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第6話 不運が続くと歯は強くなる
しおりを挟む結局ジュノは一ヶ月ほどバッシュ家に滞在した。その間あちこち観光して回ったそうだ。もちろんマーカスの案内で。私も何度かついて行ったが、どうしてもその雰囲気になじめず、後半は誘われてもほとんどお断りしていた。
彼女が帰った後、もちろん私はマーカスに抗議した。しかもせっかく邪魔者が消えたのにマーカスが王都に戻るまで一週間しか残ってなかった。結局二人で過ごした日なんて無いに等しい。
「すまないアリス。でも信じてくれ。彼女は本当にただのお友達なんだ。こんな事はもう二度としないからさ。約束するよ」
そう言ってぎゅうっと抱きしめられたら何も言うことができなかった。それでもきちんと埋め合わせはしてもらうつもりだったけど、二人でザイロ中を巡り尽くしたらしく「ゆっくり過ごそう」という彼の言葉でほとんどマーカスの屋敷で過ごして終わった。
悪い予感は良く当たる。女の勘かそれとも第六感か。とにかく予想はしていたがマーカスからの便りは少しずつ減っていった。それでもマーカスは約束は守る人だ。彼を信じて冬期休暇になるのを静かに待った。けれどいざその日が来ようかという直前、彼から一通の手紙が届く。
「流行病にかかってしまった。アリスに会いたかったけど君にうつしてしまうのは心苦しい。今年の冬期休暇は大事をとって王都で休養する」
病気と言われてしまえばどうしようも出来ない。念のためうちに良く来る王都の商人、カルメンさんに聞けば、確かに王都では病が流行ってると言う。
「風邪なんて毎年流行るもんですよ。私もここに来る前ちょっと熱が出ましたが三日も寝ればすっかり良くなりました」
よかったらどうぞ、とカルメンさんはのど飴を私にくれた。せっかく頂いたものだったけど苛立っていた所為か、口に入れたそばからガリガリと噛み砕いてしまった。
年を越し、私もザイロの学園へと入学した。本当は魔法科に行きたかったけど父の意向で付与魔法科に入ることになった。はっきり言ってすでに仕事として付与魔法をやっていた私には物足りなかった。先生や同じ科の生徒達に褒められ少し気分が良かったけど、それも最初の内だけ。しばらく経つと学校の授業、そして帰ったら仕事という日々が待っていた。
そしてその年の夏期休暇が目前に迫る頃、期待半分、不安半分で彼からの手紙に目を通した。
「年に一度の武闘大会で怪我をしてしまった。大怪我ではないが今年の夏期休暇は大事をとって王都で休養する」
後半部分はほぼ前回と同じ文章だった。疑う訳ではなかったけれど、私はカルメンさんにお願いしてマーカスの様子を見て来てもらった。確かに彼は怪我をしていた。左腕の骨にひびが入ったらしく包帯をぐるぐる巻きにしていたらしい。
「若いからあれくらいの怪我は魚をいっぱい食べればすぐ治るでしょう」
よかったらどうぞ、とカルメンさんは港町で仕入れた干し魚をくれた。本来は焼いて食べるというカチコチのそれを、私はバリボリと一息に食べてしまった。
それから長期休暇に入る前にマーカスから手紙が届くのは通例となった。
「学園祭の出し物で勇者役を演じたんだが、王女役のジュノを救う場面で熱が入り舞台から転げ落ちてしまった。たいした怪我ではないが今年の冬期休暇は大事をとって王都で休養する」
「ジュノと二人で王都で有名な占い師の所へ行ったのだが、どうやら今年の夏はザイロの方角がおれにとって不吉らしい。大事をとって王都で過ごすことにする」
一応手紙の真意を確かめて欲しいといつものようにカルメンさんにお願いした。どちらの話も本当だったようで、カルメンさん曰く「件の占い師は当たらない方で有名なんですがね」と笑っていた。
そして毎回なぜかカルメンさんは硬い食べ物を私にくれた。王都で流行の硬いクッキーやキンキンに凍らせた果物などなど。いつしか私の好物は硬くて噛み応えのある物になってしまった。
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