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第一章 悔恨
第4話 嶋と麗子、海水浴に出かける
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夏の休日には遠く離れた海水浴場へ、麗子が手作りした昼食と水筒と水着の入ったナップザックを担いで出向いた。
JRと私鉄バスを乗り継いで着いた浜辺は、綺麗な砂浜が四キロも続き、松並木が美しく、白い砂浜と青い水面のコントラストが絶妙だった。
太陽はすでに中空高く浜辺は暑かった。点在する島の向こうに見える遥かな山々は将に最高の眺望だった。
暫し絶景に見惚れた後、二人はバンガローを一部屋借りて、水着に着替えようと中へ入って行った。
「早く着替えて外で待って居てよ」
「解ったよ、覗かれないように外で見張って居てやるよ」
着替えを終えた二人は肩を並べて水辺へ歩を進めた。
長い髪を風に靡かせ、すらりと伸びた足で颯爽と闊歩し、黒い瞳はきらきらと輝いて、笑顔がとても眩しい麗子は、擦れ違う誰もが振り向いてその容姿に見惚れる魅力を備えていた。そんな麗子を連れて、嶋は自慢げに誇らしげに砂浜を歩いた。
半裸になり肌の露出が増えた分だけ心が解き放たれて、二人ははしゃぎ、笑い、走った。
水の中では、形の良いクロールでゆっくりと大きく水を切って泳いだ。
「なかなか良い泳ぎじゃないか」
嶋が立泳ぎで麗子のクロールを誉めた。
「そうよ、子供の頃、夏休みに、毎日のように水泳教室に通ったんだもの。それに女の子の平泳ぎは見っとも無いからね」
麗子も立泳ぎしながら答えた。
「あなたの泳ぎも上手いじゃない?」
「俺の泳ぎは我流だよ。幼い頃、親父に川の泳ぎ場で水の中へ放り込まれて、沈まないように必死で足掻いた。犬掻きって奴だよ。あれ以来そんなに変わっていないよ」
二人は又、ゆっくり沖の方へと泳ぎ始めた。
暫くして、泳ぎ疲れた嶋が浜辺に上がって腹這いになった。その嶋の大きな背中に麗子がオリーブオイルを塗り、寄り添って汚れた砂の上に砕ける波を見つめた。
二人は自分達だけの小さな世界に閉じこもって、喧騒する周りの人間には聞こえないほどの小声で話合いながら、暫し遠くを眺めた。真夏の浜と雲と風が二人を優しく気だるく包んだ。
やがて、空腹を覚えた二人は昼食を摂る為にバンガローへ戻った。
麗子が用意した献立は、ハンバーグと卵焼きとホウレンソウのお浸し、それに拳ほどの大きさのおにぎり二個に一口大のおにぎり七個であった。
「大きい方はあなたの分よ」
「其方は随分と可愛らしい手間の掛かかった握り飯じゃないか」
嶋が小さい方を指差して言うと、麗子が微笑いながら答えた。
「これは私の分。だって女の子が大きなおにぎりに齧り付いている姿は格好悪いでしょう」
手作りの美味い昼食で腹の満ちた二人は暫し、うとうととまどろんだ。満腹感は人を心地よく寛がせる。
「宝探し大会、始まるよ!」
大きな呼び声に目覚めた二人は、バンガローを出て声のする方角へ歩いた。
七月十五日から八月十二日までの間、毎週一回開催される恒例の「水中宝探し大会」であった。色を付けたシジミを探し当てると景品が貰えると言う。
「折角だから参加してみようよ」
麗子の一言で、余り乗り気でなかった嶋も一緒にやることになった。家族連れから若者達、若いカップル等大勢の参加者が集まった。
午後一時の開始合図と共に皆が一斉に水中へ入って行った。
十分もしない内に麗子が、百メートルほど沖合いの水中で、金色の着いた小さなシジミを見つけた。
主催者のテントへ持って行くと、千円の金券が貰えた。売店や屋台で好きなものと交換出来ると言う。
「やったあ!何か思い出になるものを買おうよ」
