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相良武有

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②想い出巡り

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 黄金週間の真中のことだった。高岡の実家に帰省している靖彦の家の固定電話が鳴った。
「もしもし、靖彦さん?私、真理です、高木真理・・・」
一瞬、虚を突かれた靖彦は返事が出来なかった。
暫くして、漸く思い出した。高校を卒業するまでの二年間、靖彦が交際していた同級生だった。
「ああ、高木か、高木真理か・・・」
「やっと思い出してくれたのね、そう、真理です」
「でもどうしたんだ?急に、電話なんかして来て」
「あのね、私、今度、結婚することになったの」
「そうか、結婚するのか、それは、おめでとう!」
「有難う。でね、独身最後の思い出にあなたと一日ゆっくり過ごしたいの、二人きりで。どう?付き合ってくれるでしょう?いえ、お願い、一日付き合ってよ、ね、お願い」
哀願するように請われて、靖彦にも断わる理由は無かった。
「解かった、良いよ」
「嬉しい!じゃ、明日の朝、九時に新高岡駅の正面エントランスで待って居るわ。今から楽しみだわ」
最後に真理は、今夜は眠れそうにないわ、と言って電話を切った。
靖彦と真理は高校一年の文化祭で上演する演劇のキャスティングで知り合った。どういう訳か、靖彦が主役を務め真理がヒロインを演じることになって、二人は連日、厖大なセリフと芝居の稽古に没頭した。真理は長い髪を首の後ろでひっ詰め、長い足で颯爽と歩く高一にしては大人びた貌の美形だった。上演した劇は好評で校長賞を授かり、二人は学園のスターの一人となった。そして、二年生に進級して、二人は同じクラスに組み入れられた。真理は誰をさて置いても、旧知の靖彦に積極的に接近して来た。二人はノートを見せ合い勉強を教え合って、才色兼備の真理に靖彦は直ぐに彼女の虜になった。だが、卒業後、真理は地元の国立大学へ進学し、靖彦は京都の私大へ通う為に故郷の街を出て、二人はそれっ切り疎遠になった。靖彦が帰省しても顔を合わせることは無く、既に六年の歳月が流れ過ぎた。
 「お待たせしちゃってご免なさい」
大きく手を挙げて靖彦の前に現れた真理は見紛うほどに大人の女に成長して、その美貌は一段と増していた。
「お久し振りね。お元気そうで何よりだわ」
「ああ、君も元気そうだね、一段とその美貌は増したし・・・君のご主人になる男はこの上なく幸せだね。結婚するんだってな、改めて、おめでよう!」
「有難う。で、その祝う気持を一杯にして、今日一日、私の言う通りに付き合って欲しいの」
「解かった。何処で何をするか、君に任せるよ」
金沢駅に降り立った二人が兼六園口を出ると、「もてなしドーム」というガラスのドームに迎えられた。
「こんなドーム、昔から在ったかな?」
「在ったわよ、これは十年余り前に造られたんだから」
「そうか、全然覚えていないな」
ドーム横のバスターミナルで真理は周遊バスの一日フリー乗車券を買った。程無く二人は右回りコースの周遊バスに乗り込んだ。
 十分ほど走った橋場町バス停で真理が先導して二人は降車した。三分ほど歩くと「ひがし茶屋町」界隈だった。此処は金沢三茶屋町の一つで、出格子の風情あるお茶屋が軒を並べていた。
「あっ、あそこ」
真理が指差した先に「志摩」と言う見学出来るお茶屋建築が在った。二人は入館料を払って中へ入って行った。ひょっとして着物姿の艶やかな芸姑さんに出逢えるかと靖彦は期待したがそれは叶わなかった。「志摩」を出た後、金箔や加賀友禅などの工芸品を扱う土産店や抹茶や和菓子を味わえるお休み処などを左右に観乍ら二人は「ひがし茶屋町」を一巡りした。
 二人は又、バスに乗って兼六園や金沢城方面を目指し、五分ほど揺られて兼六園下に着いた。バス停から桂坂を上ると左側が「兼六園」だった。
兼六園は水戸偕楽園、岡山後楽園と並ぶ日本三名園の一つで、四季の折々に美しい姿を見せ、特に冬の雪吊りの幽玄美は有名な「コトジ灯籠」と共に金沢の象徴とも言われている。
兼六園下に在る「石川県観光物産館」では金沢を初め石川県内の名産品の展示販売の他に、
和菓子づくりや郷土玩具づくりなどを体験できた。二人は小一時間かけて「加賀八幡起上り手描き」に挑戦した。恰好の旅の記念品が出来上がった。
それから二人は石川橋を渡って、見事な石積みの「石川門」を潜った。金沢城の敷地に足を踏み入れると、復元された「菱櫓」「五十間長屋」「橋爪門続櫓」「河北門」などの優美な姿が表れた。二年前に再現された大名庭園「玉泉院丸庭園」も見事だった。この玉泉院で二人は和菓子付きの抹茶を喫した。
 玉泉院丸から、旧県庁庁舎である「しいのき迎賓館」を臨みつつ玉泉院丸口へと降り立って芝生広場を抜けた二人は少し空腹感を覚え、「金沢二十一世紀美術館」の直ぐ近くに在った洒落たレストランへ入った。
「あの時、十七歳だった俺たちも、こんな瀟洒なレストランで昼飯を食ったのかな?」
「そんな訳ないでしょう。あの時は、近くに在ったマクドナルドでハンバーガーをかじったのよ。あなたは大口を開けてパクパクかぶりついていたけど、わたしは格好悪いし恥ずかしいしで、凄く食べ難かったのよ」
「あっはっはっは。然し、大体、何でこの金沢でデートすることになったんだっけ?」
「そりゃ、高岡や富山では級友や知合いに出会う危険性があったからでしょ。でも、金沢へ来ても、何処で何をして良いのか皆目分からず、結局、一日周遊バスに乗って、今日と同じコースを見て廻ったって言う次第よ」
「そうか、そうだったな。それで、今こうしてその思い出の場所を訪ね歩いている訳なんだな」
 昼食の後、二人は金沢の新しい文化の象徴とも言える現代美術の施設を横目に見て、徒歩で、広坂通りの市役所や繁華街の香林坊を通って「長町武家屋敷跡」へ向かった。
十分少し歩くと、藩政期の姿を其の儘に、用水が流れ土塀に囲まれた屋敷の連なる一帯が見えて来た。靖彦は武士の気分に、真理は奥方の気分になって散策を楽しんだ。そして、武家屋敷の一つである「野村家」に入って屋敷内を見学し、茶室でお茶を戴いた。
往時の雰囲気を満喫した後、五分ほど歩いて香林坊まで戻り、再びバスに乗って武蔵ケ辻の「近江町市場」へ向かった。
 金沢の代表的な観光スポットの締め括りに欠かせないと言われているのが「近江町市場」である。金沢近海の鮮魚や海産物或は加賀野菜などを扱う店がぎっしり集まっている伝統の市場だった。
 その後、バスに乗って五分余りで金沢駅に着いた二人は駅構内に在る「金沢百番街あんと」に立ち寄って名物の和菓子類などを見て廻った。
靖彦が、これで帰るのか、と思っていると真理が徐に言った。
「ちょっと駆け足での思い出辿りだったけど、これからは今の私たちに相応しい大人の思い出を一緒に作りましょうよ」
 
