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十話 目の上のたん瘤 ルージュside
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気怠い体を起こし、ローブを纏ってソファに座る。
そしてわたくしは何度目かわからない溜め息を吐いた。
暇潰しに窓の外を見る。
目の前にはわたくしの望む全てがある。
ブティック、宝飾店、化粧品売り場、豪奢な館……
それなのにわたくしは夜更けの、人のいない時間、人のいない場所にいる。
わたくしはこそこそとしなくちゃいけない。
それはあの人、本家の跡取りである、イライお義兄様のせい。
「……ほんと、イライラするわ」
物心ついたときから、あの人はわたくしを目の敵にしてきた。
「これはしてはいけないよ」「他人にはもっとこうしないと悲しむよ」、といってわたくしの行動を制限してきた。
華美に振る舞ってこそ商会の宣伝にもなるというのに、あの人はそんなこともわからずに「金の使い過ぎだ」なんていう。
爵位を持った本家の人間にそう言われては、わたくしを溺愛して下さるお父様やお母様も従わないといけず「仕方ない、諦めろ」と言う。
だからわたくしはずっと耐えなくてはいけなかった。
ずっとずっとしたくもないことをしないといけなかった。
気に入らない奴に頭を下げたり、『教育』や『娯楽』として使うことが出来なかったり、したくもない勉強をしなければならなかった。
ロザリンド商会で仕事をするようになってからもお義兄様の支配は止まらなかった。
重箱の隅を楊枝でほじくるような細かい事ばかり言ってきて、自由な商売を許さなかった。
そのせいでどれだけのチャンスを逃したことか……
「愛しのハニー。どうしたんだ、暗い顔をして」
シャワー室から戻って来た男娼がわたくしを後ろから抱きしめる。
本当だったら貴族の殿方と遊びたい。そしてわたくしに女として敗北した彼らの婚約者の悔しがっている姿を見たい。
でも、お義兄様の目がある。
わたくしだって、分家という自分の立場を理解している。
本家あってこそ自分の家は成り立っている。それもわかっている。
だから人前ではお義兄様の望む「いい子」として振る舞い、その目を盗んでこうやってこそこそ遊ばないといけないのだ。
わたくしは男娼の腕に縋り付いて、鼻の掛かった声を出す。
「いつものことよ……またお義兄様がいじめるのよ」
「そうか……かわいそうに」
「婚約者に逃げられて、甘やかそうとしたら、またすぐに新しい人に乗り換えて……本当にひどい人」
「わかるよ。ホント、最低だよな」
男娼の無難な受け答えではわたくしの気が晴れない。
最初だってあの人は、どこにでもいるようなお馬鹿なお坊ちゃまだった。
歴史だけが取り柄の伯爵家の一人息子。
いつだって自分が世界の中心で、間抜けで、少し媚びておだてれば何でも言う事を聞いてくれる。
だから都合のいい男だって、そう思ったのに。
(いつかあの人が勝手に破滅して、本家はわたくし達、ロザリンド商会のものになると思ったのに)
それなのに15歳の誕生日から、様子が変だった。
急に知恵を身に着けて、伯爵家を復興させ、領地を豊かにしていった。
それこそ、わたくしたち商会に依存しなくてもいいくらいに。
(いったいイライお義兄様はどこまでわたくしを苛立たせたら気が済むの!?)
