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第16話 風の大魔法使い
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壁まで吹っ飛ばされたマーカスはなんとか意識を保っていた。だが体が壁にめり込んでいるため身動きが取れない。引き返してきたケヴィンが彼を引っこ抜こうとしているがなかなか抜けそうにない。そんな彼らをアリスは遠くから見つめた。
「ま、とにかく今はこいつをなんとかしなきゃ」
マーカスに会うためにここまでやってきた。だがもはや彼女にとってそんなのは些細な事。目の前にある脅威をなんとかせねばならない。その行く手を阻むようにして、彼女は正面から魔王と対峙した。不思議なことに恐怖などは一切ない。今彼女は水が湧き出てくるかの如く、魔力が体の奥底から溢れ出していた。まるで風が守ってくれているかのように、彼女の周りの空気がヒュンヒュンと音を立てている。
「なかなか面白そうな娘だ。どれ、ひとつ相手をしてやろう」
頭がずしりと重くなるようなおぞましい声が響いた。百年振りに復活した魔王に明確な目的などない。ただただ人々を苦しめ、蹂躙し尽くすのみ。にわかに構えたその手から鉄をも砕く爆炎が放たれた。だがそれとほぼ同時にアリスも魔法を放つ。
「渦風!!」
一瞬で巻き起こった暴風が魔王を中心に渦を巻く。その風は幾重にも重なり、そして分厚い壁となりながら魔王が放った炎を渦の中へと跳ね返す。瓶の中にすっぽりと閉じ込められたかのように、魔王の体は業火と化した炎に焼かれていく。じりじりと己の魔法でその身を焼かれ、魔王は見悶えた。
「おのれぇぇーー!!! 小娘ぇええーーー!!!!」
アリスを舐め切っていた魔王の表情ががらりと変わった。巨大な竜巻が内側からはじけ飛ぶように霧散した。間髪入れずに魔王がアリス目掛けて雷撃を放つ。だがすでにそこにはアリスの姿はなかった。脚に背に、いや全身に風魔法を掛け続け、彼女は自由自在に飛び回る。そして魔王の死角に回り込むと風の斬撃を次々と繰り出した。
「風断ち!!!」
速い――。とにかくアリスは速かった。魔王でさえ彼女を目で追い切ることが出来ない。後ろから、足元から、そして頭上から。絶え間なく放たれる攻撃に魔王の体は徐々に切り刻まれていった。最弱魔法とまで揶揄される風魔法を、一体誰がここまで使いこなせただろう。アリスが大好きな風魔法は、今日まで封じられていた風魔法は、今まさに彼女の手によって最強の魔法へと大化けした。
「なんだありゃ……」
あっけにとられたようにケヴィンがその場に立ちすくむ。未だ壁に埋もれたマーカスもまた驚愕の表情でアリスを見ていた。今や王都の人々の命運は、たった一人で魔王に立ち向かうアリスに託されていた。いつしか人々は遠巻きに彼女の戦いを見守っていた。騎士団でも魔法師団でもない、見るからに華奢な体の少女。誰もが「頑張れ」と心の中で、そして声に出して叫んだ。
駆けつけてきた騎士団もまた余計な手出しは出来なかった。ならばせめて、と周りにいる魔物達をアリスに近付けまいと剣を振る。彼女が付与した剣をその手に握りしめて。
ずっと飛び回り続けていたアリスにわずかな疲れが見えた。ひと呼吸置こうと距離を取って地面に降り立つ。だがその一瞬を魔王は見逃さなかった。アリスの足元がぐにゃりと泥のように崩れ、彼女の足が膝下まで大地に沈んだ。
「きゃっ!」
慌てて抜け出そうとしたが、泥は瞬時に石のように固まり彼女は身動きが取れなかった。そして再び放たれた爆炎がアリスに襲い掛かる。
「風燐!!」
目前に迫る炎の塊にぶつけるようにしてアリスが魔法を放つ。既の所で巨大な炎は爆音と共に風に相殺された。彼女の目の前に立ち込めていた真っ黒な煙が風に流されていく。アリスがほっと息をついたその時、黒煙の中からぬうっと現れたのは魔王だった。わずかな隙をつき魔王がアリスに肉薄する。防御魔法もすでに間に合わない。
