ小型の黒い馬のような下位魔獣。
 コハク以外の黒ヒョウもレイとは顔見知りの関係だ。たまに、レイたち一緒にご飯を食べる。
 彼らはレイの帰宅に気付くと、一斉に彼女のもとへ飛んで来た。
「わっ。皆、ちょっと待って」
 彼らのあまりの勢いに、姿勢を崩し、尻餅をついたレイ。
 そんなことは顧みず、彼らは彼女の傍から離れない。
「ただいま。昨日は、急に家を空けてごめんなさい。びっくりしたわよね」
 そう彼らに声を掛けると、彼らは彼女から離れ、彼女の話を聞く体制を取った。
 レイが座った状態で姿勢を正すと、一匹のルビーラビットが彼女の膝に乗ってきた。
「どこに行ってたの?レイが居なくなって寂しかったよ」
 彼は後ろ足で立ち、レイに訴える。
「ごめんね。セレイム王国ってところに行ってたの」
 レイは、彼に対し子供に話しかけるように穏やかな口調で話かける。
「怖いところ?」
「ううん。賑やかなところだった。……皆に先に伝えておくわ」
 そう切り出したレイ。
 彼らの間に不安げな空気が漂う。

「私とフェンは、明日からしばらく森を空ける」
「やだ!」
 間髪入れずに、ルビーラビットがレイの膝の上で飛び跳ねて抗議する。
「この森を出ていくってことじゃないから、安心して。時間を見つけたら、時々戻ってくるから」
 レイは、抗議している彼を掬い上げて彼を諭す。
「やだやだ!」
 しかし、聞きたくないと長い耳を折り曲げて、彼女の手の中でうずくまってしまった。
「レイ、本当に?」
 セレリスも信じられないとレイに問う。
「ええ。でも、ちゃんとここに帰ってくる。嘘はつかない」
 レイは、セレリスの目をまっすぐ見て伝えた。
「……うん。分かった約束ね」
 彼女の言葉に嘘はないと確信したセレリスは、レイの額に自分の額を合わせてそう言った。
「ええ。約束」
 二人の会話を聞いていたルビーラビットが、レイの手の中から飛び降り、四つ足でセレリスの足元に行く。
「セレはなんで受け入れられるの!悲しくないの?」
 彼女の物分かりの良さが気に食わなかったのか、きつく当たる。
 セレリスは、頭を下げ彼と同じ目線になる。
「あたしだって寂しい。でも、わがままを言って、レイの迷惑になる方が嫌だもの」
 レイは、二人のやり取りを静かに見守っている。
「レイの迷惑になるのは、やだ」
 セレリスの言葉が刺さったのか、ルビーラビットはしゅんと耳を垂れ下げた。
「……だったら、出来ることは一つだよね」
「うん」

「レイ」
 彼はセレリスのもとから、レイのところへ戻る。
「なに?」
 レイは、優しく声を掛ける。
「ぼく、もう、わがまま言わない。レイが帰ってくるの、ちゃんと待つ」
 彼は目に涙を溜めながらも、彼女の目を見つめて言い切った。
「分かってくれて、ありがとう」
 レイは、また泣き出しそうな彼の頭を優しく撫でた。

 すぐに彼女は機転を利かせ、ある提案を出した。
「今日はみんなで、庭で夜ご飯食べない?」
 彼女の提案を聞いて、庭にいた者たちが声を上げた。
 今日は、宴並みに賑やかになりそうだ。
「ふぁ~。ん?今夜は賑やかになるな」
 庭の端でうたた寝をしていたフェンが起きてきた。
「おはよう。ねぇ、一緒に今日の夜ご飯の材料、取りに行かない?」
 レイは、フェンとセレリス、ルビーラビットに声を掛けた。
「うん!行く!」
「あたしも」
「ああ、そうだな。美味い肉を狩りに行くか」
「じゃあ、着替えてくるから。待ってて」
 彼女は、セシルから貰ったドレスから軽装に着替えるために一度家の中へ戻った。

 しばらくして着替えを終え、庭に出てきた彼女は、着古した白の長袖のブラウスに、茶色の皮ベストを羽織り、ゆったりとしているが裾が絞られた深緑のズボンを穿いていた。
 この服装は、彼女が食材調達に行くときのお決まりの格好だ。
 またレイは、採集用のウィーテと呼ばれる穀物の茎を編んだ筒型のかごも用意した。
「コハクと他の皆は、留守番お願い」
 レイは動きやすくするため、長い髪を後ろで束ねながらコハクたちに指示をする。
「わかった!美味しいお肉、とってきてね~」
 コハクは同じ黒ヒョウたちと戯れながら、返事をした。
 留守番を頼まれた他の者たちも、それぞれくつろいでいた。
「楽しみに待っておれ。今日は宴だ」
 コハクの返事に対し、フェンが笑みを浮かべながら応えた。
「やった~!」
 彼の言葉を聞き、コハクは尻尾をこれでもかというくらい振った。
 その姿はヒョウではなく、まるで大型犬だ。
「そうと決まれば、今日はいつもより、狩らねばな」
 フェンは、鼻高々に言った。
「あまり暴れすぎないようにね」
 レイに注意を受けたフェン。
「ああ。手加減はする」
 彼女に釘を刺され、眉をハの字にした。

「フェンは、お肉の調達を任せるわ。私はこの子たちと、木の実とかキノコを採ってくるわ。日が暮れる前に湖の前で合流しましょう」
「ああ。分かった。では、私は先に行っておるぞ」
 彼は言い終わると、颯爽と駆けていった。
「よし。じゃあ私たちも行こう」
 フェンが狩りに出たのを見送ると、レイも編かごを背負い、セレリスたちに声を掛けた。
「うん!」
 そうして彼女たちも今晩の食材の採取のため家を出た。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...