転生したらハムハムすることに夢中です。

さこ助

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成長期の二人

お説教タイム

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「お嬢様!どうしてお召し物が着崩れているのですか!何があったのですか!?」

「えっとえっと、走り回って枝に引っかかってしまって…」

「まぁ!お嬢様ってば!とりあえずこちらへ!」

「はーい」


 家の中では基本的にいい子にしてるラティファナとしては、侍女に大きな声を出させることはほとんど無かった。なのに今日は凄い形相に大きなお声ですこと。
 自分が置かれてる立場なのに、そんなことはそっぽを向いてやる。

 確かに首元のボタンがなかなかうまく止められないまま猛ダッシュで邸まで走ってきた。おかげさまでボタンは掛け違えているわ、スカートは草木に当たって薄汚れているわ、オマケに毎朝侍女様に整えてもらってる美しい髪型もボロボロ。
 言い訳もすぐさま出てくるほど頭の中ではいろんな言葉を考えながら走ってきた。


「お嬢様、旦那様と奥様がお呼びです」

「はーい」


 髪を結わえてもらい終わったあたりで他の侍女から声が掛かった。



(あー嫌な予感しかないよーあー怖いー)


 涼しげな顔で返事をしたのはいいけれど頭はパニック。パパ様とママ様にはなんで言い訳がいいのか…考えても先ほど練り上げたものが一番かと思い、他の考えを巡らせるのをやめることにした。



(だってきっとその場限りの言葉なんてまたボロが出るに決まってる)



 今までの数ヶ月で自分はパニックになりやすく、そして先ほどのラニエルの言葉から前世の言葉をポロリと出してしまっていることがわかった。



(怒られたくないなぁ)

(あれ?そもそもわたしってそんなに悪いことしてなくない?だって元気に走り回ってただけだし、ママ様はけっこう寛容だし!)



「今回のラティは淑女としての行動としてはどう思いますか?」



 ママ様的にもアウトだった模様。
 これはもしかして、結構長くなる?まじかぁ…ただハムリングしてちょっと過剰に攻撃されて、逃げ出して直すのが下手で着崩れてきちゃっただけなのになぁ。

 うん、基本的にはハムリングがアウトかな?あーこれは言ってはいけない事項ですので、さてさてどう言い訳をしたものか。



「淑女としてははしたなくダッシュをし、走り回って遊んで来てしまいました」

「そうですね?ですがママ様はそこを咎めてるのではありません」

「(え?他にどこ)では何についてですか?」

「自分でボタンもかけることができないなんて…そして走り回ったからと言ってドレスをあのように汚してくるなど」

「ん?どういうことですの?」

「淑女たるものどのような行動を起こした時も所作は美しく!どんなに走り回ろうとも汗をかいていけません、美しくダッシュを終えなくてはいけません」



(え!なんか違くない?)



「ミレンダ…それはなんかちょっと違うんじゃないかな?」



(これはちょっとパパ様に加担しようかなぁってくらいにママ様の言葉は意味がわからんぞ?)



「旦那様は黙っていてくださいな」

「ーー!っ」


 キッと最愛の妻に睨まれたクライエル伯爵は頬そっと染め、パッと床の方へと目線を下げた。



(おい!パパ様!お前妙な扉を妻に開けてる場合じゃないぞ!お前の妻が微妙に変なことを娘に言い始めたぞ!)



 とりあえずパパ様に非難と悲劇と哀愁の目を送っておくことにする。助けようとするならちゃんと最後まで助けてほしい。説教くらってるはずなのに、今回はなぜだか頭の中はクリーンだ。
 でもこの説教って本当に説教?捉え方によってはわたしを肯定してくれてるようにも感じるわ。でも肯定してたらそもそも説教にならなくない?


「ラティちゃんと聴いているのですか」

「はい、聴いておりますわ」

「淑女教育がまた不安のまま6歳の誕生日を迎えることがあってはいけません」

「はい、その頃は完璧にーー」

「これから2ヶ月は徹底的に淑女というものを叩き込みます!朝起きてから寝るまでの間ずっと貴女に侍女のカインを付けます。監視をしてもらい逐一報告をしてもらうことにします」

「え!そしたらあの森へは」

「別に行っても構いませんわ。貴女があそこに行くためにお勉強を頑張っていることは、ちゃんとママ様は存じておりますわよ」

「でも、その、カインが付いてくるのですね…」

「勿論ですわ、どこへ行こうとも何をする時でも、カインを付けさせていただきます」



(これは当分ハムハムは封印だわ…辛い…)



 まさかのタイミングではあるけれど、でも今回のラニエルの行動を冷静に逃げ切ることができるなら、まぁ行動の制限など可愛いものなのかもしれない。

 そしてこの日から侍女のカインがわたしのそばに常にいるようになった。


「お嬢様、侍女長ミネルの娘カインと申します。以後お嬢様のお側につかえさせていただきます。どうぞ何なりとお申し付けください」


 わたしより少しだけお姉さんな見た目のカインが、深々と腰を降り挨拶に来た。髪は後ろで一つに結ばれ毛先はクルンと可愛く巻かれている。ストレートなポニーテールに毛先クルン。そして猫目がちの二重つり目の可愛らしい女の子だ。
 まだ人間としての癖がついていないのか、人生揉まれまくったアラフォーのおばちゃんにはキラキラした彼女の視線が少し痛く感じた。


「ラティファナと申します。あと少しで6歳になります。それまで淑女になるために努力してまいりますので、よろしくお願いしますね」

「まぁ!私めの為にご紹介ありがとうございます。昨日さくじつ侍女見習いを終え、侍女になりたての12歳でございます。未熟者ですがよろしくお願い致します」



(12歳!え!12歳!?)



「え!だって身長そんなに変わらないわ!」

「ふふふっお嬢様がお年の割には少しだけ成長が早いのですわ、決して私が小さめと言うわけではございません」



(まじかぁーー、15センチくらいしかかわらないよー?もしかしたらもっと?)



 わたしはどうやらこの国では巨大な子供のようだ…。これもしかした、6歳でお披露目になってお嬢様同士の繋がりができたら、もしかしていじめられたりするんじゃないの?え、不安になってきた。
 基本的に普通と違うものを子供は仲間外れにするものだ。



(え?詰んでる?)



 そして、ラニエルから痴女だというのがいつしか漏れて、そしてそして、伯爵令嬢というちょうどいい役職なのにもかかわらず婚約者にも恵まれず…


「つんだ…」

「ツンダ…?」

「カイン、お嬢様は時より思考の迷路へ旅立たれますので、温かく見守ってあげなさいね。それと想像よりも更に突飛な行動を起こしてしまいますので注意してくださね」

「あ、畏まりました!」


 わたしが言葉通り迷路へと迷い込んでいる間、ふんわり優しそうな猫目のカイン姉さん…先輩侍女にわたしの取り扱いを聞いて元気よく返事をしていた。
 生温かい目線が少し痛く感じながら少しの間迷子を続けるのでした。
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