8 / 27
第8話 ジュノの思惑
しおりを挟む私がマーカスに抱いた第一印象はただの同級生。それ以上でもそれ以下でもなかった。たまたま入学説明会で隣に座った男子が彼だった。見た目とその話し方から地方からやって来たのだと分かった。王都出身者の中には、他の都市から来た人を小馬鹿にする人もいるけど私はそんなことはしない。だって純朴でかわいらしいじゃない?
「へ~ザイロから来たの!? 王都は今回が初めて?」
「いや、父と一緒に何度か来たことあるよ。父は辺境騎士団の団長なんだ」
聞けば彼は騎士科に入るのだという。父親が騎士団長ならば将来はそこそこ有望なのだろう。私はちょこっとだけ彼に興味が湧いた。
「じゃあ将来は辺境騎士団に入るの?」
「いや、おれは王都騎士団を目指してるよ。そのためにこの学園に来たんだ。婚約者には怒られちゃったけどね」
よくよく見ると、はにかみながら笑う顔はなかなかの美男子だ。さぞ女子からは持て囃されるだろうに、婚約者がいるとはもったいない。かくいう私もすでに許嫁がいるが学園に通う間は公表するつもりはない。青春なんて一度きり。思い切り学園生活を楽しまなくちゃ。
そんな私にとってマーカスは丁度いい存在だった。例え付き合うことになってもそれは期間限定の恋。卒業と同時にお互い後腐れなくお別れ出来る。だけど彼は思いの外真面目だった。毎日昼食を一緒に食べたり、放課後は王都を案内したりと、さり気なく仲良くなろうとしたけど最後の一線みたいな所は越えて来ない。婚約者とも頻繁に手紙のやり取りをしているらしく、時には「彼女が大変な時に側にいてやれなくて……」などと悩みの相談まで受けてしまった。
これではダメだと私はある作戦を思いついた。マーカスは夏期休暇で辺境都市へと帰郷する。その時に一緒について行けばいいじゃないか。
「ねぇマーカス? 私って王都の外にあまり出たことがないの。ザイロに私を連れてって」
ここぞとばかりに私は自慢の胸を彼の腕に押し付けながらお願いをした。この時初めてマーカスは動揺したような、照れたような表情を浮かべた。なんだかんだ言って彼も一人の思春期男子だ。さっさとこの手を使えば良かったとちょっとだけ後悔した。
辺境都市までの道中、私は普段見せないような自分を敢えて彼に見せた。観光地や郷土料理などそれ程興味はなかったけれど、そこは一芝居打つことにした。少し大袈裟かな、と思うことはあったけどマーカスは全く気にした様子もない。むしろ一緒になって楽しんでいるようだった。
とある宿場町で宿屋の部屋がひとつしか空いておらず、彼と一晩を共にしたけど結局朝まで彼は何もしてこなかった。翌朝彼は一睡もしなかったようで目の下に隈を作っていた。やっぱり彼は初心なのだ。
初めて彼の婚約者を見た時は拍子抜けしてしまった。私が思ってたよりもずっと田舎の少女といった感じだったのだ。
「あなたがアリスちゃんね? はじめまして、私はジュノよ」
やはりというか案の定、彼女は怪訝な顔で私を見た。けど私は彼女と敵対するつもりは全くない。マーカスとの仲を引き裂いてやろうなどとは思ってもいないのだ。あくまで彼とは卒業までのお付き合い。婚約破棄などされたらこっちが困る。
だけどなぜかその日からマーカスの様子が少し変わってしまった。ザイロを案内されている時も彼は私ばかりにかまけてくる。むしろ私の方がアリスちゃんに気を遣う始末だった。彼女は余程居心地が悪かったのか、途中から一切顔を出さなくなってしまった。
「ちょっとやり過ぎたかしら……この後うまく仲直りしてくれればいいけど」
王都までの帰りの馬車で私はひとり溜息を漏らした。けれどそんな希望も虚しく遅れて王都へと戻ってきたマーカスは、どうやら私に本気になってしまったようだった。
31
あなたにおすすめの小説
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
元夫をはじめ私から色々なものを奪う妹が牢獄に行ってから一年が経ちましたので、私が今幸せになっている手紙でも送ろうかしら
つちのこうや
恋愛
牢獄の妹に向けた手紙を書いてみる話です。
すきま時間でお読みいただける長さです!
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
我慢しないことにした結果
宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
断罪された薔薇の話
倉真朔
恋愛
悪名高きロザリンドの断罪後、奇妙な病気にかかってしまった第二王子のルカ。そんなこと知るよしもなく、皇太子カイルと彼の婚約者のマーガレットはルカに元気になってもらおうと奮闘する。
ルカの切ない想いを誰が受け止めてくれるだろうか。
とても切ない物語です。
この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。
妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです
藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。
――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。
妹は父の愛人の子。
身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、
彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。
婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、
当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。
一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。
だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。
これは、誰かが罰した物語ではない。
ただ、選んだ道の先にあった現実の話。
覚悟のなかった婚約者が、
自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。
とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜
入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】
社交界を賑わせた婚約披露の茶会。
令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。
「真実の愛を見つけたんだ」
それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。
愛よりも冷たく、そして美しく。
笑顔で地獄へお送りいたします――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる