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第2話 共に戦え
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「おい!おまえなに偉そうな態度取ってんだ!おい麗華!聞いてんのか!」
男に肩を揺さぶられ私は我に返る。体感では1時間くらい記憶を探っていたが、実際は1分程度しか経っていないはず。それくらいも待てないのか、この男は。
「馴れ馴れしく触らないで。だいたいあなた自分の立場分かってる?また浮気したんだよ、うーわーきー。結局あの女と切れてなかったんじゃない」
私は敢えて普段の麗華とは違う喋り方をした。これが意外と効果があったりする。意識を融合させた今だから分かるが、本来の彼女はもっとおっとりとした感じで話している。そして案の定、態度が急変した麗華に桐野は少し怯んだ様子だった。
「だから飯食ってただけだって。なぁ、それくらいで怒んなよ麗華」
桐野が笑顔を見せながら甘えるような口振りで近づいてきた。これはこいつの常套手段。自分が不利な状況になると毎度こうやって誤魔化すのだ。もちろん私にそんな手は通用しない。
「怒ってないわよ。呆れてるだけ。そもそもあなた私と別れる気だったでしょ?今日で終わりにしましょう」
「おいおい、おれは別れるなんて一言も言ってないじゃん。もうあいつには連絡もしないからさぁ。もう許せって」
「いや、だから近づくなって」
再び一歩引きながら抱きつこうとしてくる桐野の手を払った。すると桐野の顔が明らかに変わった。おそらくキレたのだろう。沸点の低い奴だ。
麗華の記憶では、この男は何度か彼女に暴力を振るっている。最初は平手打ち程度だったが、こいつのDVは段々とひどくなってきている。先月は彼女の背中に痣が残る程の力で殴っていた。もちろん彼女は病院にすら行っていない。このまま行けば打撲くらいじゃ済まなくなってしまう。
「おい、麗華。てめぇあんまり調子に乗んなよ」
「調子に乗ってるのはおまえだろ。おまえみたいなブサイクと今まで付き合ってやったんだ。感謝くらいしろよ」
これは決して桐野を煽っているという訳ではない。今現在、麗華の意識は私が支配している状態だ。私が本気で桐野を憎めば麗華の意識も私と同調していく。私が「こいつはブサイクな男」と思えば麗華も桐野をブサイクだと思うのだ。勝手に彼女の考えを変えてしまうのは本当はいけないことかもしれない。でもこれは彼女を救うためだと自分に言い聞かせる。
「貸したお金も全然返さないしさぁ。セックスだって超下手くそじゃん?よくそれで二股とかしようと思うね。案外向こうの女もあんたは金づるくらいにしか見てないんじゃない?」
私はここぞとばかりに桐野を馬鹿にした。思いっきり指を差し、思いっきり鼻で笑って桐野をこき下ろす。どうか麗華に気づいてほしい。この男はあなたが思っているような男なんかじゃない。あなたが心を擦り減らしてまで一緒にいるような奴じゃない。だからこいつのために、あなたが傷つく必要なんてこれっぽっちもないんだ。
「てめぇぇ!ふざけんなよぉっ!!」
完全にキレた桐野が襲い掛かってきた。初手からいきなり殴り掛かってくるなんてどこまでも最低な男だ。私は桐野の大振りの右フックをかわすと背後に回り込んで上半身へと飛びついた。かなり体格差があるので引き倒せそうにない。そのまま胴に足を回してロックしながら首に腕を回し裸締めを狙った。
普段はインドアな私だけど、実は高校まで柔術を習っていた。それなりの大会で優勝したことだってある。今でも趣味程度だが、たまに総合格闘技のジムに通っている。こう見えて私は結構武闘派なのだ。ただ、今は華奢な麗華の体で戦わなければならない。自分と違う体を動かすのは結構難しい。しかも殴り合いの喧嘩なんて麗華はした事がないだろう。恐怖という感情が徐々に強くなっていく。
『大丈夫。私も一緒に戦うから』
怯える麗華の意識に私は語り掛けた。恐怖心がすーっとどこかへ消えて行く。どうやら彼女も腹を決めたようだ。
「ぐふっ!」
