婚約者に会うためにアリスは空を飛ぶ

三毛猫ジョーラ

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第2話 幸せな記憶

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 私とマーカスは家が隣同士で幼い頃からの付き合いだった。私は魔道具を扱うグレイン商会の長女で弟と妹が一人ずついる。一方マーカスの一族は古くから騎士の家系でこの辺りでは名門バッシュ家としてその名が通っている。彼は三人兄弟の末っ子で兄二人はすでにザイロの辺境騎士団に入っている。

 マーカスは私より一つ年上だったけど昔からよく一緒に遊んでくれた。長女である私は両親から「将来は魔道具師になるように」と厳しい教育を受けていた。姉弟の中で私が一番魔力量が多く、そのため私には魔法の勉強、弟には経営学を。そして妹はただただ甘やかす。そんな構図がいつの間にか出来上がってしまっていた。

 日々、初等学園の勉強とは別に私は魔法の勉強を課せられていた。そんな中マーカスはときどきうちに訪ねて来ては私を外に連れ出してくれた。うちの両親もバッシュ家の子供を無下には出来ず、毎回渋々ながら遊びに行くのを見過ごしてくれた。

「アリスはなんか新しい魔法は覚えた?」

「うん! ランプの明かりを灯す付与魔法を覚えたよ」

 私はこっそり家から持ち出した魔石をポケットから取り出した。その魔石に魔力を込めながら指を動かし魔法陣を描いていく。魔法の場合は「灯火ルクス」と唱えれば事足りるが、付与魔法はそうはいかない。精確な魔法陣を頭に叩き込まなければならない上に緻密な魔力操作も必要となる。わずかに額に汗かきながら、私は魔法陣を書き終えた。

「ふぅ、出来たぁ! じゃあ見ててね」

 深呼吸をしながら魔石を手の平にのせて魔力を流す。すると蝋燭のような小さい炎がその上にぽっと浮かんだ。

「へーすごいな! なぁ、それって剣とかにも付与できるのか?」

「武器の付与魔法はもっと難しいし、たくさん練習しなきゃ無理だよぉ。それに火属性の魔法はあんまり得意じゃないの」

 一般的にほとんどの人が魔力を持って生れてくる。けれど魔法を使える者はそれほど多くない。特にここマーロン王国ではお隣のザリンガ魔法国家と比べると割と貴重な存在なのだ。ちなみにうちの両親はザリンガ出身だ。

 そして魔力には属性というものがある。いわゆる火、水、雷、風、土の五大属性だ。私の魔力は風。つまり火属性の魔法は体になじまないため扱うのが難しい。それでも小さい頃からの猛特訓でなんとか火属性の魔法も使えるようにはなった。

「そっかぁ。やっぱ炎の剣とか憧れちゃうなぁ。いつかアリスが魔物に襲われた時はおれがそいつらをやっつけるんだ!」

 鼻息を少し荒くしながらマーカスは木剣を振り回した。私は思わずくすりと笑ったけど、本当は彼の言葉がすごく嬉しかった。剣を振るう彼の姿が眩しくて私はしばらくの間彼を見つめていた。思えばあの時こそが、私が彼に恋をした瞬間だったかもしれない。

 それから月日が巡り私の14歳の誕生日。どこか緊張した様子で花束を持って現れたマーカスは私の前で片膝をついた。

「アリス! おれはアリスのことがずっと好きだった。よければ結婚を前提に恋人になってくれないか?」

 まだあどけなさの残る少年の口から出た「結婚」という言葉に少し驚いた。けれどその真剣な表情に私は思わず「はい」と頷いた。そして幸せを噛み締めるように花束をぎゅっと抱き締め顔をうずめた。きっとこの先、彼と結婚して幸せな家庭を築いていくんだと、この時の私はそう思っていた。



「王都の学園に?」

 マーカスの16歳の誕生日が近づく頃、突然彼から言われたことがいまいち腑に落ちず、思わず小首を傾げながら私は訊き返した。

「うん。王都学園の騎士科に行こうかなって」

「でも騎士科ならザイロの学園にもあるでしょう?」

 私達が住む辺境都市ザイロは王都からだいぶ離れてはいるが、隣国との国境ということもあって人の往来が激しくそれなりに栄えている。故に人口も多く、子供達が16になる歳から通う高等学園も王都の学園に引けを取らないくらい立派だ。

「おれは王立騎士団を目指すことにしたんだ。だから王都学園の騎士科に行った方がなにかと都合が良いかと思ったんだ」

「それって将来は王都に住むってこと? 私はザイロでいつか店を開きたいって言ったよね?」

 私は少し強い口調でマーカスに問い詰めた。これまで些細な口喧嘩さえもしたことがなかったからか、マーカスは少し驚いた表情を見せた後、すぐに困った顔を浮かべた。

「なぁアリス、そんなの王都で店を出せばいいじゃないか。こんな田舎よりもやっぱり王都の方が華やかだって」

 本当はお店のことなんてどうでもよかった。そもそも私がお店を持つなんて父が許してくれないだろうし、ただの淡い夢だと思っていた。単純に私はマーカスと離れてしまうのが嫌だったのだ。彼と会えなくなってしまう生活が不安だったのだ。

 その後、何時間も二人で話し合ったが話は平行線だった。彼の意思は固かったようで何度説得しても聞き入れてもらうことはなかった。結局、彼の王都行きはあっさりと決まってしまい、それから慌ただしく準備をしている彼とゆっくり話をする機会も持てなかった。



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