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不器用な二人 5
しおりを挟む「ウルスナ」
目の前に居る大好きな人から呼ばれた名前。
内心ずっと呼んでもらいたかった名前。
道具なんだから呼ばれることはないはずの名前。
「な、まえ…?」
「うん。ウルスナ」
「っ…」
また呼ばれる。
直撃で心に届いて震える。
心に響いて嬉しいのに苦しくなる。
視界が一気に熱くなり歪む。
「わ、私は、道っ―――」
「道具はもう終わり」
「っ、道具終わっちゃった、ら―――っ」
「道具でなくなったらウルスナは俺の傍から離れるの?」
何でそんなことを聞くんだろう。
それしかウルスナの価値はないのに。
「耐、性っ…しか取り柄、な」
「あるよ」
「な、ない…何、も…」
「ある。頬に詰め込んで必死に食べる可愛い顔も、じっと見つめる綺麗な群青色の瞳も、俺が居るとすぐに眠るところも、俺みたいな捻くれ者に一心に…真っすぐ向ける全ても――――俺と性交してるって想像してあそこまで感じるいじらしいところも」
ウルスナは涙が止まらなくなる。
何でリグリアーノはウルスナに都合の良い夢のようなことばかり並べるのだろう。
そんな風に言われたら人みたいに調子に乗ってしまいたくなるではないか。
そしてそんなわけないのだと絶望してしまうではないか。
「嬉しくてブサイクになる顔も……俺があげたものを後生大事にしているところも」
ちりん、と鳴る音にウルスナはハッと目を瞠る。リグリアーノの懐から取り出されたのはウルスナが死に物狂いで取り戻した鈴のはずなのだが。
「鈴っ――…?紐、が」
「付け直しておいた」
ウルスナの手の平にころんと転がった鈴がちりりんと軽やかな音を立てる。
鈴には綺麗な紅色の紐が付けられていた。
ちりんちりんと鳴る鈴にウルスナの頬がぐいっと左右に引き攣れる。
「…ブサイク」
「はい。ブサイクです」
リグリアーノのブサイクは全然良い。寧ろ何だか嬉しい。
すっと体が浮きウルスナは目を丸くしながらも手の中の鈴をしっかりと掴む。
すとんと座ったところはリグリアーノの膝の上だ。
「でもその顔が俺は何か好き」
「!」
「ブサイクな顔もそうでない顔も。ウルスナが好き」
「!!」
「俺とずっと一緒に居たら頬がそうなる確率も高くなるの?」
好きという言葉にウルスナの心がおかしくなるくらい鼓動が速くなるが、聞かれたことに何とか正直に答える。
「嬉しい、と勝手に動きます。…リノさんといたら沢山動き、ます」
「そんなに動くくらい俺のこと好きなの?」
「っ…好き…?」
「うん。俺のこと好きなの?」
膝の上に乗せながらウルスナの頬を撫で背中を擦りながらリグリアーノが少し意地悪そうな表情をしてくる。
さっきリグリアーノはウルスナに向かって好きという言葉を言っていた。
ウルスナも伝えて良いのだろうか。
「…道具、で―――」
「道具はもう終わり。俺は目の前にいるウルスナという人に聞いている」
「…」
言って良いのだろうか―――言いたい。言ってしまいたい。
一度だけでいいから。人として言いたい。
「冷たくても、意地悪でも、…不機嫌そうでも、面倒臭がられても…リノさんの全部、…ずっと好きで、全部が好きでしか…ないです」
「…」
「道具でも、何でも、良いんです、どんな形でも良いから、…好きなリノさんの少しでも近くに居られれば、それで良くて」
もうこうしてちゃんと話せるかどうかも分からないと、ウルスナは今までの想いを全部言ってしまいたくなった。
「好きなリノさんの役に立てれば、私はそれだけで嬉しくて幸せで、ほんの少し会えるだけで、好きだといつも心が嬉しくなるから、それだけで十分で、好きになれたことがとても幸せだってずっと思い、ます」
「…」
頑張って言い終わったウルスナは知らぬ間に俯きながら鈴をむにむにと弄っていた。顔を上げるとそこには目元を覆ったリグリアーノ。
耳は真っ赤だ。
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