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第7話 マーカスの事情
しおりを挟む王都の南側には『希望の門』と呼ばれる巨大な鉄の扉が存在する。かつては四方をぐるりと城壁で囲まれた王都で唯一の出入り口だった。だが魔物も減り、他国との戦乱も過ぎ去った今、その門は常に開かれ毎日多くの人が行き交う。
初めてこの門を見た時はやはり驚いた。ザイロも発展しているとはいえ所詮は辺境の都市。王都の街並みやそこで暮らす人々は比べようもなく華やかだ。ここへ来るまでは故郷を離れ一人で生活をしていけるのかという不安もあった。学生の身とはいえ親元を離れるのは初めてだ。それにアリスと会えなくなるのがなによりも寂しかった。
おれはそれほど王都に強い憧れがあった訳ではない。なんとなく将来は辺境騎士団に入り、そしてアリスと結婚をして幸せな家庭を持つのだろうと想像していた。だがある日、一番上の兄がおれにこう言った。
「先日王都の騎士団と演習に行ったんだが、やはりあいつらは違うな。なんかこう、気品というのか気高さみたいなものがあったよ。特に王家専属の騎士達なんて輝いて見えたなぁ」
なぁマーカス——と兄は続けた。
「辺境騎士団にはおれとトーマスがいる。親父にはそれで十分だろう。おまえは王都に行け。王都の騎士団で一旗揚げてこい」
トーマスとは二番目の兄だ。おれ達三兄弟は小さい頃から親父に鍛えられて育った。未だに兄二人には敵わないが、もし王都の騎士団に入れば兄だけでなく親父もおれを認めてくれるかもしれない。そんな想いからおれは王都学園に行く事を決めた。当初アリスは反対していたが、彼女も王都に来ればきっと分かってくれる。こっちへきてそれを確信した。
王都での暮らしはなにもかもが新鮮で刺激的だった。お洒落なお店が建ち並び人だっていっぱいいる。初めてその人混みを目にした時はなんかの祭りでもあってるのかと思ったほどだ。耳をすませば誰もが王都訛りで喋っている。自分で言うのもなんだが、話し方に関しては最初っから方言も出ずに上手く喋れていると思う。
新生活の準備があらかた終わった頃に王都学園の入学式があった。おれはそこでジュノと出会った。特に運命とかを感じた訳ではない。入学説明会の時にたまたま隣に座ったのが彼女だった。
「はじめまして! 私はジュノ・ダリンジャー。魔法科よ」
気さくに声を掛けてきた彼女の第一印象は王都っぽいだった。
「おれはマーカス・バッシュ。騎士科だ。よろしくなジュノ」
彼女は確かに美人だった。整った目鼻立ちに綺麗な長い髪。入学後ほどなくして学園一の美女との称号を手にしていた。だがおれにはアリスがいる。当然彼女の事はただの友達だと思っていた。ただ所属科が違えども彼女とはなにかと共に行動していた。昼休みには毎日一緒に昼食をとったり、放課後には王都を色々案内してくれた。いつしかおれと彼女が付き合っているという噂が流れ始めたが特に気にはしなかった。
そして夏期休暇に入る直前、彼女がザイロに行ってみたいと言い出した。
「私って王都の外にあまり出たことがないの。ザイロに私を連れてって」
もちろん最初は断った。彼女を連れて帰れば当然あらぬ誤解を生むことになるだろう。それでも何度もお願いしてくるジュノにおれは根負けした。最終的には「まぁ、ただの友達だからいいだろう」と納得することにした。
ザイロまでの長い旅路はジュノのお陰で案外楽しいものだった。初めて見る景色や食べ物に、彼女は何度もころころと表情を変えた。学園生活とはまた違った彼女を垣間見ることが出来た。王都にいる時は早くアリスに会いたいと思っていたが、気がつけばジュノとの旅がもう少し続いてほしいとさえ思い始めていた。
そしてアリスとの半年振りの再会。おそらくジュノがいた所為であろう。久し振りに会ったというのにアリスは不貞腐れた顔をしていた。当然と言えば当然だろうけど「ちょっとは気を遣えよ」と内心思った。それに今までずっと見てきたはずのアリスがジュノと比べるとひどく子供っぽく見えてしまった。
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