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不器用な二人 1
しおりを挟む泡沫の揺蕩う意識の中。
ウルスナはふわふわする感覚と意識はぼんやり浮上したが目も開かず身体も動かないことを不思議に思いながら状況を思い出そうと試みる。
(私どうしたんだっけ―――)
思考が回らず上手くまとまらない。
「――――――丈夫です。この後は――――」
「俺の宮――――。ウル――――」
不意に耳に入ってきた微かな声。
ウルスナの大好きな人の低い声。
(―――大好き、な――声―――)
記憶が少しずつ合わさっていくような感覚にウルスナは集中していくと少しずつ脳内に構築されていく。
(馬車、で、―――)
そう。ウルスナは馬車に轢かれた。その前は。
(――ああ、…リノさんに抱きついた――)
思い出したくないことも思い出してしまいウルスナの心臓がぐぐっと苦しくなる。
すると眉間にさらりと触れる温かいもの。
すりすりと眉間に触れてから頬を包まれ、まるで宥めてくれているように擦ってくれるのをウルスナは息を吐きながら堪能する。
(気持ち良い、…これ、…リノさんなら良いのに)
起こり得ない願望を望む未だに愚かな自分に今度は目の奥が熱くなってくる。
(…泣いたって仕方ないのに。―――もう捨てられ――)
すると今度は目元から目尻にかけて温かい指が這わせられた。
その触れ方があまりに優しくて、ウルスナは心が潰れそうになる。
(あ、たまの、中なら…都合良いことを、考えても良い、よね?)
その手がリグリアーノだったらという都合の良い夢。
二度と触れられることのない彼の指。
ふわりと大事そうに抱き上げられる感覚に、ウルスナは身勝手にそれがリグリアーノであると思い込み、現状を思い知るまではこのままでいたいと……いっそのことこのまま目が覚めなければ良いと心から願ってしまう。
何かが開く音と閉まる音。
何かが動き出す音。
ウルスナは温かい何かに包まれながら、頬を撫で続けられている。
(意識無くなったら私…どうなるのかな…)
ウルスナは母の元に逝けるのだろうか。
道具として生きてきたウルスナは母と同じ場所には逝けないのだろうか。
その時。
温かいものが額に触れる。
額に、頬に、そして唇に触れる。
(嬉しい、夢…)
なんて幸せな夢だろう。
死に逝くウルスナへの最後のご褒美だろうか。
ぼんやりと記憶が甦ってくる。
あれだけ血を流したウルスナは助からなかったのだろう。
(…捨てられる前で、良かったのかもしれない)
あの後どうすれば良いかもう分からなかった。分かりたくもなかった。
(これで、良い)
ウルスナは何度も落ちてくる温かいものを享受しながら、ゆっくりと意識を沈めていった。
***************
「では―――――少しは―――――」
「―――目が覚めるまで――――」
「いい加減倒れ――――」
声が聞こえ意識が浮上してくる。
瞼がピクピクと動き今度は開いてくれた。
無意識に両手に触れ――――治った指も動いている。
視界に入るのは眩すぎない部屋の明かりと見たこともない豪奢な天井。
ウルスナは寝惚け眼の中、触れていた手に…あるものがないことに気づく。
「っ、す、―――鈴…」
「っ!ウルスナ…!」
すぐ傍から居るはずのない声。
呼ばれるはずのない名前。
ウルスナは声のする方に目を向けると、居るはずのない―――けど、居て欲しかった人物。
リグリアーノだ。
ウルスナは目を丸くして凝視してしまう。
「リ…ノ―――」
『道具ごときが名を呼ぶな』
脳裏に甦った凍えるようなリグリアーノの声を思い出したウルスナは勝手に口を閉じてしまう。
「り、ぐりあーの、様で、合ってますか」
「っ…」
言い直したウルスナにリグリアーノがぐっと眉を顰める。
それも駄目かとウルスナはしょんぼり目を伏せると、頬に温かみを感じた。
リグリアーノの大きな手がウルスナの頬を優しく包んでいるのを瞠目しながら見返す。
「リノ」
「っ…でも、」
「リノ。お前はそう呼んで良い」
「…リ、ノ…さん」
ウルスナがそう呼ぶとリグリアーノの眉が僅かに下がる。そしてずっと頬に触れている手が動き親指で頬を撫でる。
「私、馬車に…」
「…ああ」
「…どこも痛くありません。何故でしょう」
「キリウが治療してくれた」
「…」
キリウはウルスナの指を治してくれた治療魔術師だ。
ウルスナは夕方前に彼が指の様子を見に来ると言っていたことを思い出す。たまたま近くに居た彼がウルスナを助けてくれたのだろう。
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