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第1話 メガテン特盛牛丼
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「めっちゃゴツいやん……」
お椀に入れた卵を小気味よくかき混ぜていた手を孫八は思わず止めた。彼の目線の先には店内の隅っこで特盛の牛丼を旨そうにかっこむ男の姿があった。もし仮にその男が食欲旺盛なただの若者だったとしたら特に気にも留めなかっただろう。だがその男の風体は極めて異様だった。
まず着ている服がありえない。あれは服ではなく明らかに鎧だ。鎧と言っても歩けばガチャガチャと音を立てるような西洋風の鎧ではなく、どちらかと言えば日本の、しかも足軽兵が身に着けていたようなもの。ライトアーマーとでも言うのだろうか。胸当てや腰当てを身に纏い、丼と箸を持つその手にはしっかりと小手がはめられている。そしてテーブルに置いてある兜にはなにかの角のようなものが装飾されていた。
ここでワンチャン、何かのゲームのコスプレだと推測するのも悪くない。事実、孫八の頭にもそれが一瞬だけ過った。だがそうなるとそのクオリティがハンパない。鎧にはあちこち傷が付いていて、それは獣かなにかの爪痕を彷彿とさせる。もちろん男の体にも生々しい傷跡が見て取れた。しかも丸太のようなぶっとい腕には大きな傷があり、男が箸をしゃかしゃかと動かすたびにその傷も踊っている。
徹夜明けの午前5時。最初は眠気の所為で幻でも見ているのかと思った。だが男は確かにそこに存在している。いくらAIが進歩しているとはいえ、まだ立体の3Dホログラムが出来たなんて話は聞いた事がない。
孫八が唖然として見ていると牛丼を一気に平らげた男と目が合った。男は口に頬張っていたものをゴクリと飲み込むとのそりと立ち上がった。それを見て孫八は思わずグッと喉を鳴らす。以前、プロレスラーを間近で見た事があるがそのデカさにかなりビビった思い出がある。そして今まさにこちらに近付いて来る男はその倍。いやオーラや迫力というものを加味すれば3倍くらいデカく見える。体中の筋肉がパンパンに張っており、男を殴ろうもんならこっちの拳が逆に折れてしまいそうだ。ゆっくりと歩を進めた男は覗き込むようにして孫八の前に置いてある膳に目をやった。
「おまえが食べているそれはなんだ?」
野太い声が店内に響く。孫八は思わず「ヒィッ」と叫びそうになった。
「な、納豆定食っす」
「なっとう?」
軽く首を傾げながら男が眉間に皺を寄せた。孫八は慌てたように納豆が入った小鉢を持ち上げた。だが男はなにも言わずにその小鉢ををじっと見つめる。その一瞬の間に耐え切れず孫八は納豆を素早くかき混ぜ「よかったら一口どうぞ」と言わんばかりの笑顔で糸引く納豆を箸で持ち上げてみせた。
「なんだ。豆か。おい、牛丼をもう一杯くれ」
カウンターの奥にいた店員にそう告げると、男はくるりと振り返りのっしのっしと席に戻った。そして再びどしりと腰を下ろすと、空になった丼茶碗をすでに山積みになっている丼タワーの上に重ねた。
「はい、メガテン特盛り牛丼一丁~」
こぼれんばかりのご飯と肉が乗った牛丼が男の目の前に置かれた。それを見た男は嬉しそうに表情を崩すと、先程と同じように牛丼を掻き込んでいく。
「なぁ、おい。あれ……」
カウンターへと戻って来た店員に孫八は男を指差しながら小声で話し掛けた。週に1,2度この店に来ている孫八とこの店員はたまに話す程度の間柄だ。髪を緑に染め、唇にピアスを開けたチャラい男ではあるが接客態度は問題ない。
「あ~朝から凄いっすよね。あれで19杯目っすよ。肉も米もなくなりそうなんで今慌てて仕込んでるっす」
男の席を振り返りながら店員が苦笑いをした。
「いや、そう言うことじゃなくて……どう見てもおかしいだろ?」
早朝の牛丼屋でドカ食いしている異世界の戦士みたいな男。今さら気づいたが男はくすんだ金髪でやや長髪。そして顔の彫りが深く青い瞳をしている。そんな男が日本語を話し、近くの壁には孫八の背丈程もある大きな剣が立て掛けてある。あまりの情報量の多さに孫八の頭は混乱していた。
「確かに見た目気合入ってるっすよね。なんか『おれはナンチャラ帝国のなんとかって言う戦士だ』とか言ってたかなぁ。よく分かんなかったんで適当に返事しときましたけど」
若干へらへらと。しかし真顔でそう答える店員に孫八は少し腹が立った。
「てかやばいだろ。食い逃げとかされるかもしれんぞ」
「ん~確かにこの国の通貨は持ってないとか言ってたなぁ。でも代わりにこれくれたんすよ。ほら——」
ポケットから店員が一枚の金貨のようなものを取り出した。それは500円玉の倍くらいの大きさで金色に輝いている。店員はそれをポーンポーンと二度、宙に浮かせてみせた。
「かなり重いから本物だと思うんすよね。金って今結構高いでしょ?」
そんな会話をしている二人の間に突然男の顔がぬっと現れた。しかも眼光鋭い眼差しでじっと孫八の方を睨みつけている。今度こそ彼は「ヒィッ!」っと悲鳴を上げた。
「おまえ……解呪のスキルを持ってるな」
しばらく孫八を見つめていた男がニコッと微笑んだ。
――――――――――――――――
目が点になる程のメガテン特盛牛丼は1杯2000円です。
