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第26話 罪深き行い
しおりを挟むその男はにこやかな表情だったが目は笑っていなかった。
「インチキなんて、そんなはずはない!」
「いえいえ本当です。相手の不安を煽り邪気を払うなどなんだの言って変な物を売りつける。典型的な詐欺ですよ」
確かにあの時、やたら大きい女神像を買って今でも部屋に飾っている。だがあれに毎日祈りを捧げているお陰でおれはいろいろな危機を回避出来ているはずだ。
「そ、そんなデタラメを! だいたいあんた一体誰なんだ!?」
おれは勢いよく立ち上がり男をびしっと指差した。するとそれまでずっと笑顔だった男の顔が一瞬だけスッと真顔になった。
「この方はカルメンさん。商人をやっておられてグレイン商会ともよく取引されていたそうだ。もちろんアリス殿とも旧知の仲だそうだ」
「ええ、ええ、アリスお嬢さんは小さい頃から存じております。昔から礼儀正しく賢いお嬢さんでねぇ。魔法も達者で素晴らしい方ですよ」
カルメンという男は再びにこにこと笑顔でアリスの事を話し始めた。饒舌に話す彼の胸元には金色のバッチが光っていた。アリスの顔を象ったあのバッチは確か『アリス敬愛倶楽部』の会員証だ。
「以前から婚約者の事でいろいろ相談されていましてね。随分悩んでおいででした。あなたと会えない事をとても寂しそうに話してらっしゃった。そして私はあなたからの手紙の真意を確かめてほしいとお願いされましてね。それにしてもあなた――」と彼は背もたれに体を預けながら呆れたような顔でおれを見た。
「随分と幼稚な言い訳ばかりしておいででしたな。風邪を流行病などと言ったり、たががひび程度の怪我で大事を取るなどどと。ちなみに当時の診断書は私が手に入れておいたものです」
「……あの時は王都に残るのが正しいと判断したんだ。あんたにとやかく言われる筋合いはない」
おれは声を震わせながら反論した。団長は憮然とした表情でおれを見つめ、男はうんざりしたように溜息を漏らした。
「もういい加減認めなさい。あなたはあのジュノとかいう女に横恋慕していた。彼女と離れるのが嫌でザイロに帰らなかったんでしょう? まったく実にくだらない」
ジュノという名前を出されおれは返す言葉が見つからなかった。
「私はアリスお嬢さんが不憫で仕方なかった。いつも健気に笑ってらしたが、きっと心ではないていたでしょう。ぎりぎりまであなたを見捨てなった彼女は誠実でとても優しく、とても強い。それに比べてあなたは……」
今日まで自分がしてきたことを思い返す。彼女の心の痛みに目を背け、いやそれさえ気づきもしなかった。愚か者だと思われても無理もない。
「弟のケヴィンに聞いたが、おまえは支給された剣を使ってなかったらしいな?」
「……はい。ジュノが魔法付与した剣を使ってました」
「それでオークすら倒せなかったと。まぁ彼女の魔法は下の下だったそうだからな。学園での成績改ざんの話は聞いてるな? 彼女の父親は大臣を降格され地方に飛ばされた。今頃はあの家族は雪山の奥地にでもいる事だろう。それと辺境騎士団長のアーゲン殿の処分も決まった。彼はグレイン家から多額の金を受け取っていた。そんな事をしなくともアリス殿が魔法付与したものであれば我々は喜んで購入したのだがな」
グレイン家はすでに破産したと聞いた。おそらく我がバッシュ家の評判も地に落ちてしまうだろう。ロビン団長から今回の一件でおれに対する処罰はないと言われた。だが今後はどこへ行ってもきっと針の筵だろう。「なあ、マーカス」と団長が改めておれの目を見た。
「おれは普段の彼女を知っている訳ではない。だがあの日彼女が戦う姿を間近で見ていた。決して下がらず真っ向から魔王に立ち向かう勇気におれは心打たれた。彼女がいなかったら今頃おれ達はあの世にいたさ。王都だって残っちゃいなかっただろう。出来得るならば彼女に心からの感謝を伝えたい。王都の民もみんなそう思っている。だからこそ彼女が消えてしまった事が非常に残念だよ」
団長の言葉がずしりと重く背中にのしかかった。今さらながら己の罪の深さを思い知り、おれは顔を上げることが出来なかった。
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