転生したらハムハムすることに夢中です。

さこ助

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ハムハム楽しむ日々

大人の階段登る小さな紳士

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 前世の記憶が確かならば、自分の経験値としてはまぁまぁあったような気がする。
 伊達に30年生きてたわけではなくて、すいもあまいも経験してきたように感じる。
 だがしかし、その経験の中でも、ショタを相手にしてハァハァ言っていた記憶は、当然ながら皆無である。

 倉木として生きていた時にはいたって普通に、ロリもショタも犯罪だ。という認識で生きていたはずだし、自分の恋愛対象だって年相応の男性だったはずだ。
 たしかにオタクで、たくさん薄い本も読み漁っていたし、というより自分の部屋なんてそんな蔵書でいっぱいだった。

 こんな風に昔話を頭の中で思い出していなければ、今自分が置かれている立場に恐れをなして叫びそうになる。
 いや、むしろ叫んでいいのではないか?だって、紳士こいつ今何をしようとしている?


「エル…何をっ」

「やっぱりおまじないはこの辺りにやるのが一番効果的ですから」



(この辺りって言われても、鎖骨って…なんだか…怪しくない?)



 おまじないセクハラを散々してきたわたしには「いや、それはセクハラです!」とは言えなくて、しかも「そんな所に顔を埋めるものじゃない!」とも言えない。
 自分が今までやってきたことが、まさか己に帰ってくるなんて、思っても見なかった訳でしてーー


「待って!待って!」

「僕が少しイタズラをしたらラティは、いつもここにしてきたじゃないですか。お返しですよ」

「ーーーーっ!」



(でもね!だからってね!それでもね!?)



「待ってエル!エルッ」



 プチプチと首のボタンが外されている。音なんか出てるはずがないのに、羞恥心でそんな音まで聞こえている気がする。


「ラティの肌はとっても綺麗ですね」



(っーーいきなり誉め殺しかよ)


ーーハムッ


「あっ」


ーーちゅぅ


「待てって…」

「ラティかわいい」

「待てと、わたしは、待てと…」

「僕のように気を楽にして」


 卑猥です。この紳士だったはずの7歳児卑猥です!わたしは再三待てと言いましたよね?言ったよね?
 これは実力行使したって文句言えないよね?てか、ほんと、お前!!



「待てと言っているダローーガーー!」



ーーパンッ!
















 暑くも寒くもない、雲が薄く見える青空の下。木々はいつものように光を浴びて、妖精が囁いているかのようにゆらゆらと綺麗に揺れる。
 さっきまで騒がしく逢瀬をしていた若者二人が、一つの音が鳴った後、静かに息だけの音を奏でる。
 木々に止まる小鳥や動物たちの影はなく、本当に二人っきりの森の中。


「わたしは!ちゃんと止めてくださいと言ったよね!やめろと言われたことはちゃんとやめなさいよ!」

「ーー」

「わかったの!?返事はどうした返事は!」

「はいっ!」


 頬に赤くもみじ型をつけたラニエルは、先程わたしが平手打ちした意味を分かっているのかいないのか。
 目をまん丸にして、薄っすらと涙の膜を張っていて。ビックリしたのと痛かったのと、そんなしかめっ面をしてるようなのだけれど。何故だろう、心なしか少しうっとりとしているようにも感じる。



(おい、お前はドMなのか)



 今まで散々な目に合わせておいて、自分がやられる番になった瞬間に手のひらを返したラティファナ。
 致し方ないのです。だってわたし5歳児だし?そろそろ6歳になろうとしているけど、それでもまだまだ幼児だし?
 都合が悪くなれば泣いて嫌がるのは、これはもう子供の特権でしょう?



(それにしても、本当にMっ気があるわけじゃないよね?)



「ラティは不思議ですね、令嬢であるはずなのに、時々聞いたことないような口調で話し始めますね。どこで覚えてきたんですか?」

「ん?」

「さっきも少し取り乱した時に、なんでしたっけ…マジ、とかコワ?とか意味が少しわからない言葉がありました」

「んん?」

「砕けた口調のラティも魅力的でいいのですね。僕はできたらラティとは砕けた口調で話せたらと思っていました」

「え?」



(ーーんっと、どういう事?砕けた?)



 パニックになってる時は元が三十路越えだろうがなんだろうが、一庶民として生きてきた長い年月の感覚が優ってしまって、取り繕うということを忘れてしまっていたという。
 それに今ままで気がつかず、むしろラニエルはさっきからそれを指摘してくれたり、好ましく思うとも言ってくれてたり。



(気がつかなかった…どうしよう、仮にも侯爵様の御嫡男様に…)



「え?打ち首?」

「何がですか?」

「わたし…エルに対して失礼な口をきいたから」

「ふっ!どうしてそうなんですか!ふふっあはははっ!」



 エルは突然、あはははっと声を出して、貴族子息としてははしたない行為とされている、口を大きく開けて笑っていた。


「だって!だって侯爵様にタメ口をきいたのと同じ事でしょ?」

「ふふっまたラティは、タメ口とはなんですか?ラティの側にいると勉強にもなるし楽しいしで、誰が打ち首になんてさせるもんですか」


 よくわからない、わたし今の状況とてもわからない!
 ヘルプ!タメ口って言わないの!?どうしよう、言葉遣いとかどうしよう、あれでもそうじゃなくて、それはいいって言われてて…あれ?何がダメで何が良くて?わたしは何を考えなきゃいけなかったんだっけ?


「エル…わたしわからない」

「何がわからないんですか?」

「この状況が」

「んー、簡単に言うと僕がラティの側にずっといたいっていうことをですよ」



(え?ちがくね?)



 ニッコリとキラッキラの笑顔で微笑まれたけど、ちょいとなんか違くないですか?
 お、逆にちょっと冷静になれたぞ。

 パニックになった時に言葉遣いが乱れてしまって、で、それは結構前からであって。そして時々前世の言葉を使ってラニエルは不思議に思っていたと。
 でも、目上の貴族様に対して失礼な言葉遣いで打ち首になったりしちゃったり?と考えたけど、ラニエルがそうはさせないと言ってくれている。
 そして勉強になるし楽しいし、で私のそばにいたい、と。


「え?プロポーズ?」

「あ、じゃあそういうことで」

「え?」

「では、ラティファナ嬢。どうか僕と将来結婚してください」

「ええええぇーーーー!!?」



 ラティファナ・クライエル5歳と10ヶ月。頭の混乱思考大渋滞まで後数秒。

 

ーーくちゅり、ちゅうっ

「あっん!何を!」

「ですから、おまじないを約束の印としてここに」



(お前は誰だ!紳士はどこに行った!なんでそうなった!)



「ふふっ」

ーーじゅぅっ

「あっイっ」

「これでラティは僕のものですね」



 にこやかに微笑む天使が目の前にいる。そう、目の前に見えるのは確かに天使のはずなのに…。



(卑猥すぎる!あ、あ、あ、)



「アフトーーーーーー!!」


 私は全身全霊であの言葉を再び口にしてラニエルから逃げるように邸のある方へと走り出した。



(ダメダメダメダメ!今のままだと思考がこんがらがって!)



「作戦会議ジャーーーー!」



 脱兎のごとく。私は息継ぎを忘れるほどに、森から抜けることを考えて走って彼から逃げるのであった。
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