当作品を読んで頂き誠にありがとうございます。
お椀に入れた卵を小気味よくかき混ぜていた手を孫八は思わず止めた。彼の目線の先には店内の隅っこで特盛の牛丼を旨そうにかっこむ男の姿があった。もし仮にその男が食欲旺盛なただの若者だったとしたら特に気にも留めなかっただろう。だがその男の風体は極めて異様だった。
まず着ている服がありえない。あれは服ではなく明らかに鎧だ。鎧と言っても歩けばガチャガチャと音を立てるような西洋風の鎧ではなく、どちらかと言えば日本の、しかも足軽兵が身に着けていたようなもの。ライトアーマーとでも言うのだろうか。胸当てや腰当てを身に纏い、丼と箸を持つその手にはしっかりと小手がはめられている。そしてテーブルに置いてある兜にはなにかの角のようなものが装飾されていた。
ここでワンチャン、何かのゲームのコスプレだと推測するのも悪くない。事実、孫八の頭にもそれが一瞬だけ過った。だがそうなるとそのクオリティがハンパない。鎧にはあちこち傷が付いていて、それは獣かなにかの爪痕を彷彿とさせる。もちろん男の体にも生々しい傷跡が見て取れた。しかも丸太のようなぶっとい腕には大きな傷があり、男が箸をしゃかしゃかと動かすたびにその傷も踊っている。
徹夜明けの午前5時。最初は眠気の所為で幻でも見ているのかと思った。だが男は確かにそこに存在している。いくらAIが進歩しているとはいえ、まだ立体の3Dホログラムが出来たなんて話は聞いた事がない。
孫八が唖然として見ていると牛丼を一気に平らげた男と目が合った。男は口に頬張っていたものをゴクリと飲み込むとのそりと立ち上がった。それを見て孫八は思わずグッと喉を鳴らす。以前、プロレスラーを間近で見た事があるがそのデカさにかなりビビった思い出がある。そして今まさにこちらに近付いて来る男はその倍。いやオーラや迫力というものを加味すれば3倍くらいデカく見える。体中の筋肉がパンパンに張っており、男を殴ろうもんならこっちの拳が逆に折れてしまいそうだ。ゆっくりと歩を進めた男は覗き込むようにして孫八の前に置いてある膳に目をやった。
「おまえが食べているそれはなんだ?」
野太い声が店内に響く。孫八は思わず「ヒィッ」と叫びそうになった。
「な、納豆定食っす」
「なっとう?」
軽く首を傾げながら男が眉間に皺を寄せた。孫八は慌てたように納豆が入った小鉢を持ち上げた。だが男はなにも言わずにその小鉢ををじっと見つめる。その一瞬の間に耐え切れず孫八は納豆を素早くかき混ぜ「よかったら一口どうぞ」と言わんばかりの笑顔で糸引く納豆を箸で持ち上げてみせた。
「なんだ。豆か。おい、牛丼をもう一杯くれ」
カウンターの奥にいた店員にそう告げると、男はくるりと振り返りのっしのっしと席に戻った。そして再びどしりと腰を下ろすと、空になった丼茶碗をすでに山積みになっている丼タワーの上に重ねた。
「はい、メガテン特盛り牛丼一丁~」
こぼれんばかりのご飯と肉が乗った牛丼が男の目の前に置かれた。それを見た男は嬉しそうに表情を崩すと、先程と同じように牛丼を掻き込んでいく。
「なぁ、おい。あれ……」
カウンターへと戻って来た店員に孫八は男を指差しながら小声で話し掛けた。週に1,2度この店に来ている孫八とこの店員はたまに話す程度の間柄だ。髪を緑に染め、唇にピアスを開けたチャラい男ではあるが接客態度は問題ない。
「あ~朝から凄いっすよね。あれで19杯目っすよ。肉も米もなくなりそうなんで今慌てて仕込んでるっす」
男の席を振り返りながら店員が苦笑いをした。
「いや、そう言うことじゃなくて……どう見てもおかしいだろ?」
早朝の牛丼屋でドカ食いしている異世界の戦士みたいな男。今さら気づいたが男はくすんだ金髪でやや長髪。そして顔の彫りが深く青い瞳をしている。そんな男が日本語を話し、近くの壁には孫八の背丈程もある大きな剣が立て掛けてある。あまりの情報量の多さに孫八の頭は混乱していた。
「確かに見た目気合入ってるっすよね。なんか『おれはナンチャラ帝国のなんとかって言う戦士だ』とか言ってたかなぁ。よく分かんなかったんで適当に返事しときましたけど」
若干へらへらと。しかし真顔でそう答える店員に孫八は少し腹が立った。
「てかやばいだろ。食い逃げとかされるかもしれんぞ」
「ん~確かにこの国の通貨は持ってないとか言ってたなぁ。でも代わりにこれくれたんすよ。ほら——」
ポケットから店員が一枚の金貨のようなものを取り出した。それは500円玉の倍くらいの大きさで金色に輝いている。店員はそれをポーンポーンと二度、宙に浮かせてみせた。
「かなり重いから本物だと思うんすよね。金って今結構高いでしょ?」
そんな会話をしている二人の間に突然男の顔がぬっと現れた。しかも眼光鋭い眼差しでじっと孫八の方を睨みつけている。今度こそ彼は「ヒィッ!」っと悲鳴を上げた。
「おまえ……解呪のスキルを持ってるな」
しばらく孫八を見つめていた男がニコッと微笑んだ。
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目が点になる程のメガテン特盛牛丼は1杯2000円です。
当作品を読んで頂き誠にありがとうございます。
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