魔王の大きな拳がアリスの体を吹き飛ばした。
か細く小さなアリスの体は、まるで冬空に散りゆく木の葉のように風に舞った。
「ま、とにかく今はこいつをなんとかしなきゃ」
マーカスに会うためにここまでやってきた。だがもはや彼女にとってそんなのは些細な事。目の前にある脅威をなんとかせねばならない。その行く手を阻むようにして、彼女は正面から魔王と対峙した。不思議なことに恐怖などは一切ない。今彼女は水が湧き出てくるかの如く、魔力が体の奥底から溢れ出していた。まるで風が守ってくれているかのように、彼女の周りの空気がヒュンヒュンと音を立てている。
「なかなか面白そうな娘だ。どれ、ひとつ相手をしてやろう」
頭がずしりと重くなるようなおぞましい声が響いた。百年振りに復活した魔王に明確な目的などない。ただただ人々を苦しめ、蹂躙し尽くすのみ。にわかに構えたその手から鉄をも砕く爆炎が放たれた。だがそれとほぼ同時にアリスも魔法を放つ。
「渦風!!」
一瞬で巻き起こった暴風が魔王を中心に渦を巻く。その風は幾重にも重なり、そして分厚い壁となりながら魔王が放った炎を渦の中へと跳ね返す。瓶の中にすっぽりと閉じ込められたかのように、魔王の体は業火と化した炎に焼かれていく。じりじりと己の魔法でその身を焼かれ、魔王は見悶えた。
「おのれぇぇーー!!! 小娘ぇええーーー!!!!」
アリスを舐め切っていた魔王の表情ががらりと変わった。巨大な竜巻が内側からはじけ飛ぶように霧散した。間髪入れずに魔王がアリス目掛けて雷撃を放つ。だがすでにそこにはアリスの姿はなかった。脚に背に、いや全身に風魔法を掛け続け、彼女は自由自在に飛び回る。そして魔王の死角に回り込むと風の斬撃を次々と繰り出した。
「風断ち!!!」
速い――。とにかくアリスは速かった。魔王でさえ彼女を目で追い切ることが出来ない。後ろから、足元から、そして頭上から。絶え間なく放たれる攻撃に魔王の体は徐々に切り刻まれていった。最弱魔法とまで揶揄される風魔法を、一体誰がここまで使いこなせただろう。アリスが大好きな風魔法は、今日まで封じられていた風魔法は、今まさに彼女の手によって最強の魔法へと大化けした。
「なんだありゃ……」
あっけにとられたようにケヴィンがその場に立ちすくむ。未だ壁に埋もれたマーカスもまた驚愕の表情でアリスを見ていた。今や王都の人々の命運は、たった一人で魔王に立ち向かうアリスに託されていた。いつしか人々は遠巻きに彼女の戦いを見守っていた。騎士団でも魔法師団でもない、見るからに華奢な体の少女。誰もが「頑張れ」と心の中で、そして声に出して叫んだ。
駆けつけてきた騎士団もまた余計な手出しは出来なかった。ならばせめて、と周りにいる魔物達をアリスに近付けまいと剣を振る。彼女が付与した剣をその手に握りしめて。
ずっと飛び回り続けていたアリスにわずかな疲れが見えた。ひと呼吸置こうと距離を取って地面に降り立つ。だがその一瞬を魔王は見逃さなかった。アリスの足元がぐにゃりと泥のように崩れ、彼女の足が膝下まで大地に沈んだ。
「きゃっ!」
慌てて抜け出そうとしたが、泥は瞬時に石のように固まり彼女は身動きが取れなかった。そして再び放たれた爆炎がアリスに襲い掛かる。
「風燐!!」
目前に迫る炎の塊にぶつけるようにしてアリスが魔法を放つ。既の所で巨大な炎は爆音と共に風に相殺された。彼女の目の前に立ち込めていた真っ黒な煙が風に流されていく。アリスがほっと息をついたその時、黒煙の中からぬうっと現れたのは魔王だった。わずかな隙をつき魔王がアリスに肉薄する。防御魔法もすでに間に合わない。
魔王の大きな拳がアリスの体を吹き飛ばした。
か細く小さなアリスの体は、まるで冬空に散りゆく木の葉のように風に舞った。
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