きれいにチョークが入った。だがやはり麗華のか細い腕では落としきれない。首元を締め付ける腕を振りほどこうと桐野が抵抗し始めた。右手で私の腕を掴み、左手で私の髪を掴もうとしてくる。私は頭を引いてそれを避けながら後頭部目掛けて頭突きを2発食らわせた。かなり頭がふらついたのか桐野が床に両膝をついた。私はその隙を見逃さなかった。
桐野の左腕を掴み、後ろに引き倒しながら首元に足を絡めていく。完全に仰向け状態となった桐野に後ろからの三角締めが完璧に入った。足の筋力なら非力な麗華でもパワーが出せる。力を込めてギリギリと締め上げると、ものの数十秒で桐野は落ちた。ぐったりとなった桐野の体から私は手を放し、足をほどいて立ち上がる。
「正当防衛だよね……」
一応、多少手加減はしておいたからすぐに目を覚ますだろう。とりあえず私は麗華が怪我をしてないかを確かめた。思いっきり頭突きをしたので、たんこぶくらいは出来てしまったかと不安だったけど大丈夫のようだ。どうやら彼女はかなりの石頭らしい。
「うぅぅ……」
小さく唸り声を上げながら桐野がむくりと起き上がった。まだ頭がぼーっとしているのか、だらしなく口を半開きにしている。私は桐野の前にしゃがみ込むと髪の毛をぐしゃっと鷲掴みにした。
「おい、桐野雄大!今度また私に何かしようとしたら、こんなんじゃ済まないからな。腕の一本や二本、すぐにへし折ってやるから。わかった!?」
「は、はい……」
「それと、もうあんたとは今日で終わりだから。二度と私の前に現れんな」
「……」
「返事は!」
「はい!」
とりあえずこれくらい脅しておけば、しばらくは何もしてこないだろう。逆上して麗華が襲われたりするのが一番怖いが、なんとなくこの男はそこまでの度胸はない気がした。これは今私が感じている麗華の勘を信じるしかない。
『彼はほんとは優しいんだよ』
麗華の言葉がわずかに頭に浮かぶ。制服を着た桐野の映像が一瞬だけふっとを脳裏をかすめた。念のため桐野のスマホから麗華のデータを全て消去した。同郷なので連絡を取ろうと思えば取れるだろうけど、そうなった時は麗華自身になんとかしてもらおう。今の彼女ならきっと大丈夫。
『うん。あなたのお陰で強くなれた。ありがと』
心の奥の方で彼女がそう呟いたような気がした。
男に肩を揺さぶられ私は我に返る。体感では1時間くらい記憶を探っていたが、実際は1分程度しか経っていないはず。それくらいも待てないのか、この男は。
「馴れ馴れしく触らないで。だいたいあなた自分の立場分かってる?また浮気したんだよ、うーわーきー。結局あの女と切れてなかったんじゃない」
私は敢えて普段の麗華とは違う喋り方をした。これが意外と効果があったりする。意識を融合させた今だから分かるが、本来の彼女はもっとおっとりとした感じで話している。そして案の定、態度が急変した麗華に桐野は少し怯んだ様子だった。
「だから飯食ってただけだって。なぁ、それくらいで怒んなよ麗華」
桐野が笑顔を見せながら甘えるような口振りで近づいてきた。これはこいつの常套手段。自分が不利な状況になると毎度こうやって誤魔化すのだ。もちろん私にそんな手は通用しない。
「怒ってないわよ。呆れてるだけ。そもそもあなた私と別れる気だったでしょ?今日で終わりにしましょう」
「おいおい、おれは別れるなんて一言も言ってないじゃん。もうあいつには連絡もしないからさぁ。もう許せって」
「いや、だから近づくなって」
再び一歩引きながら抱きつこうとしてくる桐野の手を払った。すると桐野の顔が明らかに変わった。おそらくキレたのだろう。沸点の低い奴だ。
麗華の記憶では、この男は何度か彼女に暴力を振るっている。最初は平手打ち程度だったが、こいつのDVは段々とひどくなってきている。先月は彼女の背中に痣が残る程の力で殴っていた。もちろん彼女は病院にすら行っていない。このまま行けば打撲くらいじゃ済まなくなってしまう。
「おい、麗華。てめぇあんまり調子に乗んなよ」
「調子に乗ってるのはおまえだろ。おまえみたいなブサイクと今まで付き合ってやったんだ。感謝くらいしろよ」
