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東の大陸編

43話 暴かれる真相

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 砂時計ジャムパシルダンジョンの入り口でドゥーカ達はチュランの到着を待っていた。遅れてやって来たにも関わらずにへらと笑うチュランに対し、アピがその怒気を隠そうともせず睨みつけた。

「いやすまない。昨夜飲み過ぎてしまってね。では早速潜りましょうか」

 悪びれもなくそう言い放つチュランに対しアピが躊躇なく魔法を打とうとした為、ドゥーカが慌ててそれを制した。メラメラと怒りの炎を燃やすアピをどうにか宥め、ようやく四人はダンジョンへと入って行った。



 砂時計ジャムパシルダンジョンは水時計ジャマイアよりも確かにレベルは上だった。ガルルという東の大陸に生息する鷲の魔物が多く出現する事で、戦い方が余所とは少し違っていた。飛行系の魔物なのでダンジョンでは一見不利に思われるが、ガルル達は飛行しながら風魔法を巧みに操り、四方八方から攻撃を仕掛けてくる。

 並のパーティならば混乱し瓦解がかいしてしまうかもしれない。だがそこは世界最強パーティのマジャラ・クジャハである。ガルルの群れなどものともせずに次々に蹴散らしていく。マジャラ・クジャハとは言ったが、実質ほとんどの敵を倒していたのはアピ一人だった。

 今朝のチュランの態度が余程気に食わなかったのか、アピは未だにイライラしている。その怒りを、哀れなガルル達が一身に受けているといった構図だった。


「流石はマジャラ・クジャハ。これでは私の出る幕はありませんねぇ」

 当のチュランはドゥーカの空間魔法に守られながら余裕の笑みを浮かべている。冒険者パーティの通例として後衛、特に治癒術師は最優先で守る事が当たり前となっている。時折、魔物やアピが誤射? した魔法が飛んでくるが、それらは全て弾かれドゥーカ達の周りはそよ風ひとつ起きなかった。 


 こうして誰一人傷を負う事無く、ドゥーカ達はあっという間にダンジョンの最下層地の底に辿り着いた。無論、このダンジョンには邪神はいないが強い魔物が待っているのは確かだ。事前にギルドで聞いた情報によると、このダンジョンにはガルルの上位種のスパルナがいるという。だが所詮はA等級の魔物。マジャラ・クジャハにとっては取るに足りない相手だ。

「ここはおれが行こうか?」

 奥へとずんずんと進むアピにドゥーカが声を掛けた。だが彼女はちらりと振り向こうともせず右手に火球をふわりと浮かべている。

「結構よ! ドゥーカ兄! まだまだ力が有り余っているわ!」

 これは能力云々うんぬん以前にチュランをパーティーに入れるのは無理だろうとドゥーカは悟った。当のチュランはそんな事を知る由もなく、アピの背中を見ながらくっくと笑いを堪えている。大方おおかたこのパーティーにいれば楽が出来るとでも思っているのだろう。


 最下層を奥へと進んでいると、ラウタンの乗せたパンバルが「キッ!」と一声鳴いた。その瞬間、目に見えない無数の風の刃が音を立てながら四人へと飛んでくる。

密閉ケダプダラ!」
水影パルムーカ!」

 ほぼ同時にドゥーカとラウタンが魔法を発動する。しかしそれよりも早く一人で先を歩いていたアピが反応していた。

紅炎の薔薇ドゥリマワルメラ

 炎の薔薇がその蔓をダンジョンいっぱいに張り巡らせ周囲を覆い尽くす。風の刃は次々に絡め取られ、一瞬で灼熱の炎と共に消え失せた。だが僅かな隙間を掻い潜り、そのうちのひとつがアピの腕を切り裂いた。回避行動と相まってアピの体が後方へと飛ばされる。

「アピっ!」

 ドゥーカは瞬時にアピの元へと転移すると、その体を抱きかかえて密閉空間へと戻った。傷は思ったよりも深かった。苦痛に顔を歪ませるアピをラウタンが心配そうに見ている。

「ようやく私の出番ですかねぇ」

 ぶかぶかのローブの袖を少しまくり、チュランがアピの傷に両手をかざす。すると金色の光が手から溢れ出しアピの傷は綺麗に塞がった。チュランは得意満面の笑みを浮かべどうだと言わんばかりに三人の顔を見回す。だが彼が期待するような反応が返ってくる事はなかった。

 ドゥーカとラウタンはそれぞれ片手にはめている手袋をじっと見つめ、アピにいたってはチュランの袖の奥を覗き込んでいた。

「なっ! 何してるんですか!」

 チュランは慌てて袖を元に戻し手を後ろに隠すように引っ込める。だがそれは時すでに遅かったようで、アピがにやりと笑いながら言った。

「リリアイラが言ってた通りだったよ。ドゥーカ兄」

 ドゥーカは無言でそれに頷いた。そしてゆっくりとチュランの方へと近づいて行く。

「な、なんなんだよっ! ちゃんと傷は治しただろうが!」

 じりじりと詰め寄るドゥーカにチュランは思わず後ずさりした。だが二、三歩下がった所で空間魔法で仕切られた見えない壁にぶつかる。ドゥーカはおもむろに手袋を外すと黒く染まった左手をチュランの目の前にかざした。

「ひぇっ!」

 その黒き手のあまりの禍々しさにチュランは怯え顔を背けた。つま先立ちし、少しでも離れようとするが、逃げ出そうにも密閉空間からは出られない。突きつけられた左手が徐々に下へと下がると、そこには無表情のドゥーカの目がチュランを見据えていた。

転移テレポルタ

 チュランは思わず歯を食いしばり目をつぶった。僅かな沈黙の後、チュランは恐る恐る目を開いた。てっきり何かされると思っていたが、体の痛みなどはない。だが安心したのも束の間、上半身が裸になっている事に気が付いた。ドゥーカがチュランのローブだけを空間魔法で遥か彼方へと飛ばしたのだ。


「まったく……魔法の無駄遣いよ」

 呆然と立ち尽くす裸の男を見て、アピが溜息混じりにそう呟いた。



 
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