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道具開始 3
しおりを挟む六時間を過ぎる頃には少し症状が和らいでいて、再度薬を飲んで記録する。半刻過ぎる頃には始めよりも症状が重くなり喉を擦りながら段階を数字で書き記録していく。
訪れたヘレンから「体調は問題ないですか?」と聞かれ喉だけに違和感があると伝え、バロアス国の本を受け取った時に尋ねる。
「六時間毎と言われたので見逃さないように時間を伝えられるものはありますか?」
「…目覚まし時計でしょうか」
「それを用意してもらうことは出来ますか?」
「はい」
ウルスナはお礼を言って始めより痛みが増す記録をメモに書いていく。ヘレンはそれを少し見ていたが「ではまた明日参ります」と声をかけ出て行った。
夕食は喉の痛みで何も摂れなかったが、水分だけを何とか飲みこんで時間通りに薬を飲む。
夜中あたりに息をするにも喉が痛くなるくらいだったが、都度それを記録しながら痛みを十段階でも三くらいだなと思いながら記し、ウルスナは寝台に上半身を乗せてヒューヒューと喉を鳴らしながら眠りについた。
目が覚めると喉だけでなく倦怠感も出ていた。それを記録してから時間通りに喉の痛みに耐えながら何とか錠剤を飲み込む。
昼頃になると倦怠感と関節まで痛み出し少し熱も出ているようだ。それを記録している時にヘレンが訪れ「…食事全く減っていませんが」と言われ、喉に通らず何とか水分は摂れているから、食事は勿体ないので要らないと枯れた声で伝えると溜息を吐きながら「わかりました」と出て行った。
その日の夕方には栄養ドリンクを持ってきてくれたヘレンにウルスナはお礼を言い、薬の前に飲ませてもらった。「湯を浴びてください。手伝いますか?」と言われ、大丈夫だと断りヘレンが帰った後にふらふらしながら湯を何とか浴びると、さっぱりどころか症状が更に酷くなりそれもちゃんと記録した。
(体調が悪い時に湯を浴びることは逆効果にもなるんだ)
他人事のようにぼーっとしながら少し歪む文字を目を細めながら何とか記録をする。
流石にちょっときついなと寝台に上半身を乗っけて、乾くと余計痛む喉を極限まで追い込んで記録してから水分で少しだけ喉を潤した。
(明日来るって言っていた…これで少しは使える道具だと思ってくれますように…)
そんなことを思いながら酷使した体からふっと力が抜けるようにウルスナは意識を失っていった。
翌朝早く鳴った目覚ましにハッと目が覚めたウルスナは咳払いをすると、殆ど声が出ない状態になってしまっていた。
これではリノが来た時に何も聞けないではないか。
(ちょっと私の喉弱すぎる。ちゃんと役に立ってくれないと…要らないって捨てられてしまうかもしれない)
喋られなくても何とかならないかと思ったウルスナはふらふらする体を無理矢理動かしながら、朝の分の薬を飲む。何とか声を出してみようとしたが嗄れた掠れ声しか出ずにまるで老婆の囁くような声である。
あまりに酷い声に思わず噴き出してしまう。
それにつられて咳き込んでしまうが、何とか記録以外に伝えたいことをメモに書き記しヒューヒュー喉をならしながら纏めた。
昼過ぎに扉がノックされリノが訪れた。
「記録」
手を差し出したリノにウルスナは数枚の紙を渡した。
「は?二日でこの量?」
その言葉に少なかったかとウルスナはサッと血の気が引く。急いでメモに書いて『少なかったですか』と書いて渡すとリノが何故か訝しげな顔になった。
何だろうと首を傾げると「何で普通に喋らないの」と言われたので喉を指して首を横に振った。
「…喋れないのか?」
それに一つ頷いたウルスナは声が出なくなった時間帯を渡したメモを覗いて指を指した。
「記録…少なくない、ってより多過ぎる」
そう言われたウルスナは多過ぎることが逆に不味いのかと慌ててメモに書き『もう少し時間をください。言葉を学んでちゃんとまとめられるように頑張ります』と書いたメモを渡すとリノは何とも言えない表情をする。
これでもだめなのかとウルスナは困ってしまい立ち尽くしてしまった。
(やっぱり使えない、のかな…私はどこでも――――)
思わず顔を俯けてしまった時頭上から「これ次の」と声が聞こえ顔を上げる。
「二日後」
それを聞いたウルスナはパッと表情を明るくして受け取りながらすぐにメモを書いて見せる。
『今の症状のまま飲んで良いのですか?それとも治まってからですか』
その言葉にリノは「好きにすれば」とだけ言い出て行った。
ウルスナはまだ次があるのだと内心喜びながら、今度はくすんだ緑色の錠剤を飲み時間を記録した。
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