これは決して桐野を煽っているという訳ではない。今現在、麗華の意識は私が支配している状態だ。私が本気で桐野を憎めば麗華の意識も私と同調していく。私が「こいつはブサイクな男」と思えば麗華も桐野をブサイクだと思うのだ。勝手に彼女の考えを変えてしまうのは本当はいけないことかもしれない。でもこれは彼女を救うためだと自分に言い聞かせる。
「貸したお金も全然返さないしさぁ。セックスだって超下手くそじゃん?よくそれで二股とかしようと思うね。案外向こうの女もあんたは金づるくらいにしか見てないんじゃない?」
私はここぞとばかりに桐野を馬鹿にした。思いっきり指を差し、思いっきり鼻で笑って桐野をこき下ろす。どうか麗華に気づいてほしい。この男はあなたが思っているような男なんかじゃない。あなたが心を擦り減らしてまで一緒にいるような奴じゃない。だからこいつのために、あなたが傷つく必要なんてこれっぽっちもないんだ。
「てめぇぇ!ふざけんなよぉっ!!」
完全にキレた桐野が襲い掛かってきた。初手からいきなり殴り掛かってくるなんてどこまでも最低な男だ。私は桐野の大振りの右フックをかわすと背後に回り込んで上半身へと飛びついた。かなり体格差があるので引き倒せそうにない。そのまま胴に足を回してロックしながら首に腕を回し裸締めを狙った。
普段はインドアな私だけど、実は高校まで柔術を習っていた。それなりの大会で優勝したことだってある。今でも趣味程度だが、たまに総合格闘技のジムに通っている。こう見えて私は結構武闘派なのだ。ただ、今は華奢な麗華の体で戦わなければならない。自分と違う体を動かすのは結構難しい。しかも殴り合いの喧嘩なんて麗華はした事がないだろう。恐怖という感情が徐々に強くなっていく。
『大丈夫。私も一緒に戦うから』
怯える麗華の意識に私は語り掛けた。恐怖心がすーっとどこかへ消えて行く。どうやら彼女も腹を決めたようだ。
「ぐふっ!」
きれいにチョークが入った。だがやはり麗華のか細い腕では落としきれない。首元を締め付ける腕を振りほどこうと桐野が抵抗し始めた。右手で私の腕を掴み、左手で私の髪を掴もうとしてくる。私は頭を引いてそれを避けながら後頭部目掛けて頭突きを2発食らわせた。かなり頭がふらついたのか桐野が床に両膝をついた。私はその隙を見逃さなかった。
桐野の左腕を掴み、後ろに引き倒しながら首元に足を絡めていく。完全に仰向け状態となった桐野に後ろからの三角締めが完璧に入った。足の筋力なら非力な麗華でもパワーが出せる。力を込めてギリギリと締め上げると、ものの数十秒で桐野は落ちた。ぐったりとなった桐野の体から私は手を放し、足をほどいて立ち上がる。
「正当防衛だよね……」
一応、多少手加減はしておいたからすぐに目を覚ますだろう。とりあえず私は麗華が怪我をしてないかを確かめた。思いっきり頭突きをしたので、たんこぶくらいは出来てしまったかと不安だったけど大丈夫のようだ。どうやら彼女はかなりの石頭らしい。
「うぅぅ……」
小さく唸り声を上げながら桐野がむくりと起き上がった。まだ頭がぼーっとしているのか、だらしなく口を半開きにしている。私は桐野の前にしゃがみ込むと髪の毛をぐしゃっと鷲掴みにした。
「おい、桐野雄大!今度また私に何かしようとしたら、こんなんじゃ済まないからな。腕の一本や二本、すぐにへし折ってやるから。わかった!?」
「は、はい……」
「それと、もうあんたとは今日で終わりだから。二度と私の前に現れんな」
「……」
「返事は!」
「はい!」
とりあえずこれくらい脅しておけば、しばらくは何もしてこないだろう。逆上して麗華が襲われたりするのが一番怖いが、なんとなくこの男はそこまでの度胸はない気がした。これは今私が感じている麗華の勘を信じるしかない。
『彼はほんとは優しいんだよ』
麗華の言葉がわずかに頭に浮かぶ。制服を着た桐野の映像が一瞬だけふっとを脳裏をかすめた。念のため桐野のスマホから麗華のデータを全て消去した。同郷なので連絡を取ろうと思えば取れるだろうけど、そうなった時は麗華自身になんとかしてもらおう。今の彼女ならきっと大丈夫。
『うん。あなたのお陰で強くなれた。ありがと』
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