貴方の道具として頑張ります

きるる

文字の大きさ
109 / 157

不器用な二人 5

しおりを挟む





「ウルスナ」


目の前に居る大好きな人から呼ばれた名前。

内心ずっと呼んでもらいたかった名前。

道具なんだから呼ばれることはないはずの名前。


「な、まえ…?」
「うん。ウルスナ」
「っ…」


また呼ばれる。
直撃で心に届いて震える。
心に響いて嬉しいのに苦しくなる。

視界が一気に熱くなり歪む。


「わ、私は、道っ―――」
「道具はもう終わり」
「っ、道具終わっちゃった、ら―――っ」
「道具でなくなったらウルスナは俺の傍から離れるの?」


何でそんなことを聞くんだろう。

それしかウルスナの価値はないのに。


「耐、性っ…しか取り柄、な」
「あるよ」
「な、ない…何、も…」
「ある。頬に詰め込んで必死に食べる可愛い顔も、じっと見つめる綺麗な群青色の瞳も、俺が居るとすぐに眠るところも、俺みたいな捻くれ者に一心に…真っすぐ向ける全ても――――俺と性交してるって想像してあそこまで感じるいじらしいところも」


ウルスナは涙が止まらなくなる。
何でリグリアーノはウルスナに都合の良い夢のようなことばかり並べるのだろう。

そんな風に言われたら人みたいに調子に乗ってしまいたくなるではないか。

そしてそんなわけないのだと絶望してしまうではないか。


「嬉しくてブサイクになる顔も……俺があげたものを後生大事にしているところも」


ちりん、と鳴る音にウルスナはハッと目を瞠る。リグリアーノの懐から取り出されたのはウルスナが死に物狂いで取り戻した鈴のはずなのだが。


「鈴っ――…?紐、が」
「付け直しておいた」


ウルスナの手の平にころんと転がった鈴がちりりんと軽やかな音を立てる。

鈴には綺麗な紅色の紐が付けられていた。

ちりんちりんと鳴る鈴にウルスナの頬がぐいっと左右に引き攣れる。


「…ブサイク」
「はい。ブサイクです」


リグリアーノのブサイクは全然良い。寧ろ何だか嬉しい。

すっと体が浮きウルスナは目を丸くしながらも手の中の鈴をしっかりと掴む。

すとんと座ったところはリグリアーノの膝の上だ。


「でもその顔が俺は何か好き」
「!」
「ブサイクな顔もそうでない顔も。ウルスナが好き」
「!!」
「俺とずっと一緒に居たら頬がそうなる確率も高くなるの?」


好きという言葉にウルスナの心がおかしくなるくらい鼓動が速くなるが、聞かれたことに何とか正直に答える。


「嬉しい、と勝手に動きます。…リノさんといたら沢山動き、ます」
「そんなに動くくらい俺のこと好きなの?」
「っ…好き…?」
「うん。俺のこと好きなの?」


膝の上に乗せながらウルスナの頬を撫で背中を擦りながらリグリアーノが少し意地悪そうな表情をしてくる。

さっきリグリアーノはウルスナに向かって好きという言葉を言っていた。

ウルスナも伝えて良いのだろうか。


「…道具、で―――」
「道具はもう終わり。俺は目の前にいるウルスナという人に聞いている」
「…」


言って良いのだろうか―――言いたい。言ってしまいたい。

一度だけでいいから。人として言いたい。


「冷たくても、意地悪でも、…不機嫌そうでも、面倒臭がられても…リノさんの全部、…ずっと好きで、全部が好きでしか…ないです」
「…」
「道具でも、何でも、良いんです、どんな形でも良いから、…好きなリノさんの少しでも近くに居られれば、それで良くて」


もうこうしてちゃんと話せるかどうかも分からないと、ウルスナは今までの想いを全部言ってしまいたくなった。


「好きなリノさんの役に立てれば、私はそれだけで嬉しくて幸せで、ほんの少し会えるだけで、好きだといつも心が嬉しくなるから、それだけで十分で、好きになれたことがとても幸せだってずっと思い、ます」
「…」


頑張って言い終わったウルスナは知らぬ間に俯きながら鈴をむにむにと弄っていた。顔を上げるとそこには目元を覆ったリグリアーノ。

耳は真っ赤だ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。 *こちらは元の小説の途中に、エピソードを追加したものです。 文字数が倍になっています。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

私たちの離婚幸福論

桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

処理中です...