貴方の道具として頑張ります

きるる

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不器用な二人 3

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「嬢ちゃんが馬車に轢かれた後」


リューイの口調が変わった。


「嬢ちゃんを見つけたあいつは何度も嬢ちゃんの名前を叫んで必死に苦手な治療魔術を施していた」
「え…」
「治療魔術師が到着したが、嬢ちゃんの損傷が酷くて魔力が足りなくなった時、考える間もなく自分の腕を噛み切って血から摂取させようとしたくらいだ」
「…ぇ」
「俺が間に合って装飾品を渡したから、それは避けられたけど」


腕を傷つけなかったことにウルスナは胸を撫で下ろす。


「それくらい嬢ちゃんが死んでしまうことが耐えられなかった。これがどういうことかわかるかい?」


リューイの言葉にウルスナの頭には一つのことしか思い浮かばない。


「道具として、まだ使える価値が、あったからでしょうか…」
「まあそうなっちゃうよねぇ。でも道具にああして頬を撫でるのかなぁ」


そう言われてもウルスナにはわからない。


「しゃーないよなぁ…でもあいつが上手く出来るとも思えねぇしなぁ」


リューイは溜息を吐きながら「面倒なオウジサマだなぁ」とぼやきながら、ふと思いついたようにウルスナを見た。


「嬢ちゃん」
「…はい」
「お互い見えなかったら言いたいこと言えそうだと思わない?」
「見えない…言いたいこと…」
「うん。そしたら何か先が変わるかもしれないねぇ」


リューイは椅子から立ち上がり「あとは嬢ちゃん次第ー」と言い、その場から居なくなった。


「言いたいことだけ言って消えたわね」
「でも珍しいことだよね」


ヘレンとジッロが呟く。その後ウルスナは着替えをさせてもらい、暫く固形物は控えるとのことで、粒無しのコーンスープと栄養剤を飲んだ。

その間にもウルスナはリューイの言葉を反芻する。


(見えないと言いたいこと…――――あ)


ここでウルスナは固まった。


(目隠ししている時はリノさんだとわからなかったからある程度言いたいことを書いて会話していた。…もし今それをやったとしたら…リノさんも、私も、言いたいことが言える?)


ヘレンとジッロが一度部屋から出て行った後、ウルスナは寝台の隣に置いてあった乾いた布を取った。

それで目元を縛る。

視界を遮断すると耳が冴えてくる。
少しすると足音が聞こえ扉の開閉の音と「…何やってんの、お前」と訝しげな口調のリグリアーノ。

休まなくて良いのだろうかと思ったが、ウルスナは口に出さずに動くようになった右手の人差し指を左手の手の平に当てて文字を書く仕草をした。

暫くの沈黙の後、足音が近づき寝台端に座るウルスナの隣が沈んだ。

ウルスナは意を決して人差し指をリグリアーノに差し出してみる。
すると人差し指の先に温かい―――リグリアーノの手の平を感じ、それだけで歓喜が沸き起こる。

今後ウルスナがどうなるかはまだ何もわからない。

リューイが言った言葉の真意はわからないが、ウルスナがこうしてリグリアーノに触れられるのも、言葉を交わすのも、最後かもしれない。

それならちゃんと会話をしたい。

ウルスナはすっと指を動かした。


『命を救ってくれてありがとうございます』


文字を書くと、少ししてからウルスナの手の平に温かい指が当たる。だがそのまま動かない。ウルスナは目隠しを良いことにリグリアーノの手を包むとピクッと動く。


(温かくて…大きな手)


ウルスナの大好きな人の手。
振り払われても良いという気持ちで優しく擦るが、拒否されないことにこの上ない幸せな気持ちになる。

するとゆっくりとその手が動き始めた。


『心臓が止まりそうだった』


その言葉にウルスナの心臓が止まりそうになる。

リグリアーノの言葉の意味をウルスナは正確に受け止められる自信は無い。

学びはしても経験もほぼ無くまだ無知のままに近いと、ウルスナは指を動かす。


『迷惑をかけてごめんなさい。私は常識が無いので普通の人より相手の気持ちがわかりません。わかりやすく書いてもらえると嬉しいです。私も思ったことを書きます』


ウルスナの文字に今度はリグリアーノがするりと手の平を撫でてくれ、ピクリと反応してしまう。





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