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十四話 絶対に引き離せはしない
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かつての婚約者、遠くの地で刑罰を受けているはずだったアンジェラが刃物を持ってこちらに突進してくる。
その光景に、僕は立ち止まってしまう。
何も出来ない僕の視界を白い壁が覆った。
それは僕の傍らにいたクレイの背中だった。
「クレイ!」
僕とアンジェラの間に立ったクレイを見て、体の体温が冷え、強い焦燥感に襲われる。
その背に縋り付き、すぐにアンジェラから引き離そうとした。
「大丈夫です、オリバー様」
いつも通りの低く穏やかな声に顔を上げる。
彼は振り返り、エメラルドの瞳で僕を見つめていた。
クレイは自分に刺さるギリギリのところでアンジェラの手を掴み、彼女を捕らえていた。
アンジェラの様子を見た瞬間、僕は唖然とした。
ただでさえあのアンジェラだとわからないほど変わり果てた姿だったのに、クレイの前にいる彼女は更に生気を失っていた。
微かに黄色を残していた乾燥した髪は真っ白に荒れ果て、肌は血の気を失ってこの一瞬だけで20年は年を取ったかのようだった。薔薇色の目は白目を剥き、ひび割れた口からは泡が溢れていた。
「ぁ……ぅぁ……」
そう小さく呻くと、アンジェラは仰向けに倒れた。
その彼女の体を兵士たちは縄で拘束して何処かへ連れていく。
ここまでの光景を見て、僕は思い出した。
αが番、つまり自分の伴侶となったΩの危機を感じた時に攻撃フェロモンを放つことがあると。
それを浴びた人間は恐怖のあまり正気を失い、最悪廃人になると言われていた。
……アンジェラはそれをもろに食らってしまったのだろう。
それ以前に彼女は脱走犯だ。
刑罰は更に重いものになるだろう。
そんなことを考えていると、いつの間にかクレイが僕に顔を寄せ、頬に触れる。
「オリバー様、ご心配をおかけしました」
「クレイ……ほんとだよ……君が傷つくんじゃないかって、怖かった」
彼の手を取り、本心を告げる。
本当に不安だったんだ。
やっと手に入れた幸せが消えてしまうんじゃないかって。
まだ心臓がバクバクと鳴って、不安で押し潰されそうだ。
そんな僕を全身で包んでくれたのは、クレイだった。
温かい腕と安心する香りの中、僕はようやく安堵を得ることが出来た。
「大丈夫です。オリバー様。誰も、何も、俺たちを引き裂くことは出来ません」
彼の言葉を聞いて、僕は涙を一筋流し、その背中に腕を回した。
いつしか周囲の歓声が再び湧き、僕らは溢れんばかりの祝福の中で抱き合っていた。
※
僕らを乗せた馬車は郊外の別荘に到着した。
鏡のように澄んだ清らかな湖畔にある、白亜の建物だ。
アレクシアン家の持っている保養所を改築したものでとても居心地がよかった。
「お疲れですか?」
「ううん。平気だよ」
荷物を置き終わり、ひと段落ついた。
クレイは僕の隣に座って体に触れて労わってくれている。
アンジェラの事を気にかけているのだろう。
もう、彼女のことはどうでもよかった。
僕は大丈夫というように彼の手を撫でて宥める。
……今夜、僕はここでクレイに抱かれる。
首を噛まれ、彼と番となる。
覚悟した事なのに胸が躍って落ち付かない。
散々書物で学んだはずなのに、相思相愛のαとそういう事をするとなるとこんなにも緊張するものなのか。
夕飯の時間になったけど、味がしない。
薔薇の花びらを浮かべた風呂に入っていても僕は緊張したままだった。
体を乾かし、乳液を塗られ、爪先から指の先まで整えられる。
「お綺麗ですよ、奥方様」
にこやかに笑うメイドに押され、僕はローブを纏って寝室に向かう。
クレイが待っている、寝室へ。
その光景に、僕は立ち止まってしまう。
何も出来ない僕の視界を白い壁が覆った。
それは僕の傍らにいたクレイの背中だった。
「クレイ!」
僕とアンジェラの間に立ったクレイを見て、体の体温が冷え、強い焦燥感に襲われる。
その背に縋り付き、すぐにアンジェラから引き離そうとした。
「大丈夫です、オリバー様」
いつも通りの低く穏やかな声に顔を上げる。
彼は振り返り、エメラルドの瞳で僕を見つめていた。
クレイは自分に刺さるギリギリのところでアンジェラの手を掴み、彼女を捕らえていた。
アンジェラの様子を見た瞬間、僕は唖然とした。
ただでさえあのアンジェラだとわからないほど変わり果てた姿だったのに、クレイの前にいる彼女は更に生気を失っていた。
微かに黄色を残していた乾燥した髪は真っ白に荒れ果て、肌は血の気を失ってこの一瞬だけで20年は年を取ったかのようだった。薔薇色の目は白目を剥き、ひび割れた口からは泡が溢れていた。
「ぁ……ぅぁ……」
そう小さく呻くと、アンジェラは仰向けに倒れた。
その彼女の体を兵士たちは縄で拘束して何処かへ連れていく。
ここまでの光景を見て、僕は思い出した。
αが番、つまり自分の伴侶となったΩの危機を感じた時に攻撃フェロモンを放つことがあると。
それを浴びた人間は恐怖のあまり正気を失い、最悪廃人になると言われていた。
……アンジェラはそれをもろに食らってしまったのだろう。
それ以前に彼女は脱走犯だ。
刑罰は更に重いものになるだろう。
そんなことを考えていると、いつの間にかクレイが僕に顔を寄せ、頬に触れる。
「オリバー様、ご心配をおかけしました」
「クレイ……ほんとだよ……君が傷つくんじゃないかって、怖かった」
彼の手を取り、本心を告げる。
本当に不安だったんだ。
やっと手に入れた幸せが消えてしまうんじゃないかって。
まだ心臓がバクバクと鳴って、不安で押し潰されそうだ。
そんな僕を全身で包んでくれたのは、クレイだった。
温かい腕と安心する香りの中、僕はようやく安堵を得ることが出来た。
「大丈夫です。オリバー様。誰も、何も、俺たちを引き裂くことは出来ません」
彼の言葉を聞いて、僕は涙を一筋流し、その背中に腕を回した。
いつしか周囲の歓声が再び湧き、僕らは溢れんばかりの祝福の中で抱き合っていた。
※
僕らを乗せた馬車は郊外の別荘に到着した。
鏡のように澄んだ清らかな湖畔にある、白亜の建物だ。
アレクシアン家の持っている保養所を改築したものでとても居心地がよかった。
「お疲れですか?」
「ううん。平気だよ」
荷物を置き終わり、ひと段落ついた。
クレイは僕の隣に座って体に触れて労わってくれている。
アンジェラの事を気にかけているのだろう。
もう、彼女のことはどうでもよかった。
僕は大丈夫というように彼の手を撫でて宥める。
……今夜、僕はここでクレイに抱かれる。
首を噛まれ、彼と番となる。
覚悟した事なのに胸が躍って落ち付かない。
散々書物で学んだはずなのに、相思相愛のαとそういう事をするとなるとこんなにも緊張するものなのか。
夕飯の時間になったけど、味がしない。
薔薇の花びらを浮かべた風呂に入っていても僕は緊張したままだった。
体を乾かし、乳液を塗られ、爪先から指の先まで整えられる。
「お綺麗ですよ、奥方様」
にこやかに笑うメイドに押され、僕はローブを纏って寝室に向かう。
クレイが待っている、寝室へ。
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