麗子は素直に喜びを表して嶋の腕を捕った。
おやッ、という表情で嶋が麗子の横顔を見たが、麗子は素知らぬ顔で正面を向いたまま歩いていた。二人は腕を組んだまま売店の方へと急いだ。
JRと私鉄バスを乗り継いで着いた浜辺は、綺麗な砂浜が四キロも続き、松並木が美しく、白い砂浜と青い水面のコントラストが絶妙だった。
太陽はすでに中空高く浜辺は暑かった。点在する島の向こうに見える遥かな山々は将に最高の眺望だった。
暫し絶景に見惚れた後、二人はバンガローを一部屋借りて、水着に着替えようと中へ入って行った。
「早く着替えて外で待って居てよ」
「解ったよ、覗かれないように外で見張って居てやるよ」
着替えを終えた二人は肩を並べて水辺へ歩を進めた。
長い髪を風に靡かせ、すらりと伸びた足で颯爽と闊歩し、黒い瞳はきらきらと輝いて、笑顔がとても眩しい麗子は、擦れ違う誰もが振り向いてその容姿に見惚れる魅力を備えていた。そんな麗子を連れて、嶋は自慢げに誇らしげに砂浜を歩いた。
半裸になり肌の露出が増えた分だけ心が解き放たれて、二人ははしゃぎ、笑い、走った。
水の中では、形の良いクロールでゆっくりと大きく水を切って泳いだ。
「なかなか良い泳ぎじゃないか」
嶋が立泳ぎで麗子のクロールを誉めた。
「そうよ、子供の頃、夏休みに、毎日のように水泳教室に通ったんだもの。それに女の子の平泳ぎは見っとも無いからね」
麗子も立泳ぎしながら答えた。
「あなたの泳ぎも上手いじゃない?」
「俺の泳ぎは我流だよ。幼い頃、親父に川の泳ぎ場で水の中へ放り込まれて、沈まないように必死で足掻いた。犬掻きって奴だよ。あれ以来そんなに変わっていないよ」
二人は又、ゆっくり沖の方へと泳ぎ始めた。
暫くして、泳ぎ疲れた嶋が浜辺に上がって腹這いになった。その嶋の大きな背中に麗子がオリーブオイルを塗り、寄り添って汚れた砂の上に砕ける波を見つめた。
二人は自分達だけの小さな世界に閉じこもって、喧騒する周りの人間には聞こえないほどの小声で話合いながら、暫し遠くを眺めた。真夏の浜と雲と風が二人を優しく気だるく包んだ。
やがて、空腹を覚えた二人は昼食を摂る為にバンガローへ戻った。
麗子が用意した献立は、ハンバーグと卵焼きとホウレンソウのお浸し、それに拳ほどの大きさのおにぎり二個に一口大のおにぎり七個であった。
「大きい方はあなたの分よ」
「其方は随分と可愛らしい手間の掛かかった握り飯じゃないか」
嶋が小さい方を指差して言うと、麗子が微笑いながら答えた。
「これは私の分。だって女の子が大きなおにぎりに齧り付いている姿は格好悪いでしょう」
手作りの美味い昼食で腹の満ちた二人は暫し、うとうととまどろんだ。満腹感は人を心地よく寛がせる。
「宝探し大会、始まるよ!」
大きな呼び声に目覚めた二人は、バンガローを出て声のする方角へ歩いた。
七月十五日から八月十二日までの間、毎週一回開催される恒例の「水中宝探し大会」であった。色を付けたシジミを探し当てると景品が貰えると言う。
「折角だから参加してみようよ」
麗子の一言で、余り乗り気でなかった嶋も一緒にやることになった。家族連れから若者達、若いカップル等大勢の参加者が集まった。
午後一時の開始合図と共に皆が一斉に水中へ入って行った。
十分もしない内に麗子が、百メートルほど沖合いの水中で、金色の着いた小さなシジミを見つけた。
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「やったあ!何か思い出になるものを買おうよ」
麗子は素直に喜びを表して嶋の腕を捕った。
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