詩集「支離滅裂」

第一章 二十歳の詩集

②孤独（１）～無神～

冬の冷たい夜更け

密集した人家に向かって

青年が力を込めて投石すると

礫は黒い鳥となって飛翔する

だが、青年の耳には

ガラスの砕ける音も

樹枝の折れる音も

壁の崩れる音も

屋根に弾む音も

一切帰って来ない

礫はロケットとなって無限空間へ吸収され

巨大な掌が深夜の暗い空間に伸びて

青年の悪意の投石を受け取ってしまう


現実世界の不安の無い日常生活者たちを

青年の攻撃から守る為に

何か巨大なものが存在するとすれば

それが神である


青年の投げる礫は神のグローブによって受け止められ

青年が数千回投石しても

いつでも

神のグローブがそれを受け止めてしまう

現実世界に真正に暮らしてる人間は

常に神によって

青年の礫から庇護されている


青年が礫を投げても

何一つ現実世界に

その結果が現れないとすれば

青年は現実世界に存在していない

青年は神によって

青年の存在を拒まれている


青年が自己の存在を主張するには

礫などと言う不確かなものでなく

もっと確実な方法で神の眼を掠め

現実世界に凄い結果を

引き起こさなければならない

その時初めて青年は現実世界に

青年独自の危険な真正性をしっかり持って

その存在を證明出来るのである