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元クズ同士尋常に勝負 終
しおりを挟む以前二人が出逢った―――初めて対面した時は些か物々しい雰囲気で共に異名を轟かした猛者同士存分に牽制し合っていたが、今の二人には番絆の独特の香り、そして幸せだと誰もが分かるような…とても穏やかな匂いで満たされている。
そしてシュナの表情には虚ろなものがもうどこを見ても表れていなかった。
時折酒を飲んだ時の呟きも、それに併せた年齢以上に悟った表情も今では年相応に全てが変わっている。
それが目の前のチャラついた―――実際は雌を見下していたイアンによってシュナだけでなく彼も同時に救われたのだ。
エリックからある程度は聞いていたが、こうしてデュークの元にわざわざ顔を出してくれた。
エリック同様デュークにとっても大切な妹分だ。
「ギムレットとネグローニ」
コースターの上に置いて提供した時。
すぐ近くに丸みを帯びた瓶が置かれていた。
「デューク。やっと出来た」
「やっと?」
僅かに首を傾げ聞き返すとシュナの表情がパッと綻ぶ。
「そ。前からずっと探してはいたけど、これだってものがずっと見つからなくて。良く行く花屋の孫の男の子がね。果物の卸売の人と仲良くなったらしくて、最近質の良いマンダリンを仕入れてくれたんだ。それが私には大当たり」
そう言ってシュナが瓶をすっとデューク側に押し出してきた。
「ずっとデューク専用を作りたかったんだ。マンダリンの甘めの柑橘の香りとレモンマートルの酸味が強いさっぱりな香りを合わせてみた。もし合うなら使ってみて欲しくて」
「…俺専用の香油、か」
「うん。これはデュークだけ」
「妬けるんだけどねぇ。色々世話になったからこれだけは我慢するー」
最近暴走したイアンが何か言っているが、デュークはその瓶を持ち上げシュポンッと蓋を開けて鼻を近づける。
マンダリンの甘みのある香りと後から香るさっぱりとしたレモンの爽快さが、上手く混ざり合ってくどくない香りに仕上がっている。
「…良いな」
「本当?やった!これはお試しだから、もし気に入ったら次回から買ってね。デュークの髪だと三滴くらいで十分だよ」
「あるだけ買おう」
「マジで?儲かってうはうはだー」
「ちょっとー家の分を一気に返さないでよねー」
「ふふ。わかってるよ」
二人の会話は以前のようなお互いを牽制し合うような空気がなく自然だ。
重いトラウマを抱え、イアンと共に乗り越え自ら幸福を勝ち取った幼顔の猛者であるシュナにデュークは『兄』として本当に誇らしい。
「二人の異名は返上するんだろうが周りはどうだろうな」
「んーまあ私は顔が変わるけどイアンはねぇ…」
「でも髪色は変わらないから下ろしてここに来てればそのうちバレるかな?」
「別に大体対応出来るからどうでも良いかなー」
イアンを唯一と決めたシュナは烏合の衆の言葉や嫌がらせなど余裕で躱せるだろう。そしてそれはイアンも同等だ。
「そんなイアンも悪女を嫁にした、許せないってきぃきぃ言われたら?」
「あはは。あの有名な『悪女リア』を仕留めた僕凄いでしょって言うだけ」
その言葉にシュナが目を丸くしてにっこりと――――化粧をせずとも妖艶に微笑んだ。
「…なるほど。私も『正統派クズ』を根底から覆した猛者として讃えられるかもよ?」
「どうかなー僕に囚われたって思われるんじゃない?」
イアンも巷で落ちない雌は居ないんじゃないかと言われている甘い微笑みでシュナを見返している。
「そうとも限らないよ――――また根っこから喰われたいの?」
「うん?」
デュークは内心溜息を吐いた。
幸せな筈の二人の間に以前と同じような殺伐とした空気が漂う。
「喰われるのはいつもシュナでしょ?」
「どうかなーその驕りが喰われる要因になるかも…ねぇ?」
「へえ…言うねぇ」
イアンがゆっくりとシュナのバターブロンドに触れる。
「なら試してみるかい?」
「ふふ…強者同士?」
「うん。尋常に」
「「勝負」」
そして二人が同時にデュークを見た。
デュークはこれみよがしに溜息を吐き、手を奥のカウンターに振った。
シュナが立ち上がり硬貨を置く。イアンもそれに続き「相変わらず律儀だなー」と自分の分の硬貨を置いた。
手を繋いだ二人がカウンター奥の階段を昇る音を耳にしながら、デュークは滅多に動かさない口元を思わず僅かに緩め、マンダリンベースの香油にもう一度顔を近づけた。
【これにて完結となります。訪問&閲覧ありがとうございました。近況報告にてぼやきとコメント欄を限定開放してます】
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