貴方の道具として頑張ります

きるる

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不器用な二人 2

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「リグリアーノ様。起きられたので一度貴方も休息してください」
「着替えなどもしたいので」


後方から聞こえたのはウルスナも良く知る声。湯気の立つ盥を持ったヘレンと服を持ったジッロだった。


「起きたばかりだ」
「あとは体力回復だけだと言われているので取り敢えず少しは大丈夫ですよ」
「少し休みを摂ってください」


リグリアーノは返事をせず、ヘレンから盥を奪い取り湯で布を濡らしウルスナの顔を拭いていく。その拭き方が物凄く優しくてウルスナは戸惑ってしまう。

拭き終わった後も無言でウルスナの頬を撫でている。

兄妹が同時に長い溜息を吐いたので状況が良くわかっていないウルスナだが、疲れているだろうリグリアーノに話しかけた。


「あの…少し休んだほうが、良いと…お二方が言っているのでそうした方が良いのかなと、思います」


リグリアーノはじっとウルスナを見ながら眉を下げたり、ちょっと不機嫌そうな顔をしたりと珍しく表情がころころ変わる様子に驚いてしまう。

暫くそれを続けたあと、さらりと頬を撫で「湯だけ浴びてくる」といってリグリアーノは手を離して部屋を出て行った。


「やれやれ。ようやくだわ」
「丸二日間付きっきりだったからね」


二人の兄妹が肩を竦めながら動き始めるのを見ながら、何だかどうなっているのかわからないウルスナはしきりに首を捻っていると、ふと頭上―――豪華な天井から身に覚えのある気配を感じ、ウルスナはヒュッと喉を鳴らした。


「どうしました?」
「…い、え…あの」


ヘレンの問いに部屋に居た時に感じた『あれ』の気配をどう説明したら良いのかウルスナは悩みながらも上から目を離せない。

こんな豪華で綺麗な場所に『あれ』がいるはずがないと思っていると、その気配が落ちてくるような錯覚に陥り、「ちょ…!驚かせないでくださいよ!」とジッロが慌てる声が聞こえ、そっちを見ると真っ黒な人が居た。

黒一色の装いに口元にも黒の布。ぼさぼさの髪は目元も隠れるくらいだが、僅かに見えた瞳は紺色と水色の二色でウルスナは目を瞠る。


「害虫じゃないよー」


ウルスナは目を丸くして、咄嗟にあの時のことを思い出した。


「っ、あ…あの、時の気配…?」
「そーそー。ちょっとよろしくない気配出したら必死に害虫だって威嚇してきたよねぇ」
「!す、みませんっ…まさか―――」
「いーよいーよ。俺害虫じゃなくてリューイ、ね」


気にしてないはずの口から連呼される『害虫』に本当にそうなのだろうかと思わずにはいられない。


「初め、まして…」
「うん。お前達さー起きたばかりで何がどうなってるかちゃんと説明してあげないと訳わからない状態のままだろ」
「…今から説明しようとしていたけど」
「これから順序立ててと思っていましたけどね」


兄妹二人が同時に答えるのを「はいはい」とリューイが手を振りながら近くにあった椅子の背凭れ側を前に向け腕を乗せながら座る。


「じゃあ、俺から嬢ちゃんがわかりやすいように話してあげるー」


リューイの言葉にウルスナは目をぱちりと瞬きする。


「っ、はい。よろしくお願いします」
「うん。まず嬢ちゃんが見たあの胸糞な場面。あれは低能雌の独り善がり。婚約者候補なんて存在したこともない。でまかせ」
「でまかせ…?」


マリカが言っていたことは全部嘘だということだろうか。


「俺すぐに近くに居たから。あの雌が嬢ちゃんを見てわざと躓く振りして抱き着いた。嬢ちゃんが逃げたあとふっ飛ばされてる」
「ふっ飛ば…」


令嬢をふっ飛ばして大丈夫――――王子だから許されるのだろうか。


「うん。それとさ。ここは第三王子の宮殿」
「っ…」


綺羅びやかだとは思っていたがまさかの場所にウルスナは呆然とする。


「そしてそのオウジサマは捻くれ者で天邪鬼」
「あまのじゃく…」
「思ったことと反対の行動をしがち。へそ曲がりともいう」
「へそまがり…」


リグリアーノはいつも少し不機嫌そうな感じを前面に出してウルスナに対していつも煩わしそうにしていた―――のにさっきは何故か違った。


「多少は今回のことで解れたかもしれないけど、根っこがそうだから早々簡単には治らない。素直になるあいつを少なくとも俺は見たことがないねぇ」


リューイの言葉にウルスナは俯いて考える。

確かにリグリアーノが朗らかに穏やかに微笑む様子を見た記憶は無い。

しかしウルスナはそんなリグリアーノの顔や態度が嫌いではない。
寧ろ好きなのだ。

むすっとしてつれない言葉のリグリアーノでも全然構わない。

要はリグリアーノなら何でも好きなのだ。


「何か言いたそうだねぇ。言ってご覧」
「リノさんの…怖い顔も怒る顔も困る顔も、冷たくても、…あまのじゃく?でも何でも、リノさんなら、良いです」


ウルスナの言葉にリューイは背凭れに置いていた肘がずるりと落ち、ジッロは何故か目元を覆い、ヘレンはすっと背を向けて肩を震わせている。


あの不機嫌そうな顔も。
かったるそうな表情も。
そんな顔をしながらちょっとした優しい仕草も。


しかし。

今のウルスナは道具として終わりだと言われている。
大怪我をしたから今ここに居るだけなのかもしれない。

道具は人のように想っては、ならない。

ウルスナは真っ暗な未来を考え目を伏せた。





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