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第22話 ジュノへの追求
しおりを挟むあの日から全てが狂い始めてしまった。彼女は私達の目の前から飛び去ると、そのまま帰ってこなかった。
アリス・グレイン――マーカスの元婚約者で世界を救った英雄。
私には理解出来なかった。魔王討伐という功績は国中の人々から称えられる。数えきれない程の褒美と多くの賛辞、今後百年、いや下手をすれば永遠に語り継がれる伝説となるかもしれない。そんな名声を受け取る事無く彼女は消えた。
自分ならばと想像してみる。豪華なドレスに身を包み、国王と共に群衆の前に歩み出る。割れんばかりの拍手と歓声。美しさと強さを併せ持った英雄の誕生に人々は魅了され、そして心酔するだろう。「英雄ジュノ万歳!」の大喝采に私は誇り高く彼らに微笑みを返すだろう。
「パリーン!」という窓ガラスが割れる音で私は現実に引き戻された。
「悪女はこの国から出て行け!!」
「おまえがいるからアリス様は帰って来ないんだぞ!」
ここ最近、お屋敷の周りにはアリスの狂信的な信者が常にうろうろしている。今の私は称賛を受けるどころか口汚い罵声を浴びせられる存在だ。どうしてこうなってしまったのか――
彼女が行方不明になってから数日後、私とお父様は王宮へと呼び出された。理由はもちろんアリスの件についてだ。あの時彼女と最後に言葉を交わしていたのが私達だと多くの人が証言した。
「して、彼女が消えた理由に心当たりはあるか?」
王の低く鋭い声に思わず体がビクッと反応する。でも流石はお父様。大臣を長年務めてきただけの事はあって動揺など一切表に出していない。
「今世間でも騒がれておりますが、彼女は家族から虐待を受けていたそうですな。おそらく家から逃げ出すために自ら消息を絶ったのでしょう。我々が見た時も身体は痩せ細り、精神状態もあまり良くない感じでした」
「ほう。そんな状態でも魔王を倒したと? では万全であれば彼女は相当な力を持っておるという事だな。ますます彼女を失った損害は計り知れん」
お父様は下を向いて黙り込んでしまった。確かに痩せてはいたけど彼女は活き活きしてたじゃない。お父様にしては珍しく失言だったわね。
「娘の方はどうだ? お主の考えを申してみよ」
思い当たる節はもちろんある。ただそれには私も絡んでいる可能性もあるかもしれない。なんとかその辺は誤魔化しながら、ここは正直に話してみようと私は思った。
「あの場にはマーカスという騎士もおりました。私は知らなかったのですが、彼はアリスさんの婚約者だったそうです。あの時も二人はなにか揉めておりました。きっとそれが原因ではないかと思います」
「その辺はこちらでも調べておる。どうも二人はうまくいってなかったようだな。なぜだろうな?」
「わ、私には見当もつきません……」
「そうか。おい――」
王が手を上げ配下に何かを命じた。しばらくして配下が連れて現れたのは私の婚約者であるサミエルだった。彼は大量の書類を脇に抱えていた。一瞬だけ目が合ったが、いつもの穏やかな彼とは違いとてつもなく冷淡な目をしていた。これから何が起こるかを考えると、どうしようもなく胃がきりきりと痛んだ。
「では調査結果を報告せよ」
王がサミエルにそう告げると彼は一礼をし一歩前に歩み出た。
「ご報告致します。まずアリス・グレインとマーカス・バッシュは彼女が14歳の時に婚約を結んでいます。その後程なくしてマーカスは王都学園入学のため王都へと移住いたしました」
「婚約してすぐに離れ離れとは不憫なものだな」
「ええ、私もそう思います。ですが当初は手紙のやりとりも頻繁に行っているようでした。彼女の部屋にはマーカスから届いた手紙が残されておりました」
「そうか。して手紙の内容は?」
「入学してしばらくは、まさに恋文といった内容でございました。彼女からの相談事には親身になって答え、彼女を励まし、そして自らの愛も伝えておりました。しかしある時を境に彼の心境は変化していったようです」
サミエルが私の方をちらりと見た。その目はさらに冷たく軽蔑をも含んでいるように見えた。平静を装うとすればする程、私は手の震えを抑えることが出来なかった。
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