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番外編:異名の弊害も尋常に 3
しおりを挟むイアンが出かけた後、シュナは温かい陽射しを浴びながら花壇の水やりを終える。
今庭に植えられているのはアネモネとラナンキュラスにパンジーとビオラ。精製用にラベンダーとイランイラン、フリージアにティーツリーだ。
周りはまだ半分以上何も植えられていない花壇があり、増築する予定はない。今はまだポックが作ってくれた花壇で十分なので花をゆっくりと愛でて楽しみたい。
そのうち精製に使用する果実なども植えていければ家の周りはシュナの好きな花や木々でいっぱいになる。
一通り目と香りで楽しんだシュナは奥の小屋から戻ってきたターニャに目を向けた。
「ターニャ、食べれそうだって?」
「当然です。シュナ様、毎度差し入れしなくても…」
「私の罪悪感を押し付けているだけだから。もし要らないって言われたらターニャが食べて」
奥の小屋はイアンがシュナを守る為に伯爵家の暗部を待機させている。日中イアンが居ない時には誰かしら居てくれているらしいが一度も会ったことはない。
「一度くらいいつもありがとうって挨拶しておきたいんだけどね」
「いけません。私と待機している者が報復されます」
「あはは。言い過ぎ言い過ぎ」
「……紛うことなき本気です、あれは」
会う必要はないからねと微笑んだイアンの橙色の瞳は全く笑ってなかったので、シュナは無理に会おうとは思っていない。だからこその差し入れなのである。
他にも仕事があるだろうに申し訳ないという気持ちからせめてと差し入れと称して自分の心の安寧の為にしているに過ぎないのだ。
「さて、昼まで精製するかなー…その前にターニャを愛でようっと」
「っ、今からですか?」
「勿論勿論。さ、今日はティーツリーの新作ー」
シュナはターニャの背中を押しながら家の中に入っていった。
****************
「私専用の石鹸も作って。香油と同じ香りっていける?」
「やってみないと何とも。同じように香らないと納得いかないからなー」
精製に集中していたら昼を過ぎてしまい、シュナは急いでエリックの営む薬屋に向かった。
いつもの髪の香油数種類とお試しちび石鹸を渡すと鼻に近づけて香りを嗅いでいたエリックがそんなことを尋ねてきた。
「何度も挑戦出来るように木があれば良いんだけどなー」
「流石にあれだけでかい木は植えられないわね」
「ふふ。育ち過ぎて家全体陰ったら大変」
「確かにね。シュナはこだわって作るから」
エリックが口元を僅かに緩めてよしよしと頭を撫でてくれる。
エリックに触れられると心が穏やかになる。家族というものはこういう気持ちで満たされるのだろうかとほっこり温かくなる。
「せっかくのオーダーだから頑張ってみる。デュークもマンダリンの石鹸欲しがるかな」
「かもね。あいつ専用の香油かなり気に入っているみたいだから」
「本当?良かったーシュッとしてしれっとしているデュークにはあれが一番」
「くく…なにそれ」
「諸々無臭を使ってそうなイメージを勝手に持ってた」
「あーなるほど。確かに他の仕事の時はそうかもね」
シュナはエリックやデュークの『他の仕事』を知らない。
ただイアンと懇意にしていることや、あの時の現場に居たことからそれなりに危険であったりシュナが想像出来ないような大変な仕事をしているのだろう。
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