貴方の道具として頑張ります

きるる

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甦る音色 3

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真似事だけしかしていなかったが、まだちゃんと鍵盤を押せて音を鳴らせている。 


(…大袈裟かもしれないけど、もし道具として使えなくて明日からどこかに売られたとしても、今こうしてもう一度ピアノを弾けている…道具になった意味は十分にあった)


更に我儘を言うのならば。

ウルスナは膝に置いたままの右手に力を込める。


(両手で弾けるようになれば、…もう未来がどんなものになったとしても、きっと私は何でも我慢出来る)


そう思ってしまうほど、ウルスナにとってピアノとの繋がりを断たれたことはとても辛かったのだと耳に響く音が流れる度に思い知ってしまう。


(鍵盤が重く感じるけど、それでも真似事で弾いていたことが、役に立っている)


目を閉じて鍵盤を想像しながら毎日弾く真似をしてきた年数は無駄では無かった。

メロディの一節を弾き終えたウルスナはうっとりと目を閉じて最後の音を奏でた指を離した。


「……ありがとうございます。物凄く…嬉しいです」


万感の想いでお礼を言うと、少ししてからマーギルが返してきた。


「――いや、何だろうね。ウルスナさんの弾き方…メロディだけなのに何だか、とても惹き込まれるような音色だ…」


マーギルの言葉にウルスナは耳汚しにならなくて良かったとホッとしていると、彼が続けて話す。


「でも何故両手で弾かないのかな?どうせなら両手で好きなだけ弾いても良いんだよ」


その言葉にウルスナはゆっくりと瞬きする。


「…残念ですが、昔右手を怪我してしまって」


そう言いながらずっと膝に置いていた右手を上げて、マーギルに歪な形の人差し指部分を見せる。


「っ…、人差し指、か…」
「はい。神経も痛めてしまったようで、殆ど動かないんです」


目の前の美しい音色を奏でるピアノを両手で弾いてみたかった。


「…軽率な発言をすまない」
「いえ、左手だけでも久しぶりに弾けて…本当に嬉しかったんです」


口元がひくつく。両手で弾けないのは残念だが、それ以上にピアノに触れられたことへの嬉しさが勝る。


「私、隣国から来たのですが――――今、…雇われている、仕事、をとても頑張って役に立てたら、もしかしたら右手が治る可能性も、あるかもしれないんです。その為に道―――頑張ります」


ウルスナは目の前のピアノに「弾かせてくれてありがとう」とお礼を言って立ち上がりマーギルに向き直る。


「本当に…ありがとうございました」


ウルスナはお礼を言いながら頭を下げた。


「…このピアノもウルスナさんの弾く音に融合するような美しい音色を奏でていた。とても音楽を好きだという気持ちで弾いてもらえて喜んでいるのではないだろうか。楽器もそういう風に応えるものだと儂は思っているのだよ」


そう言ってにこりと微笑むマーギルにウルスナはとても心が温かくなる。


「そうそう。楽譜も見たいのだったね?」
「…あ」


そうだったとウルスナは目の前に見えたピアノに気を取られすぎていてすっかり楽譜の存在を忘れてしまっていた。

更にはリノから硬貨を渡されて出てきたは良いが、楽譜自体が一体幾らするかも調べずに出てきてしまったのだ。


「ふはは。久しぶりのピアノとの対面で忘れてしまっていたかい?」
「は、はい。それと楽譜なのですが、…私値段もわからずに来てしまったのですが楽譜の値段は…」
「そうだね。楽器と一緒でピンからキリまである。あとは曲数や作曲家によっても違うね」
「銀貨一枚で楽譜は買えますか?」
「買えるとも。こっちにおいで」


移動するマーギルについて行くと店内のカウンター横の棚にずらりと楽譜がぎっしりと詰まって並べられている。





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