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第三章 無念
第37話 沢木、順調に回復して行く
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次の日の朝の定時診察で足の止血帯が外された。腕や首はまだ自由が利かなかったが、下半身特に足が自由に動かせるようになって、沢木はその解放感に今更ながらの感慨を味わった。
そして、この日、初めての清拭が行われた。
若くて元気な准看護師がやって来ていきなり言った。
「身体、拭きますね」
沢木は濡れタオルを貰って上半身は自分で拭いた。が、問題は下半身だった。
初日の手術から着けていた紙おむつをペロンと外され、排尿用の管が付いた下半身が露わになった。准看護師は其処に温水をかけてお尻の方とも併せて丁寧に拭いてくれた。これは普通なら有り得ないことで恥ずかしさに死んでしまう、と思いきや、沢木は結構平気だった。病人モードになっていたのと入院以後の諸々の体験で、下半身の清拭くらいでは動揺しなくなっていた。
恵子は夕刻に慌しくやって来て、ペースメーカーを付けた沢木の姿に、あらまあ、と言う貌をした。
「昨夜遅く、十時頃だったかしら、先生からお電話を戴いたの。心破裂や心不全など、万が一のことが十分に考えられる容体だと告げられたわ」
恵子はそう言って急に涙ぐんだ。
恵子は沢木の前では、入院以来、気丈に振舞っていたが、自宅に居る時も仕事をしている時も、病院からの連絡には相当に神経を尖らせていた。食事を愉しんだりテレビを観賞したりするなど到底出来なかった。
沢木は恵子の心持を慮って、済まない、申し訳ない思いで胸が一杯になった。
明日の仕事の為に早々と帰って行った恵子と入れ違いに恵子の姉が見舞いにやって来た。
義姉は長らく看護師の仕事に携わっていて、今も民間の総合病院で看護次長をしている。そのプロの義姉が、沢木と彼に繫がっている諸々の装置や点滴の数々を見て言った。
「わぁ、これは大変だ!」
「義姉さん!」
予期しない来客に沢木は慌てた。
「恵子が連絡したんですか?」
「そうよ。あの子ったら夜中に電話して来て、五十歳にもならないのに私は後家になってしまう、なんて訳の解らないことを言うものだから、こうして飛んで来たのですよ。でも一命は取り留めたみたいね、安心したわ」
沢木は、恵子は平静を装っていたものの内心では動揺しまくっていたのだ、と改めて思った。
「あの子にはちゃんと言って叱っておきましたからね。宏一さんは今、必死で病気と闘っているんでしょう、あなたがサポートしなきゃ誰が彼を守ってあげるのよ、ってね」
義姉が帰って行った後、沢木は足の圧迫感や拘束が無くなって、初めて普通に眠ることが出来た。
翌朝の回診で医師と看護師から順調に回復していることを告げられた。
「今後、段々と点滴の数を減らして行きますし、週明けには、一般病棟に移れるように手
配していますからね」
そして、心臓の状態も安定したということでペースメーカーが外された。未だ点滴用の管が反対側の首に付いてはいたが首周りは非常に楽になった。
そして、この日、初めての清拭が行われた。
若くて元気な准看護師がやって来ていきなり言った。
「身体、拭きますね」
沢木は濡れタオルを貰って上半身は自分で拭いた。が、問題は下半身だった。
初日の手術から着けていた紙おむつをペロンと外され、排尿用の管が付いた下半身が露わになった。准看護師は其処に温水をかけてお尻の方とも併せて丁寧に拭いてくれた。これは普通なら有り得ないことで恥ずかしさに死んでしまう、と思いきや、沢木は結構平気だった。病人モードになっていたのと入院以後の諸々の体験で、下半身の清拭くらいでは動揺しなくなっていた。
恵子は夕刻に慌しくやって来て、ペースメーカーを付けた沢木の姿に、あらまあ、と言う貌をした。
「昨夜遅く、十時頃だったかしら、先生からお電話を戴いたの。心破裂や心不全など、万が一のことが十分に考えられる容体だと告げられたわ」
恵子はそう言って急に涙ぐんだ。
恵子は沢木の前では、入院以来、気丈に振舞っていたが、自宅に居る時も仕事をしている時も、病院からの連絡には相当に神経を尖らせていた。食事を愉しんだりテレビを観賞したりするなど到底出来なかった。
沢木は恵子の心持を慮って、済まない、申し訳ない思いで胸が一杯になった。
明日の仕事の為に早々と帰って行った恵子と入れ違いに恵子の姉が見舞いにやって来た。
義姉は長らく看護師の仕事に携わっていて、今も民間の総合病院で看護次長をしている。そのプロの義姉が、沢木と彼に繫がっている諸々の装置や点滴の数々を見て言った。
「わぁ、これは大変だ!」
「義姉さん!」
予期しない来客に沢木は慌てた。
「恵子が連絡したんですか?」
「そうよ。あの子ったら夜中に電話して来て、五十歳にもならないのに私は後家になってしまう、なんて訳の解らないことを言うものだから、こうして飛んで来たのですよ。でも一命は取り留めたみたいね、安心したわ」
沢木は、恵子は平静を装っていたものの内心では動揺しまくっていたのだ、と改めて思った。
「あの子にはちゃんと言って叱っておきましたからね。宏一さんは今、必死で病気と闘っているんでしょう、あなたがサポートしなきゃ誰が彼を守ってあげるのよ、ってね」
義姉が帰って行った後、沢木は足の圧迫感や拘束が無くなって、初めて普通に眠ることが出来た。
翌朝の回診で医師と看護師から順調に回復していることを告げられた。
「今後、段々と点滴の数を減らして行きますし、週明けには、一般病棟に移れるように手
配していますからね」
そして、心臓の状態も安定したということでペースメーカーが外された。未だ点滴用の管が反対側の首に付いてはいたが首周りは非常に楽になった。
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