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南の大陸編
34話 不死性の邪神
しおりを挟む「あれがクリシャンダラの真の姿だ」
遠くに見える邪神から目を離す事なくリリアイラが三人に伝える。
「奴は物の大きさ、質量を自在に変える事ができる。もちろん自分自身の体もだ。それと奴が持っている戦輪にも気を付けろ。あれは『スダルジャ』という名がある武器で神弓ガンディバと同じく神器のひとつだ。魔力を吸い取る事ができる」
数々の新情報に思わずアピが詰め寄った。
「ちょっと! そういう大事な事は早く言ってよ! さっきの戦いでやられてたらどうすんの!?」
「なっ! おまえが勝手に突っ込んでいくからだろ! 言ってもどうせ耳に入らなかっただろ!」
「ダンジョンで言えばよかったでしょ! ラダカンもなんで教えないのよ!?」
「いや儂は詳しく知らんかったしのぉ……」
アピとリリアイラが言い争う横で、ジャイランが冷静に割って入った。
「来ます。みなさん警戒を」
パンバルに跨るラウタンがその声を聞いて二人に伝えた。
「敵が仕掛けて来るそうです。注意してください」
ドゥーカとアピがさっと身構えると守護精霊達がそれぞれの体に入っていった。
クリシャンダラの体から黒い靄が立ち込め始めた。それはどんどん濃くなりやがて影となって邪神の姿を隠す。と次の瞬間、三人の目の前にクリシャンダラが姿を現した。すでに戦輪を振りかぶっている。ドゥーカがすぐさま魔法を唱えた。
「転移魔法か! 密閉!」
キーンとけたたましい音が鳴り響く。スダルジャを受け止めた光の壁がぐにゃりと歪み、吸い取られたように穴が開いた。三人はほぼ同時に後ろへと飛び退く。それを追撃しようと、クリシャンダラが返す刀で横薙ぎにスダルジャを振る。
「水影!」
パンバルの上で体制を崩しながらもラウタンが防御魔法を放った。しかしさっきと同様、今度は水鏡がぐにゃっと曲がり水となって流れ落ちた。
「薔薇の牢獄!」
クリシャンダラがスダルジャを振り抜いたその瞬間、狙い澄ましたかのように、アピの放った炎が左右から挟み込み邪神をその中に閉じ込めた。ゴォッという音を立て一瞬で激しく燃え上がる。
蕾のように燃える炎。だがそのてっぺんから丸い刀が顔を出すと、すーっと真下へと降りていく。やがて炎は消えてなくなり、そこには不敵に笑うクリシャンダラが立っていた。スダルジャをくるくると指の先で回しながら、邪神はこちらへゆっくりと歩を進めた。
「久しいのぉリリアイラ。そこのおるのだろう?」
低く野太い声で邪神がドゥーカ達に語り掛けた。
「あいつも、人の言葉を喋るのか……」
呆気に取られた様子でドゥーカが言葉を漏らす。すると彼の背中からリリアイラがすぅっと抜け出してきた。
「けっ! 大人しく死んでりゃいいものを。しぶてぇジジだ」
ドゥーカの横に立ったリリアイラを笑ったように目を細めてクリシャンダラが見た。
「相変わらず師匠に対する口の利き方がなっとらんな。儂が不死性な事も忘れたか?」
「はっ! 何が師匠だ。おまえが不死性なんて、おれは信じちゃいねぇよ」
リリアイラの言葉を聞いても、クリシャンダラは表情を変えなかった。そしてちらりとドゥーカに目線を移した。
「お主がリリアイラの宿主か? ふむ、なかなか良い根源を持った人間だな」
二人の会話に理解が追い付かず、ドゥーカは無言でリリアイラの方を向いた。
リリアイラが再びクリシャンダラに言葉を返す。
「ダンジョンを出てきたって事は、ようやく観念したのか?」
「ちょっとばかりあの忌々しい魔法を使う女が邪魔になってきたんでな。儂の手で消してやろうと出てきてやった」
「へっ! 大方、駒がなくなったんだろう? 相棒だったアジュナも死んだしな」
リリアイラがそう吐き捨てるように言うと、クリシャンダラが憤怒に満ちた表情に変わった。
「黙れ小童が! 切り刻んでくれるわ!」
怒号をあげクリシャンダラがいきなり切り掛かった。瞬時に反応したリリアイラが真っ黒い影の形に姿を変え、手にした剣でそれを弾き返した。
「おれは影体で闘う! おまえらは離れてろ!」
ドゥーカとアピが跳ぶようにして距離を取る。ラウタンもパンバルに指示を出し湿地の上を滑るようにしてそこから離れた。
再びクリシャンダラが切り掛かり、それをまた剣で受け止めるリリアイラ。だが今度は弾き返す事ができず鍔迫り合いのような格好となった。クリシャンダラが手にしたスダルジャが黒い剣から魔力を吸い取ろうとする。剣の刃先から影のようなものが伸び、徐々に引っ張られていく。
糸引くようにねばぁと伸びた黒い影。だがそれは吸い込まれる事はなかった。逆に剣先へとしゅるしゅると戻り始め、ブチンと切れた。
「はっ! おれから魔力を吸い取ろうなんざ甘ぇよ! Nirguna!」
リリアイラが剣をクリシャンダラの体に突き立てると、その体を覆っていた黒い靄が吸い込まれていく。
「ぐはっ!」
堪らずクリシャンダラが膝をついた。その一瞬の隙を逃さずドゥーカ達が一斉に攻撃を仕掛けた。
「切り裂け!」
「薔薇の双輪!」
「水竜の息吹!」
全ての攻撃がクリシャンダラを確実に捉えた。その体は切り裂かれ、燃え上がり、衝撃で吹き飛ばされた。まるで投げ捨てられた人形のように、クリシャンダラはぐしゃりと地面に打ち付けられた。
止めを刺そうとアピが動く。それをリリアイラが声を張り上げ制した。
「待て! 深追いするな! これくらいじゃ奴は死なねぇ」
リリアイラの言葉通り、クリシャンダラがむくりと起き上がった。その体にはすでに傷ひとつなく、ニヤリと笑ってスダルジャを右手に構えた。
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