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十五話 傷跡に触れる
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もう、皆がローランを見る目に侮蔑はない。
ただ驚きと同情だけがあった。
そんな彼らに、ローランは自嘲するだけだった。
「このような醜い姿を晒したこと、遅ればせながら謝罪したい」
「お前は何故、そこまでして自分の身の潔白を照明したかったのだ?」
ヴァシリの言葉にローランは僕に傷跡を晒しながら、答える。
「愛する者に恥じぬ男でいたい。ただそれだけです」
「……ローラン」
「イライが嘲られ、その名誉に傷がつく。それは断じて許すことが出来ない。だから、この私の恥や汚点を晒すことくらい、安いものなのです」
彼の言葉に、僕の胸がドクンとなった。
自分のあまりに残酷な過去を晒して、今も残る傷跡を見せても、それでも僕を守りたかった。
あの、屈強な男達の頂点にいるローランがだ。
自分たち以外を見下ろして高笑いするのが似合う、あの男が。
僕の為にそこまでしてくれるだなんて。
「……イライ?」
気が付けば、僕はローランの背に抱き着いていた。
その傷を隠すように。
僕とローランの体格差はかなりある。
なので全てを覆い隠すことは出来ない。
それでも僕は、彼に身を預けた。
「ありがとう……でも、いいんだ。こんなこと、しなくても」
涙で声が詰まる。
それでも、背中の温もりを感じながら、僕はローランに伝える。
「これからは、僕がいるから」
義務とか、運命とか、性別とか。
そういう事じゃない。
ただ、目の前の男が、ローランが好きだ。
彼とずっと一緒にいたい。
もう、周りの目は気にならなかった。
ヴァシリから「もういい」と言われるまで、僕はローランの背にしがみ付いていた。
皇帝陛下の声に服を再び纏ったローランは、僕の涙を指ですくった。
彼がそうしてくれたら、もう涙は流れて来なかった。
「先程の罪人の処遇に関しては、私に任せてくれ。もう二度とお前たちに関わらせないと約束しよう」
「陛下……」
「……リゼッタの恩人を傷つけんとしたのだ。ただではおかんさ」
そう告げるヴァシリ皇帝の目は、まさに絶対零度で空間の温度がぐっと下がった。
リゼッタを傷つける者には容赦しない、原作の彼そのままだ。
(相変わらず怖いな……でも、気持ちはわかるかも)
あの恐ろしいヴァシリに対して共感できるようになったのは、僕にも心から愛する人が出来たからだろう。
城を出ると、綺麗な夕日が僕らを迎えていた。
もう、何も心配することは無いだろう。
「イライ。本当に、お前の気持ちは変わらねえんだな?」
ローランが腰を屈めて、僕に尋ねる。
僕は彼の頬を手で包んで答えた。
「やっと言えるね。僕、ローランが好きだよ……意地悪なところも、その強さも、知恵が働くところも、体も、心も、弱さも、傷も、全部ひっくるめて」
それからどちらともなく、唇を重ねた。
「一生、離してやらねえぞ」
「そうしていて。僕はローランただ一人だけのΩだから」
今なら、Ωになった理由がわかる。
傷を背負ったローランを一人にしない為なんだ。
自分の気持ちも、運命も、全てを受け入れた僕は一歩進む。
そして愛する人の腕の中に飛び込んだ。
ただ驚きと同情だけがあった。
そんな彼らに、ローランは自嘲するだけだった。
「このような醜い姿を晒したこと、遅ればせながら謝罪したい」
「お前は何故、そこまでして自分の身の潔白を照明したかったのだ?」
ヴァシリの言葉にローランは僕に傷跡を晒しながら、答える。
「愛する者に恥じぬ男でいたい。ただそれだけです」
「……ローラン」
「イライが嘲られ、その名誉に傷がつく。それは断じて許すことが出来ない。だから、この私の恥や汚点を晒すことくらい、安いものなのです」
彼の言葉に、僕の胸がドクンとなった。
自分のあまりに残酷な過去を晒して、今も残る傷跡を見せても、それでも僕を守りたかった。
あの、屈強な男達の頂点にいるローランがだ。
自分たち以外を見下ろして高笑いするのが似合う、あの男が。
僕の為にそこまでしてくれるだなんて。
「……イライ?」
気が付けば、僕はローランの背に抱き着いていた。
その傷を隠すように。
僕とローランの体格差はかなりある。
なので全てを覆い隠すことは出来ない。
それでも僕は、彼に身を預けた。
「ありがとう……でも、いいんだ。こんなこと、しなくても」
涙で声が詰まる。
それでも、背中の温もりを感じながら、僕はローランに伝える。
「これからは、僕がいるから」
義務とか、運命とか、性別とか。
そういう事じゃない。
ただ、目の前の男が、ローランが好きだ。
彼とずっと一緒にいたい。
もう、周りの目は気にならなかった。
ヴァシリから「もういい」と言われるまで、僕はローランの背にしがみ付いていた。
皇帝陛下の声に服を再び纏ったローランは、僕の涙を指ですくった。
彼がそうしてくれたら、もう涙は流れて来なかった。
「先程の罪人の処遇に関しては、私に任せてくれ。もう二度とお前たちに関わらせないと約束しよう」
「陛下……」
「……リゼッタの恩人を傷つけんとしたのだ。ただではおかんさ」
そう告げるヴァシリ皇帝の目は、まさに絶対零度で空間の温度がぐっと下がった。
リゼッタを傷つける者には容赦しない、原作の彼そのままだ。
(相変わらず怖いな……でも、気持ちはわかるかも)
あの恐ろしいヴァシリに対して共感できるようになったのは、僕にも心から愛する人が出来たからだろう。
城を出ると、綺麗な夕日が僕らを迎えていた。
もう、何も心配することは無いだろう。
「イライ。本当に、お前の気持ちは変わらねえんだな?」
ローランが腰を屈めて、僕に尋ねる。
僕は彼の頬を手で包んで答えた。
「やっと言えるね。僕、ローランが好きだよ……意地悪なところも、その強さも、知恵が働くところも、体も、心も、弱さも、傷も、全部ひっくるめて」
それからどちらともなく、唇を重ねた。
「一生、離してやらねえぞ」
「そうしていて。僕はローランただ一人だけのΩだから」
今なら、Ωになった理由がわかる。
傷を背負ったローランを一人にしない為なんだ。
自分の気持ちも、運命も、全てを受け入れた僕は一歩進む。
そして愛する人の腕の中に飛び込んだ。
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いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
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