悪役令嬢の婚約者~巻き添えくらったΩの僕を救ってくれたのは幼馴染のβでした~

毒島醜女

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二話 華の無いΩ

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断罪劇となった夜会の後、僕が家に帰れたのは翌日の昼だった。
それでも事情聴取はまだまだ続き、二週間ほどかけて僕やスミス家がアンジェラの罪に加担していないかを探られた。
こうして長い時を経て国の皆様に、僕、オリバー・スミスが無実だということを、やっと知ってもらえたというわけだ。
それでも僕の評判には傷がついた。
『婚約者の悪事に気づけなかった愚鈍な伯爵令息』とか『金で買われたせいでアンジェラ嬢に逆らえなかった情けない男』とか。それが今の僕の評判だ。
実際そうだ。
自虐ではなく正直に言ってあまりパッとしない伯爵家の一人息子である僕と、名家と名高かったサーレィ公爵家との結婚との結婚が決まったのは、事情がある。
一つは、我がスミス伯爵家の抱えた借金をサーレィ公爵が代わりに払ってチャラにしてくれたこと。
その条件がアンジェラとの結婚だった。
……今思えば、そうでもしないと結婚相手が見つからなかったのだろう。
我儘で癇癪持ちな子供がそのまま成長したかのようなアンジェラの性格を考えると、そうだとしか思えない。
そして、もう一つの事情。
それは僕がΩであったことだ。
第二の性が発見されて数百年。このグラン王国ではおおよそ50年もの間、Ωが誕生しなかった。
αとβだけの国で、久しぶりに誕生したΩが僕だった。
それが判明した時の周囲の反応はすごかった。
両親は僕を着飾らせ、王族や高位貴族たちの前で披露した。
権力を握る彼らにはαが多いが故に、彼らの目に止まるだろうと思ったのだろう。
αとΩは性別の垣根を越えて子を為せるだけでなく、普通の恋人以上に深い愛情で結ばれる特別な関係だ。
僕にも相応しいαが現れる。そう思ったのだろう。
だが、現実は虚しい結果に終わった。
最初こそ彼らは、50年ぶりに誕生したΩである僕に声をかけてくれたが、次第に興味を失っていった。
元から派手なものを好まず、他者を蹴落としてまで前に出たがらない僕の性格も災いした。
それに、僕のこの顔がいけなかった。
黒髪に、こげ茶の目。醜いというわけではないが、これと言って秀でた部位の無い地味な童顔。
いくら珍しい存在だとしても、そんな僕が目の肥えた上級階級に気にかけてもらえることはなく、彼らが見目麗しい令嬢と戯れる姿を離れた場所で見るしかなかった。
それでも両親は諦めなかったようで、彼らとの交流をする為にかなり無理をしていた。
いつしか怪しい商人から借金をするようになったのだ。
後から聞いた話では、その商人の背後にはサーレィ家がいたそうだ。
地味で爵位もない僕にサーレィ家が目をつけたのは、ひとえに僕という存在が珍しかったからだろう。そうでなければもっと爵位が上の令息を、金にものを言わせて選んだはずだ。
謂わば僕は、珍獣の剥製のような、そういったお飾りの婿として選ばれたのだ。

「……はあ」

ここ数日の疲れから目を閉じる。
嫌でも思い出すのは、アンジェラのことだった。
顔合わせの時、アンジェラは扇で口を隠すこともせず、その薔薇色の目で僕を見下していた。

『まあ、これがあのΩ? こんな華の無い男が婿だなんて……最悪だわ』

腕を組みながらフンと嘲笑う。
その冷たい眼差しに、僕は立場上何も言えなかった。
僕の顔を見る度に、アンジェラは僕を嘲った。

『お父様が肩代わりしてあげたアンタの家の借金って、アンタの両親が上の階級の方々とアンタを結婚させるために作ったんですってねぇ。バッカみたい。アンタみたいなしみったれた顔の男なんて誰が好きになるっていうのよ。それもわからないなんて、スミス家はよっぽどの身の程知らずなのね』

ケラケラと笑うアンジェラに合わせて、彼女の侍女も『お嬢様ったら、本当のことを言ったら可哀そうですよ』と言う。手で覆ってはいても、その歪んだ笑みは隠されていなかった。
それがわざとであることがわからないほど、僕も愚かではなかった。

『これ、明日までにやっておいて。サーレィ家に迎えてあげるんだから、これくらい当然でしょ? 私? これから出かけるんだからそんなことしてる余裕ないわ。アンタみたいなのを連れていったら、恥にしかならないわ。かび臭い部屋の中でじっとしていなさいな。それがアンタにはぴったりよ』

いくつも宝石をつけて、派手なドレスを纏って夜の街に消えていった。
大量の書類を、僕に叩きつけた。
床に落ちた紙を拾う僕を、サーレィ家の使用人は離れた所で見て、嗤っていた。
……今頃彼らは『本来のサーレィ家後継者であるエマ嬢を乗っ取り犯と共に虐げた罪人』として悲惨な末路を迎えているだろう。

「もうよそう……昔のことを考えるのは」

頭を振って、僕は休むことに専念した。
どうにもならない外見や性格、そして第二の性の事を考えたってしょうがない。
一応借金は消えているんだ。
地道に働いて、世間体を回復していくしかない。
いつかは僕に見合った縁談が来るかもしれない。
父は長年の無理が祟って病気がちになって、領地で休んでいる。母はその看病に勤しんでいる。

「僕に出来ることを、一生懸命にやる。それだけだ」

そうだ。
苦難に飲まれているΩを救ってくれるαなど、そんなのは絵物語の中だけだ。
僕のような華の無い、愛される価値の無いΩは、自分だけの力で生きていくしかないんだ。

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