 そして、真理が靖彦を案内したのは、香林坊片町の犀川沿いに隠れ家のようにひっそりと店を構えるたった十二席の小さなフレンチレストランだった。
重い扉を押して店内に入った二人は、都会の喧騒から離れ、ゆっくりと流れる時間の中で、独創性溢れる艶やかなコース料理とゴージャスなワインを味わうことになった。
二人は居心地の良い快適な空間で食事もワインもじっくり堪能して、至福のひと時を過ごした。
 それから真理が靖彦を連れて行ったのは生バンドの入ったグランドクラブだった。
女性シンガーのショーが終わってライトが少し落とされ、ムーディーなブルースの曲が奏でられ始めた。
真理は青く仄暗いフロアに靖彦を誘い、二人は抱き合って踊り始めた。
「あなたの眼って、素敵ね」
「君もチャーミングだよ」
「涼し気で・・・好きだったなあ、その眼」
「会えて嬉しかったよ」
真理は靖彦にピタリと身体を寄せて彼の胸に顔を埋めた。靖彦も真理を抱く腕に力を込めた。サックスの音色と淡い灯りに酔ったのか、真理は瞳を潤ませ、睫毛が濡れていた。
 グランドクラブを出た靖彦は真理をタクシーに乗せて、駅前の超高層ホテルへ彼女を送って行った。
部屋の前で引き返そうとした靖彦を真理が止めた。
「今日一日は未だ終わってないわ」
真理はそう言って靖彦の腕を取り彼を中へ引き入れた。
部屋に入ると直ぐに、真理は靖彦の首に両腕を回して唇を合わせて来た。それは熱い狂おしい深い接吻だった。靖彦もしっかりと真理を抱きしめた。
唇を離した真理は燃えるような瞳で覗き込むように靖彦の眼をじっと見つめながら、彼の上衣を脱がせネクタイを解き、シャツのボタンを外してズボンのベルトを緩めた。靖彦も真理の眼を凝視して彼女の衣服を一枚一枚ゆっくりと剥がしタイトスカートのジッパーを引き下ろした。生まれたままの姿になった二人は唇を合わせ、抱き合って縺れながらベッドに倒れ込んだ。
真理は肉体を固く強張らせ眼を見開いて靖彦を受け入れた。靖彦は優しく緩やかに突き進んだ。靖彦の優しい愛撫に、やがて、真理は心を解いて肉体を開き、あ~あぁ、あ~あぁ、と喘ぎ始めた。靖彦の動きが強く激しくなるに連れて真理は昇り始め、仰け反ったり沈んだりを繰り返しながら、幾度となく昇りつめて、やがて二人は頂点に達して、一緒に果てた。
身体を離した靖彦の傍で、真理は暫く放心したように定まらぬ視線を宙に泳がせていたが、やがて、靖彦の胸に顔を埋めて、言った。
「ああ、良かったぁ・・・わたし、蕩けちゃったわ・・・」
靖彦は真理の滑らかな肩を抱き寄せて括れた背中を優しく撫でた。
暫くして、潮が退くように余燼が肉体から退いて行った真理はバスルームに消えて行った。そして、浴室から出て来た後、真理は下着をつけ始めた。
「今日は一日付き合ってくれて、真実に有難う」
着衣を終えた真理はバッグを手に持って立ち上がった。
それから、ドアの前で立ち止まった彼女は靖彦の方を振り向いて言った。
「ああ、さっぱりした。これでもう、何の後顧の憂いも未練も無く、彼と結婚出来るわ」
後ろ手にドアを閉めて真理はリザーブした別の部屋へと出て行った。
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