余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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実感しながら 2

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キリウが馬車を出してくると再度戻った少し後、今度はリグリアーノが訪れた。

スーランは魔力薬を持ってきてくれたお礼を改めて伝えると、「…俺は何も知らされていなかった」とこちらも不貞腐れながら言ってきたので、元よりガブリアルノとギュスター以外は知らなかったことを伝えても彼のご機嫌は治らない。

更には「あんたが吐血した光景はトラウマになりそう」とか言ってくるので、それ以前に人体実験で何度も目にしているだろと返すと、そうじゃないとばかりに溜息を吐きながら肩を落とされた。

珍しく落ち込む様子に、この人もハグが必要かなと近づくと度量の狭い可愛い伴侶が「許さん」とぼやくので、仕方なく背の高いリグリアーノに背伸びをしながら頭を撫でてあげた。そっぽを向きながらも耳がほんのり赤かったので、これで大丈夫だろう。

そして去り際にリグリアーノがこっそりと耳元で囁いてきた。


「鷹族はね、普段は物事を冷静に見抜き洞察力がずば抜けて状況把握に長けている。だけど苦しい試練を乗り越えた後は人が変わったようになって迅速な行動で周囲から囲み確実に捕らえて己のものだと主張する習性がある。まあ頑張って」


そんなことを言われたが、既にもうある程度表に出ていて現実になりつつあるのでスーランは取り敢えず頷いておいた。



キリウが屋敷から持ってきてくれた服に着替え終わった頃、ガブリアルノがギュスターと共に訪れ、入ってきた早々に両手を広げてきたので、今回は一緒に秘め事を突き通してくれたから労いかなと思いながら、とてとてと歩いて向かう最中「三秒だ」とまたもや狭量の伴侶の声が聞こえた。

三秒三秒とふわりと包容するとふわりと抱き上げられた。


「…おい」
「まあまあ。滅多にないことなんだから今日くらい良いじゃない」


そう言いながら麗しいご尊顔をスーランに向けてくる。

いつかの憂いのある痩せ細ったガブリアルノはもう居ない。

凄惨な過去を乗り越え持ち堪えた一角獣の王様に、口には出さないがいつの日か心が癒せる相手が現れれば良いのにと思わずにはいられない。

スーランは何となく願掛けの如くさらりと、国王陛下の頭を撫でた。

ガブリアルノは目を丸くしながら微笑み、案の定すぐ後ろにいた小煩い宰相からお小言が入る。


「…貴方という人は全く。…今回だけですよ」
「ん?今回だけ…宰相も頭撫でて欲しいんですか?」
「ご冗談を」
「…?じゃあ抱っこしたいんですかね」


軽くやる?な感じで手を差し出してみると、「ご冗談を」と即座に返された。


「ぶふっ。君たちは相変わらずだね。…でもギュスターもそれは滅多にないくらい眉を顰めて目元を覆っていたんだよ」
「それはそれは。ツンデレってやつですね」
「黙りなさい」


いつも通りの会話にガブリアルノが顎を上げて笑う。そして我慢の限界がきたらしいバウデンがすっとスーランを取り上げた。


「おや。バウデンがこんなに風に変わるとは」
「ですよね。微妙に驚いています。でもそれも可愛いんで有りですね」
「あはは!そんなことを言えるのはスーランだけだよ」


そんな話をしている間にもバウデンはスーランを子供抱っこして首に手を回させて肩に頭をこてんと倒させていた。

流石のギュスターもバウデンの行動に瞠目するという珍しい姿が見られたが、当のバウデンは全くと言っていい程歯牙にもかけていない。

ここまで人は変わるものなのだなと不思議な感覚だ。


「バウデン。もう屋敷には戻れそうかい?」
「ああ。先ほどキリウが来て準備が出来次第迎えが来る」
「そっか。有休は許可したからゆっくりしてね。残党の処理は任せておいて」
「頼んだ」
「さて―――――――、バウデン・ホークル魔術隊統括総帥、並びに治療魔術師スーラン」


ガブリアルノの声音が『国王』に変わる。


「此度は懸念していた件において最悪な状況は抑えられたが、その分二人に多大な被害を被らせたこと誠に遺憾である。しかしそれを経て互いが番だと認知でき命を繋げたこと、心より喜ばしく思う。おめでとう、末永く幸せにな」
「国宝命繋ぎの剣の許可を下さり心より感謝申し上げます」
「…ありがとう、ございます」


バウデンはしっかりと向き合い臣下の挨拶をしたのだが、スーランは子供抱っこ状態のままだ。どう頑張っても格好がつかず、ぺこりと頭を下げることしか出来なかった。





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