20 / 27
第20話 遠き空へ
しおりを挟む頭を冷やせとはまさにこの事だろう。びしょ濡れになった三人はぴたりとその動きを止めた。どうやらシンシアさんが水魔法を使ったようだ。
「あのねぇ、魔王と戦って私達は疲れてるの。後は三人で勝手にどうぞ。じゃあアリスちゃん行きましょう」
私達が行こうとするとジュノが真っ先にシンシアさんの腕を掴んだ。
「先生待って! お休みになるなら是非我が家へいらしてください!」
「そうですぞ! 部屋はすでに用意しております。明日からは住み込みで娘の魔法教育を!」
「ああ、それなんだけどお断りするわ。だってこの子魔法の基礎すらまともに出来ないじゃない。まったく学園で何を学んでいたんだか」
シンシアさんはやれやれと両手をあげた。以前マーカスはジュノは非常に優秀だとか言ってた気がするけど。
「なんてことをおっしゃるの! 私は王都学園を主席で卒業したんですよ!」
「どうせ大臣、あなたが裏で何かしたんでしょ?」
おそらく図星だったのだろう。大臣は気まずそうな顔をして視線を逸らした。一方ジュノは流石にそこまで馬鹿ではなかったようで、何かを察したらしく「嘘……」と唖然とした表情で呟いた。
「待ってくれアリス!」
改めてその場を去ろうとしたら、今度はマーカスに捕まった。彼は私達の前に回り込むと両手で私の肩を掴んだ。
「おれはやっと目が醒めた! おれが愛しているのはアリス! おまえだけだ!」
「目が醒めた?」
「ああそうだ! おれはあの女に誑かされていたんだ。都会の甘い誘惑につい騙されていた。だけどアリス。君はずっとおれを好きでいてくれた。今日もおれに会うために王都まで――」
――パシンっ!
乾いた音が鳴り響く。私は思いっきり彼の頬を引っ叩いた。彼の自分勝手な言い訳をこれ以上聞きたくなかった。
「そんなくだらない理由で何年も私を放っておいたの? 最後まで人の所為にして……自分はちっとも悪くないって言うの?」
涙はこれっぽっちも出なかった。怒りよりもむしろ落胆の方が大きかった。
「私は真っすぐなあなたが好きだった。いつだって一緒に笑い合えるあなたが好きだった」
彼に対し、私がここまで強く言った事がなかったからだろう。マーカスはぶたれた頬を押さえながら何も言わず立ち尽くしていた。
「例え物理的に離れていたって、心が通じ合えていたなら私はそれでよかった。でもあなたにはそれすらなかった。離れてから今日までの私の事、なにも知らないでしょう?」
念のためにと思って持ってきていた婚約証明書をポケットから取り出した。そしてマーカスの目の前でそれをビリビリと破り捨てた。ばらばらになった紙切れは風に乗って遠くへと飛んで行った。
「さよなら。マーカス」
私は彼に背を向け歩き出した。隣を歩くシンシアさんがそっと私の手を引いてくれた。
「風の羽」
少し歩いた所で立ち止まり呪文を唱える。体がふわりと宙に浮くと同時にシンシアさんも空へと飛んだ。地上にいる三人の姿がみるみる小さくなっていく。繋がれていた目に見えない重たい鎖が全て消え去ったような気がした。
大空高くまで舞い上がると、沈みゆく夕陽が遠くの空に見えた。
「最後はぶん殴ってやればよかったのよ」
二人で並んで飛んでいる最中、私はこれまでの事をシンシアさんに話した。彼女はまるで自分の事のように怒ってくれた。
「一度思いっきりぶっ飛ばしたからいいんです。それに今の私が本気で殴りつけたら彼、きっとあの世まで飛んでっちゃいますよ」
「確かにそうね。魔王でさえ吹っ飛んじゃったもんね」
二人で顔を見合わせながらくすりと笑った。辺りはすっかり暗くなっていて、満天の星空がいつもよりもきれいに見えた。シンシアさんが魔法でほんのり光を照らしていたから、まるで流れ星にでもなったような気分だった。
「シンシアさん。本当に私が弟子になってもいいんですか?」
「もちろん! と言ってもアリスちゃんに教えることなんてあんまりなさそうだけど。とりあえずザリンガにでも行ってみる?」
「う~ん」と私は少し考えた。魔法と言えば父の生まれ故郷のザリンガ魔法国だろう。でも――
「私は……いろんな場所に行ってみたいです。そしていろんな美味しいものを食べてみたい!」
「うん、いいね。じゃあしばらくは二人でのんびり旅をしましょ。遠い南の方におもしろい島があってね――」
シンシアさんとの楽しいお喋りは尽きる事がなかった。まだ見ぬ世界の事を考えるとわくわくが止まらない。気がつけば私達は一晩中空を飛び続けていた。
―――――――――――――――
ざまぁ達のその後をもう1話だけ書く予定です。
45
あなたにおすすめの小説
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
元夫をはじめ私から色々なものを奪う妹が牢獄に行ってから一年が経ちましたので、私が今幸せになっている手紙でも送ろうかしら
つちのこうや
恋愛
牢獄の妹に向けた手紙を書いてみる話です。
すきま時間でお読みいただける長さです!
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
我慢しないことにした結果
宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
断罪された薔薇の話
倉真朔
恋愛
悪名高きロザリンドの断罪後、奇妙な病気にかかってしまった第二王子のルカ。そんなこと知るよしもなく、皇太子カイルと彼の婚約者のマーガレットはルカに元気になってもらおうと奮闘する。
ルカの切ない想いを誰が受け止めてくれるだろうか。
とても切ない物語です。
この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。
妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです
藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。
――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。
妹は父の愛人の子。
身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、
彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。
婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、
当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。
一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。
だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。
これは、誰かが罰した物語ではない。
ただ、選んだ道の先にあった現実の話。
覚悟のなかった婚約者が、
自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。
とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜
入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】
社交界を賑わせた婚約披露の茶会。
令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。
「真実の愛を見つけたんだ」
それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。
愛よりも冷たく、そして美しく。
笑顔で地獄へお送りいたします――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる