愛の裏切り

相良武有

文字の大きさ
27 / 99
第十話 行違った愛の思い

⑤二人の間に葛藤が秘かに立ち現れて来た

しおりを挟む
 そうして東京に帰った後も信吾は美沙の心を支配し、彼女を魅了して止まなかった。が、同時に彼女を不安で満たしもした。堅実と放埓とが交じり合い、優しい感情と意地悪い理知とを併せ持った信吾とういう人間・・・生真面目な彼女の頭では理解に苦しむ矛盾の塊のような男・・・美沙は考えると頭が混乱して来て、結局のところ、彼には人格が二つあって、それが別々に現れるのだと考えるようになった。彼の堂々とした包容力の大きい家父長的な精神態度に美沙は堪らない誇りを覚えたが、反面、それまでは形の上だけの礼節を歯牙にもかけない小気味良さと思えたものが、その裏の一面を表すところを見せつけられて不安にもなるのであった。
信吾には、放縦な生活に耽溺する面と美沙を強い力で庇護する面、即ち、悦楽の徒と盤石の如くに牢固たるものとの二つの性格が最高の形で揃って居るのを美沙は見たのだった。
美紗は当惑のあまり、暫く信吾から離れ、以前に親しかった男友達と秘かに逢ったりしたが、それは全く何の効果も無く、二年に及んだ信吾の包み込むような逞しい生命力に接した後では、他の男たちは皆、青白く血の気が失せているように見えるのだった。
 こうして二人は結婚の機会を取り戻し、全ては気持次第で具体的な障害は何一つ無いと言う状態になった時、二人の間に、それぞれの気質の違いから生まれる考え方の葛藤が秘かに立ち表れて来た。
「あなたって、凄く、個性の強い人なのね」
「君だってとても個性的だよ」
「あなたのは、特異だわ」
「個性なんてものは生まれつきのものだよ。強い人間、弱い奴、人それぞれに違って当り前だ。同じ個性の人間なんて二人と居やしないよ。尤も、没個性の奴はわんさかと居るがね」
「でも・・・」
「人は生活スタイルや行動は変えられるが、性格や性質は変えられないよ。生れ落ちる前からのものだからな」
「だったら、もう少し行動を慎ましく変えて欲しいわ」
「行動は価値観と心情で決まるよ。面白くも愉しくも無い、する意味の見出せない事柄に挑んで行くことなんて出来ないさ。快く楽しくなきゃ魅せられないよ、僕は」
「・・・・・」
美沙はもう何も言わなかった。
 それから後の二人は、接吻も涙もそれまでのような切実さを失い、互いに相手に語り掛ける口調にも力が欠けて、胸の内を伝える愛の言葉は含み声になってくぐもった。そして、例の真剣な会話もいつの間にか長々とした言い合いに変質して、二人の関係は終盤に近付いて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

真面目な女性教師が眼鏡を掛けて誘惑してきた

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
仲良くしていた女性達が俺にだけ見せてくれた最も可愛い瞬間のほっこり実話です

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...