わたくしは必死に考える。
今やお義兄様は皇帝陛下すらお認めになるお人だ。
それもそう。陛下の運命の番であるリゼッタ様はお義兄様の元婚約者で、貴族の何たるかを教えた恩人でもある。
要するに彼には破滅させたくても出来ない、信頼という大きな壁がある。
(いいや……あるわ)
自分の言った言葉を思い出す。
そう。あの人は変わった。
βからΩに代わり、彼にフェロモンを当てたというαは身分の分からない傭兵の男だ。
皇帝陛下は注意したけれど、アレを気に入らない貴族は沢山いる。
(あるじゃない……あの人を破滅させる、切り札が)
わたくしはほくそ笑むと、男娼を見上げる。
「ねえ、あなた……お小遣いをあげるから、協力してくれない?」
「なんだい、ハニー?」
「お願い事が、あるの。それはね――」
そしてわたくしは何度目かわからない溜め息を吐いた。
暇潰しに窓の外を見る。
目の前にはわたくしの望む全てがある。
ブティック、宝飾店、化粧品売り場、豪奢な館……
それなのにわたくしは夜更けの、人のいない時間、人のいない場所にいる。
わたくしはこそこそとしなくちゃいけない。
それはあの人、本家の跡取りである、イライお義兄様のせい。
「……ほんと、イライラするわ」
物心ついたときから、あの人はわたくしを目の敵にしてきた。
「これはしてはいけないよ」「他人にはもっとこうしないと悲しむよ」、といってわたくしの行動を制限してきた。
華美に振る舞ってこそ商会の宣伝にもなるというのに、あの人はそんなこともわからずに「金の使い過ぎだ」なんていう。
爵位を持った本家の人間にそう言われては、わたくしを溺愛して下さるお父様やお母様も従わないといけず「仕方ない、諦めろ」と言う。
だからわたくしはずっと耐えなくてはいけなかった。
ずっとずっとしたくもないことをしないといけなかった。
気に入らない奴に頭を下げたり、『教育』や『娯楽』として使うことが出来なかったり、したくもない勉強をしなければならなかった。
ロザリンド商会で仕事をするようになってからもお義兄様の支配は止まらなかった。
重箱の隅を楊枝でほじくるような細かい事ばかり言ってきて、自由な商売を許さなかった。
そのせいでどれだけのチャンスを逃したことか……
「愛しのハニー。どうしたんだ、暗い顔をして」
シャワー室から戻って来た男娼がわたくしを後ろから抱きしめる。
本当だったら貴族の殿方と遊びたい。そしてわたくしに女として敗北した彼らの婚約者の悔しがっている姿を見たい。
でも、お義兄様の目がある。
わたくしだって、分家という自分の立場を理解している。
本家あってこそ自分の家は成り立っている。それもわかっている。
だから人前ではお義兄様の望む「いい子」として振る舞い、その目を盗んでこうやってこそこそ遊ばないといけないのだ。
わたくしは男娼の腕に縋り付いて、鼻の掛かった声を出す。
「いつものことよ……またお義兄様がいじめるのよ」
「そうか……かわいそうに」
「婚約者に逃げられて、甘やかそうとしたら、またすぐに新しい人に乗り換えて……本当にひどい人」
「わかるよ。ホント、最低だよな」
男娼の無難な受け答えではわたくしの気が晴れない。
最初だってあの人は、どこにでもいるようなお馬鹿なお坊ちゃまだった。
歴史だけが取り柄の伯爵家の一人息子。
いつだって自分が世界の中心で、間抜けで、少し媚びておだてれば何でも言う事を聞いてくれる。
だから都合のいい男だって、そう思ったのに。
(いつかあの人が勝手に破滅して、本家はわたくし達、ロザリンド商会のものになると思ったのに)
それなのに15歳の誕生日から、様子が変だった。
急に知恵を身に着けて、伯爵家を復興させ、領地を豊かにしていった。
それこそ、わたくしたち商会に依存しなくてもいいくらいに。
(いったいイライお義兄様はどこまでわたくしを苛立たせたら気が済むの!?)
わたくしは必死に考える。
今やお義兄様は皇帝陛下すらお認めになるお人だ。
それもそう。陛下の運命の番であるリゼッタ様はお義兄様の元婚約者で、貴族の何たるかを教えた恩人でもある。
要するに彼には破滅させたくても出来ない、信頼という大きな壁がある。
(いいや……あるわ)
自分の言った言葉を思い出す。
そう。あの人は変わった。
βからΩに代わり、彼にフェロモンを当てたというαは身分の分からない傭兵の男だ。
皇帝陛下は注意したけれど、アレを気に入らない貴族は沢山いる。
(あるじゃない……あの人を破滅させる、切り札が)
わたくしはほくそ笑むと、男娼を見上げる。
「ねえ、あなた……お小遣いをあげるから、協力してくれない?」
「なんだい、ハニー?」
「お願い事が、あるの。それはね――」
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