23 / 27
第23話 断罪
しおりを挟むサミエルが少し間を置いたことで、重苦しいまでの静寂が落ちた。まるで牢獄に入れられたかのように息が詰まる。王が椅子に腰かけたままわずかに体を起こした。
「続けろ」
サミエルが次に語る事ははだいたい察しがつく。私は今すぐにでもこの場から逃げ出したかった。
「マーカスは一学年時の夏期休暇に故郷のザイロへ帰りました。その際、同級生の一人が彼に同伴しております。そこにおりますジュノ・ダリンジャーです」
彼が指を差すのと同時にざわめきが起こり、皆の視線が私に集まった。侮蔑するかのような、嫌悪するかのような、とにかく肌に突き刺さるような鋭い視線だった。
「た、確かに娘がザイロへ行った事は聞いております! しかしそれはあくまで観光が目的でよこしまな気持ちなどではありません! そうだろ!? ジュノ!」
「え……あ……」
口だけがはくはくと動く。けれど頭が真っ白になって言葉が出てこない。お父様が言ったように観光で行ったのは事実だ。少し強引にお願いしたかもしれないが決して悪気があった訳ではない。私の言葉を待つことなくサミエルが話を続けた。
「マーカス本人も言っておりました。彼女がザイロを見てみたいと言ったので連れて帰ったと。ただ彼女は一ヶ月近く滞在し、その間はずっとバッシュ家に宿泊していたそうです。さて、婚約者が故郷に女性を連れ帰り、そして常に寝食を共にする。ただの学友だと二人は言っているが、それを見ていたアリスさんはどう感じたでしょうか? 何を思っていたでしょうか?」
サミエルは再び間を置いた。まるでそのことを私自身が考えろ、と無言で告げるかのように。短い静寂の後「そして――」とサミエルが話を続けた。
「そしてその夏期休暇以降、マーカスの手紙にはジュノという名が頻繁に書かれるようになります。学園での闘技大会や学園祭での出来事。おそらくアリスさんは婚約者の心が離れていってしまうのを感じていたでしょう。しかもマーカスは一度帰郷した以降、今日までザイロに帰ってはおりません。つまり約四年間、アリスさんとは顔も合わせていなかった事になります」
一際強いざわめきが起こった。皆一様に信じられないといった表情を浮かべている。けれど非難されるべきマーカスはここにはおらず、その怒りは全て私に向けられる。
「マーカスからの手紙は少しずつ減っていきました。グレイン家の秘書によるとアリスさんの方は定期的に手紙を送っていたようです。ただ返事が来ない事も多かったと証言しておりました。そして残念な事にアリスさんからの手紙は一通も残っておりませんでした」
「だが彼女の想いは推し量る事が出来るな。して、彼女はなぜ婚約解消をしなかったのだ?」
険しい顔のまま、王がサミエルに問うた。彼は手元の書類をいくつか王に差し出した。
「こちらはここ三年間の辺境騎士団の武器の納品書でございます。購入先は全てグレイン商会となっております」
「辺境騎士団の団長はアーゲン・バッシュか……」
「左様でございます。グレイン家の調査報告は近く別の者が行う予定でございます」
「まあ聞かずとも大方の予想はつくがな。して、今回の件。そなたの見解を申してみよ」
「最初から彼女は別れを告げるために王都へ来たのではないかと推測します」
サミエルは一旦言葉を切ると書類の束から皺の寄った一枚の紙を取り出した。
「こちらは希望の門の外で私が偶然拾った手紙でございます。くしゃくしゃに丸めて捨ててあったのですが『ジュノ』という名前が書かれてあったので保管しておりました。彼女は一応私の婚約者ですので……」
「なんと!」と誰かが叫んだ。王はすでに知っていたのか、その表情を変える事はなかった。
「この手紙はマーカスがアリスさんに宛てたものでした。筆跡も一致しております。彼は王都でアリスさんとの婚姻の儀を取り行うつもりだったようです。手紙にはその旨が書いてありました。そしてその予定日は12月15日。偶然にも私達が婚姻の儀を挙げる予定だった日と同じです」
「それはマーカスが勝手に! 私は知らない! 私は関係ないっ!!」
王の御前というのも忘れ私は大声で叫んだ。王がちらりと私を見る。けれどサミエルは前を向いたまま振り返ろうともしなかった。
45
あなたにおすすめの小説
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
元夫をはじめ私から色々なものを奪う妹が牢獄に行ってから一年が経ちましたので、私が今幸せになっている手紙でも送ろうかしら
つちのこうや
恋愛
牢獄の妹に向けた手紙を書いてみる話です。
すきま時間でお読みいただける長さです!
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
我慢しないことにした結果
宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
断罪された薔薇の話
倉真朔
恋愛
悪名高きロザリンドの断罪後、奇妙な病気にかかってしまった第二王子のルカ。そんなこと知るよしもなく、皇太子カイルと彼の婚約者のマーガレットはルカに元気になってもらおうと奮闘する。
ルカの切ない想いを誰が受け止めてくれるだろうか。
とても切ない物語です。
この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。
妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです
藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。
――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。
妹は父の愛人の子。
身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、
彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。
婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、
当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。
一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。
だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。
これは、誰かが罰した物語ではない。
ただ、選んだ道の先にあった現実の話。
覚悟のなかった婚約者が、
自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。
とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜
入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】
社交界を賑わせた婚約披露の茶会。
令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。
「真実の愛を見つけたんだ」
それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。
愛よりも冷たく、そして美しく。
笑顔で地獄へお送りいたします――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる