やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女

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九話 それはΩだから?

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宴は夜まで続いた。
αも多い中で囲まれるので、僕はいつもの抑制剤を飲んでいる。
医者も言っていたが、βからΩになった人間のヒートは、生来のΩのヒートよりも不規則で不安定なことがあるそうだ。
特定のαにのみ反応する人もいれば、誰もいない場所で突然ヒートに襲われる人もいたという。
だから僕は人前に出る時は前もって抑制剤を飲むことにしている。
……もう、あの宮殿でしたような無様は晒したくない。
そう思っていたのに。
そろそろ伯爵家に戻ろうと立ち上がった瞬間、目の前がくらっと歪んだ。
酔いによるものではない。
隣にいる男のお陰で、酒の許容量は学んだからな。
ヒートだ。
息が荒くなり始めた瞬間、ローランもそれに気づいたようだ。
僕を周りから庇うように抱きしめ、そっと耳元で声をかける。

「薬、一人で飲めるか?」
「だい、じょうぶ」

そういって僕はピルケースを開け、一錠の薬を口内に入れて、飲み込んだ。
次第に鼓動が収まっていく。
熱が引く心地良さに、何度も深呼吸する。

「悪いな皆。俺のイライが飲みすぎたようだ。一先ず家に送ってく。お前らはお前らでやっててくれ」

団長の言葉に、傭兵たちは快く彼を送ってくれた。

「まだ婚約段階なんだから、送り狼になっちゃダメですからね~」
「うっせえよ」

悪態を吐きつつも仲間たちに手を振って、ローランは僕を抱えて馬車に運んでくれた。
彼の膝の上、その豊かな胸筋に顔を埋め、僕は馬車に揺られた。

「平気か? イライ」
「ん……まだ、すこし、熱い」

体は楽になったものの、熱が冷めない。
ボタンを外して胸元を解放して見てみたが、まだ収まらない。
これは酒の火照りでは決してない。

「ここから家まで結構かかるだろ。抜くか?」
「……は!?」
「懐紙持ってるし、拭くもんはあるから安心しな。今、ズボンを」
「や、め、ろ! こんなところでスる奴がいるか! この変態!」
「ヤるって……ただの処理だろ? あの部屋でしたようなことまではシねえよ」

御者に聞かれるかもしれない、ということを忘れて、僕は大声でローランを怒鳴った。
なんてとんでもない事を言う奴なんだ。
僕、こんなノンデリ野郎と結婚しなきゃいけないの?
やっぱり、イライがどうしようもない悪役だからこんな不幸な目に合うの?
……そうこうしているうちに、ロザリンド家に到着した。
彼の手を借りずに一人で降りようとしたが、そんな僕のことなどお見通しだったかのように、ローランは僕を抱き上げて門を通った。
ローランと僕を出迎えた執事は、あからさまに不機嫌な顔をした。

「……なにかお坊ちゃまに危害を加えてはいませんよね?」
「誓ってしてない。ちょっとご機嫌斜めだけどな」

といって、僕の髪を弄る。
その手を弾く気も起きなかった。
僕の寝室に向かい、ベッドに寝かせる。
その腕が、手付きが、あまりにも優しく包容力に満ちていて、更にムカついてくる。
なんでコイツはあんなに無神経で強引なのに、こういうとこだけはよく出来てるんだ。
これじゃあ嫌いになりきれないじゃないか。

「もう寝れるか?」
「ん……大丈夫」
「……本当に?」
「いいよ。何もしなくて」

もう早く帰って欲しい。
そうしないとまた、ローランの事勘違いしそうになる。

「熱冷ましに良いやつ作ってやろうか?」
「作る、って……料理、出来るの?」
「簡単なもんだけどな。で、どうだ? 食えそうか?」

そう言われてみると、小腹が空いていた。
軽いものなら口に入るかも。
それに、この男の料理がどれほどのものか知っておきたいし。

「じゃあ……スープ皿一杯分くらいの、軽いもので」
「まかせな」

ローランの大きな手が僕の巻き毛を、くしゃりと撫でる。
ローランが去った後、僕は彼の体温の名残を確かめるように頭に手を置いた。
それから十分、二十分ほど経ったころだろうか。
トマトの香りが僕の鼻をくすぐった。
メイドの開けたドアから、トレーを持ったローランが入って来た。

「……いい匂い。何作ったの?」
「野菜を細かく刻んで潰したトマトと一緒に煮込んだもんだ。体調悪いときはこれ食えば治るぜ」
僕は上体を起こし、ベッドの上で食事をすることにした。
底の深いスープ皿には細かく四角形に刻まれた様々な野菜が、赤いスープの中で煮込まれていた。
酸味のあるトマトの香りと共に、ほのかにスパイスの香りがする。
僕の前世にあったラタトゥイユに似ていた。
僕は勧められるがままに匙を取り、口に運ぶ。
とろりと口の中で野菜が溶ける。
それと同時に様々な野菜のうまみが口の中で広がる。

「美味しい……美味しいよ、これ」
「ふふ。よかった」
「ありがとね、ローラン」

そうお礼を言うと、再びローランは僕に触れた。
食事の邪魔にならないように、その頬を、指で軽く。

(……こいつに何されても、いい気分になっちゃうのは、こいつがαで僕がΩだから? どうしようもなく惹かれる関係だから、そう思っちゃうだけ?)

そんなこと思いながら、僕はただ目の前にある食事を口に運んだ。

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